「あなたとは何か? 環境とは何か?」 |
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神戸市立須磨海浜水族園 園長 亀 崎 直 樹 |
はじめに |
みなさん、ようこそ須磨海浜水族園にお越し下さいました。今日は、夜の水族園で大いに楽しんでください。水族園をご覧いただく前に、少し楽しくてアカデミックな話をしてもらいたいとの要望を受けたので、「あなたとは何か?環境とは何か?」というテーマで話をさせていただきます。 |
研究員としての生活のスタート |
そうして車掌勤務を黙々とこなしていた中で、水族館の仕事がしたいと願い続けていた情熱が伝わったのか、沖縄の八重山諸島にある(財)海中公園センター八重山研究所に研究員として出向するという話が持ち上がり、家族で八重山まで移り住むことになりました。 |
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ちなみに、この(財)海中公園センターは2002年3月に約30年間にわたる研究の役割を終え幕を閉じましたが、この研究所に限っては各方面から存続の要望が出され、NPO法人日本ウミガメ協議会がその活動を引き継いでいます。そして、2004年からは黒島研究所に改名し、これまでの調査・研究活動に加え、教育・普及活動への更なる重点化と、研究者や学生の他、一般社会人や子供たちの利用を促すことにより、一層の地域への貢献を目指しています。 |
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NPO法人日本ウミガメ協議会の設立へ |
意気揚々とウミガメ研究者の道の第一歩を踏み出したのですが、ウミガメという生き物は大海原に生息しており、その研究というものは研究機関という組織を離れると非常にお金がかかるということが分かり、十分潤沢にあったと思っていた蓄えも徐々に目減りしてきたことから、何か生活の糧を得る手段を講じなければ家族が飢えてしまうという危機感を持ち、一時期は塾の講師などで賃金を稼ぎながら、ウミガメ研究を続けました。この塾の講師というのはなかなか割の良い職業で、授業の時間を研究に当てることができ、なおかつ金銭的にも実入りの良い職種で、結果的にこの塾の講師時代が一番たくさんの給料を得ていたかもしれません。 |
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環境変化に気づかされた砂浜の変化 |
ここで、3枚の写真を紹介しましょう。これは、わたしが定期的に訪れて毎日のように歩いていた海岸の写真です。変わった形の岩で分かるように、3枚とも同じ場所で同じアングルから撮影した写真ですが、明らかに海岸線が違っていることが分かると思います。潮の満ち引きで、このようになっていると見えますが違います。実は、これは海岸線が後退してきているのです。 |
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環境とは? |
さて私個人の話はここまでにして、これからは、「あなたと環境」という切り口で考えていきたいと思います。 みなさんは、神鋼環境ソリューションという企業にお勤めのエンジニアたちですが、みなさんにとって環境とはどういったものでしょうか? (会場より、「水質汚染!」の声) 水質汚染という声がありましたが、ずいぶんと硬直的な意見ですね。みなさんは若いのだから、もう少し柔軟な発想で物事を考えないといけないですね。
こうした分類から分かる通り、「生態系」とは「生物+環境」であり、「生物」と相対するものが「環境」ということなのです。つまり、環境には生物という概念は含まれないということなのです。 すなわち「環境とは?」という問いに対する答えは、『森羅万象の内、生物以外のものを指す』のです。 |
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ここで言う森羅万象とは、生物学的には生態系と言い換えることができ、生物群集(Community)+環境(Environment)ということです。 |
ここで階層の話に戻りますが、あなたという存在は「あなた個人」と思いがちですが、心臓という器官もあなたであり、細胞もあなたなのです。反対に目を向ければ、家族もあなたであり、国家もあなた、そして生態系もあなただと言えるのです。 |
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階層別の闘争例 |
ここで、階層別の闘争について、分かり易い例を紹介しましょう。先ほど黒島の生活で話をした通り、私には妻がいます。結婚した当初は、この妻と価値観の違いでよくケンカをしました。私は水族館に勤務しています。常に魚を扱う仕事であり、必然的に生臭いにおいが身体にこびりついています。この臭いに釣られて、ハエが寄ってくるのですが、仕事から帰宅するとそのハエが私について家の中に入ってきます。すると奥さんは、私に勢いよく殺虫剤を振りかけてくる。私の方は「何で帰って来るなり、旦那に殺虫剤を振りかけるのだ!」とケンカになるわけです。 |
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ま と め |
環境ソリューション企業の若手社員ということで、少し取っつきにくい話もさせてもらいましたが、最後にこれまでの話のまとめとして3つの観点を紹介し、今回の話を終えたいと思います。 |
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講師プロフィール 亀崎 直樹 須磨海浜水族園 園長 1956年愛知県豊橋市生まれ。1979年鹿児島大学水産学部卒業後、名古屋鉄道株式会社に入社し、水族館の企画運営に携わった後、財団法人海中公園センター八重山研究所に研究員として出向。その後、京都大学大学院人間・環境学研究科で学位を取得。現在は、神戸市立須磨海浜水族園園長、NPO法人日本ウミガメ協議会会長、東京大学大学院農学生命科学研究科客員教授、京都大学大学院地球環境学舎特任教授などを兼務する。専門はウミガメを中心とした海洋生物学。特にウミガメの生物学とそれを取り巻く環境の成り立ちを明らかにすること。市民を含む多くのヒトが関わってウミガメの生態を解明するジグソーパズル型の学問スタイルが構築できないかと考えている。趣味は地方のひなびた飲み屋街で昔話を聞きながら飲むこと。主著に「イルカとウミガメ」(岩波書店)、「現代を生きるための生物学の基礎」(化学同人)などがある。 |