厳しい自然環境の中で子供たちのための教育に取り組んでいます img1_1.jpg
モンゴル国オブス県マルチン郡小中学校  
国語教師 T.ノロフ


 皆さんこんにちは。本日はこのように多数の方に集まって頂き、本当にありがとうございます。
 私は、オブス県マルチン郡の小中学校で国語の教師をしていますノロフと申します。今回はマルチン郡の小中学校から、私を含め3名の教師が日本を訪問することになりました。このような機会を与えてくださった神鋼環境ソリューション労働組合の皆さんに心から感謝申し上げたいと思います。
 今日ご参加の皆さんの中には、これまでの図書贈呈団メンバーとしてマルチン郡に来られたことのある方がいらっしゃると思います。またその方たちからマルチン郡の話を聞かれてよく知っている方もいらっしゃると思います。
 マルチン郡は、モンゴル国の首都であるウランバートル市から西へ1300キロメートルのところにあります。またオブス県の中心地から120キロメートル離れていて、整備された道路はなくもちろん公共交通機関はありません。夏は草原を、冬は雪原を四輪駆動の車で数時間かけて移動します。積雪の多い時期や雪融けの時期は往来が不可能になります。
 今回、私たちはまずオブス県の中心地へ移動し、そこからウランバートルへ長距離バスで移動しようとしました。しかし、ウランバートルへ向かう途中で積雪のためバスが峠を越えられないなどのアクシデントがあり、県の中心地まで引き返すことになり、国内線の飛行機でウランバートルまで出てきました。何日もかかってウランバートルまで出てきたことを考えると、ウランバートルから神戸まではたった一日で来ることができたことは驚きでした。



マルチン郡はモンゴルの北西にある小さな寒村


 数年前に神鋼環境ソリューション労働組合の皆さんが6月にマルチン郡へ来られたにもかかわらず、大雪が降ったことを覚えているでしょう。マルチン郡は、世界遺産にも登録された大きな塩水湖であるオブス湖と、その南に位置する淡水湖のヒャルガス湖の間にあります。冬はマイナス45度というモンゴルでも最も寒い地域ですが、夏になると最高気温が40度になることも少なくありません。年間の温度差が大きく厳しい自然環境ですが、とても自然の美しいところです。家畜の遊牧に適した大草原から山岳地帯へと続き、オブス湖周辺には、湿地帯もありますが、すぐとなりには広大な砂漠もあり、様々な自然が同居した世界的にも珍しい地域です。こうしたことから世界遺産にも認定されました。
 マルチン郡は、1925年に設立されました。人口は2400人で、610の家族がいます。多くの郡民は、家畜とともに季節に応じて移動しながら暮らす遊牧民です。家畜は羊や山羊が多く、現在は人口よりもはるかに多い11600頭が飼育されています。
 郡の中心地ですら電気の送電が始まったのは2007年からです。おかげで家具作りなどの個人事業者も増えて遊牧以外の産業も発展しだしたところです。2002年に神鋼環境ソリューション労働組合の方が初めてマルチン郡に来られたときは、電気もなく、携帯電話もつながらない状況でしたが、今ではテレビを見ることもできますし、携帯電話も通じるようになり、インターネットが使えるようにもなりました。こうしたことからモンゴル国内だけではなく世界の情報がタイムリーに入手できるようになりました。もちろんインターネットは学校教育の現場でも活用されるようになりました。
 これから、私たちの学校のことについて少し説明を致します。私が教師をしているマルチン郡小中学校は1940年に設立されました。現在、小学校で275人、中学校で230人、合計505人の子供たちが勉強しています。また29人の教師と27人の従業員が働いております。
 先ほどもお話ししたように、子供たちの親は広大な草原で遊牧民として暮らしているため、毎日学校に通学することは難しい状況にあります。そこで子供たちの多くは、学校の寮や学校の近くに住む親戚の家で暮らしています。6歳から小学校に入学することになりますが、幼い子供が親から離れて暮らすことはとても大変なことだと私たちも感じています。こうした子供たちのサポートも教師の大切な仕事になります。



マルチン郡の先生たち


 授業が始まるのは9月で終わるのは6月です。また春は家畜の出産時期で、子供たちがその手伝いができるように春休みを一番長くとっています。もちろん夏の間も子供たちは親元に帰って家畜の世話などを行います。最近、家の手伝いに時間をとられて学校に通わなくなる子供が増えてきました。私たち教師はその子供のゲルまで家庭訪問をして勉強を教えることもあります。そうした家庭の親たちに学校に通う大切さを教えることも教師としての重要な役目になっています。



子供たちの朝は水くみから始まります。
ソリでタンクを運ぶ少年たち


姉妹で力を合わせて薪切りのお手伝いを

 私たち教師の多くも、自分たちの生活を補うために家畜を飼っています。近年モンゴルでは、インフレによる物価上昇に賃金アップが追いつかず庶民の暮らしは苦しくなっています。またウランバートル周辺への人口集中などにより都市部と郡部との格差が大きくなってきています。こうした影響は、地方の教育現場にも影響を及ぼしています。
 このような中、神鋼環境ソリューション労働組合の皆さんによる図書などの贈呈は、私たちにとって大変役立つものであり、子供たちの教育のために大いに役立つものとなっています。私たちはその図書を大切に使い、より多くの人に読んでもらえるよう努力をしています。
 今回、私たち三人の教師は、「大好きなモンゴル展実行委員会」の企画により、小中学校をはじめとして多くの教育施設の視察を行うことができました。この経験を生かしてこれからも子供の教育のために頑張っていきたいと決意しています。
 今年の5月には4度目の図書贈呈団の皆さんがマルチン郡に来られる予定であると伺っています。皆さんの訪問を心から歓迎しお待ちしております。最後に、皆さんに心から感謝申し上げるとともに、これからの益々のご成功をお祈り申し上げます。



神鋼環境ソリューションから贈られた書籍が並ぶ図書室