エメックス8への参加、並びに
中国エコプロジェクト視察報告
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神鋼環境ソリューション労働組合 
副執行委員長 丸 井 純 平


はじめに

 財団法人ひょうご環境創造協会が主催する『第8回世界閉鎖性海域環境保全会議(EMECS8:エメックスエイト)並びに中国エコプロジェクト視察ツアー』へ参加しました。
 中国では、高度成長に伴い深刻な環境問題に直面しており、水環境問題においても、国境を越えた影響が危惧されています。最近では日本も東シナ海でエチゼンクラゲの大繁殖など、なんらかの影響が顕在化してきました。このような中、井戸兵庫県知事が理事長を務めるエメックス(EMECS)会議が、第8回となる今回は上海で開催されることとなりました。会議には世界各国から人々が集まり、水環境の問題について情報交換が行われることとなります。
 今回のツアーでは、エメックス会議へ参加して各国の方々と情報交換を行うとともに、兵庫県が長年交流を深めてきた広東省での環境先進企業などの中国の環境対策状況の視察や、中国の歴史文化に接することを目的として、上海~香港~広東省を巡ることとなっています。
 このツアーにより、今後の環境貢献活動に役に立つ体験ができると考え、参加することとなりました。


視察日程

10/26 関空→上海へ移動~EMECSナイト参加
10/27 EMECS8参加~歓迎レセプション
10/28 上海→香港へ移動 ~エコ・アジア・エキスポ視察
10/29 香港→江門へ移動 ~江門市循環経済モデル基地視察
10/30 江門→広州へ移動~広州→関空移動



上海市の事情

 上海市は人口約2,000万人と中国で2番目に人口の多い都市です。その内、3分の1を占める約650万人は他の地域からの出稼ぎ労働者として移入してきています。ちなみに、中国の都市で1番人口の多いのは重慶の約3,000万人であり、首都である北京は約1,600万人と、第3位の都市です。これら大都市は経済の発展が著しい所ですが、やはり上海は中国経済の中心地として発展著しく、訪問時の話では日本人の滞在者が5万人もいるとのことでした。
 臨海部にある空港から市内中心部までは約30キロ離れており、通常はバスで40~50分程度で移動します。現在はリニアモーターカー(中国語では浮磁)もこの区間を走っています。最高速度431キロ、移動時間7分で無人運転されており、今回のツアー参加者18名も旅行会社へ無理を言って乗車させてもらいました。


リニアモーターカー

 市内は、世界第2位の高さを誇る上海環球金融中心(森ビル・101階建てで高さ492m)をはじめ超高層ビルが林立する浦東新区、デパートが立地し、海外からの観光客や若者で賑わう新天地区、昨年の北京五輪でのサッカー予選会場となった8万人収容の上海スタジアムがある徐家寧地区など、市内の各地区を環状道路と地下鉄が網の目状に結んでいる、とても大きな都市でした。2010年の上海万国博覧会開催に向け、市内各地で更なるビル建設が進んでいます。その影響が大きいのでしょうが、空は常に霞んでいて2泊3日の滞在中、青空を一度も見ることはありませんでした。また、町中では一歩外れると古い民家や青空市場も依然として残っている一方で、乗ったタクシーのラジオから邦楽が流れたり、街中にはラーメンチェーン店やファミレスといった日本で見慣れた景色もあったりと、初めての中国上陸の私にとっては何とも言えない不思議な光景が印象に残りました。


エメックスエイト

 上海到着日の夜、エメックス会議の前夜祭(懇親会)である「エメックスナイト」へ私たち視察団一行も参加しました。この懇親会は日本からの会議参加者を中心に約200名が集い、冒頭に井戸知事、国際エメックスセンターの茅会長の挨拶で始まりました。ライトアップされた上海の夜景を見ながら初めての本場中華料理を食べ、ツアー参加者のみなさんとの最初の懇親の場となりました。
 翌日、宿泊場所兼会議会場となった徐家寧地区のホテル・上海光大国際大酒店にて、朝9時より会議が開催されました。
 このエメックス会議とは、瀬戸内海や地中海、中国の渤海など世界各地の閉鎖性海域(内海)での水質汚染対策、漁業資源の保全を目的とした国際会議です。1990年に第1回会議が神戸で開催され、以降アメリカのボルティモア、スウェーデンのストックホルム、トルコのアンカラ、タイのバンコク、フランスのカーンなど、約2年毎の開催を経て今回が第8回目の上海大会となったものです。冒頭に述べたように、国際エメックスセンターの理事長を井戸兵庫県知事が務め、更にセンターの立地は神戸市(HAT神戸の国際健康開発センタービル)である為か、前夜のエメックスナイト同様に日本人が全体の約7割を占める、約200名の出席者がいました。エメックスセンター理事長であり、センター立地場所の知事として、会議冒頭に井戸知事より挨拶があり、「瀬戸内海は瀕死の海と言われていたが、沿岸地域の自治体と連携を取りながら水質改善に取り組み、豊かな美しい里海として再生した」といった内容のお話でした。環境保全の先進的な取り組みがなされている内海として、身近な瀬戸内海がこのような国際会議で注目されていることを改めて認識しました。瀬戸内海に面する神戸は、このエメックス会議の二度の開催地ともなっています。
 会議終了後、歓迎レセプションパーティーが同会場で開催されました。上海にある華東師範大学の学生による楽器演奏や演劇ショーがパーティーの開会から終了するまでの約2時間にわたり、昨年の北京五輪の開会式を思い起こさせる壮大な演出でした。パーティー終了後、今回のツアー参加者と井戸知事との懇親会が開催され、井戸知事からは、当ユニオンのモンゴルとの交流や環境活動などの社会貢献活動に対する労いのお言葉をいただきました。


上海光大国際大酒店

エメックス会議会場

霧がかった上海市内


香港の環境事情

 1980年代まで香港は製造業を中心とした工業で発展してきましたが、1990年以降は金融などのサービス産業へ業態を移行しました。それまで発展してきた製造業は、香港の対岸に位置する広東省珠江デルタ地域(広州、江門、深圳等)へ工場を移転させました。以降、経済成長率は世界でもトップクラスに位置し、中国返還後も継続して世界経済自由度ランキング・14年連続1位との実績があるようです。この経済自由度ランキングとは、いかに政府が企業の経済活動に介入・規制していないのかを評価するものであり、香港はまさに自由経済の代表格としてトップに君臨していたと言えるものでした。その一方で、香港企業8万社、約10万もの数の工場が移転した広東省珠江デルタ地域は、環境汚染が著しく拡大したことは言うまでもないのですが、この大気汚染の影響は珠江デルタ地域だけに留まらず、やがて香港にまで広がってきます。香港と言えば「100万ドルの夜景」ですが、その夜景をきれいに見ることが出来るのは、1年365日の3分の1程度の日数に留まっているとの直近データもあり、香港の夜景ビジネスの大きな収入減となっています。さらに、アジアでも屈指の金融センターと位置付けられてきた香港ですが、この環境汚染の影響を受けて欧米の金融機関が香港からシンガポールへと拠点を移しつつあり、深刻な経済ダメージが発生している状況にあります。これに対し、香港政府は広東省と協力し合いながら、これまでの自由経済に逆行する形にはなるものの、「クリーン生産・パートナーシップ計画」との政策を新たに打ち出し、香港政府が企業に対して補助金を出して環境保全させることが決定しました。今回視察したエコ・アジア・エキスポは、珠江デルタ地域への日本の環境先進企業の進出を促す目的で開催されているものでした。


上海市内の様子

100万ドルの夜景(香港市街)


エコ・アジア・エキスポ

 この展示会は、香港貿易発展局が主催する環境見本市の第4回目として、環境測定・環境管理技術、省エネ製品の紹介など130社が出展していましたが、日本企業の出展は非常に少ないとの印象を受けました。香港政府のクリーン生産・パートナーシップ計画について香港貿易発展局の職員より約1時間の説明を受けた後、展示会場を視察しました。会場では、香港政府と相互協力関係の覚書きを締結した川崎市(阿部市長ほか)、および川崎市に事業所を置く日本有数の企業によるプレゼンの場が設けられていました。歴史的に公害問題で苦労した川崎市は現在、THINK(Techno Hub Innovation Kawasaki)―環境技術による国際貢献の推進―との方針を掲げ、市内に所在する企業や研究都市と連携した取り組みを行っています。この2月のエコテクノフェア開催を中心に香港との企業間交流をさらに推進させたいとの説明がなされていました。
 夕方より、香港貿易発展局が主催する日本企業との懇親パーティーがありました。本来は川崎市内からの日本企業参加者を中心として企画されていましたが、私を含めた4名が参加させていただき、香港企業数社に対して当社の会社概要・メニュー紹介などを行いました。立食パーティー形式であり、英語には全く自信の無い私は、通訳を引き回しながら手当たり次第に話しかけていきました。相手に具体的な内容までは理解していただけなかったかもしれませんが、名刺をお渡しした際に「神鋼環境ソリューションのことは知っています。」とのお話が数多くあったことが非常に驚きであったと共に、うれしく感じました。逆の見方をすれば、それだけ中国や香港では環境問題を重要視しており、先進的な技術を保有する日本企業を注目しているのだろうと感じました。


エコ・アジア・エキスポ会場


江門市経済貿易局循環経済交流会


江門市の双水発電所
  ツアー4日目の朝に香港を出発後、再び中国本土への税関を越え、バスで約4時間かけて江門市へ到着しました。その移動中、高速道路を走っても走っても見える景色はバナナ栽培畑と淡水魚の養殖池が広大に広がる農村風景でした。緯度で言えば台湾よりも南に位置しており、当日も気温が30度を超える暑苦しい気候でした。これまで訪問してきた上海、香港とは全く異なる環境・産業なのだろうと感じました。
 到着後、昼食兼交流会が開催され、本モデル地区の中心となる石炭火力発電所と製紙工場を見学しました。この発電所は約15万kWの能力があり、製紙工場をはじめとする工業基地内への電力供給、さらには近隣農村への熱供給を行っています。製紙工場でも古紙を活用したり排水からの汚泥を再利用しており、また農村では家畜糞をメタンガスとして活用するなど、地域全体での循環型社会形成に向けた積極的な姿勢が伺えました。今後も開発を進めて、将来的には中国を代表する一大工業基地として発展させる計画になっているとのことでした。工場2か所の見学後には、経済貿易局や発電所の幹部10名との意見交換会が開催されました。江門市経済貿易局の幹部の方から、「これまでの兵庫県との交流の中で、神戸市のバイオ天然ガス工場を見学したことがあります。今後も環境問題の技術的な交流が深められることを希望しています。」とのお話があり、ここでも改めて日本の持つ技術レベルの導入に対する期待を大きく感じました。

循環経済モデル都市・江門市
  江門市は広東省珠江デルタ地域の西部、珠江西岸に位置する人口約400万人、市の面積が約9,500m2の広東省の中心都市の1つです。この江門市は環境に配慮した循環経済の確立を進めており、発電所と製紙工場を核とした地域の省エネ・環境保全に取り組むモデル地区となっています。広東省と兵庫県との間では、1983年以来の交流が進められており、環境問題の交流についても約15年続いています。


最後に

 今回のエコプロジェクト視察ツアーは、環境に関わる中国国内の3地域を訪問しましたが、どの地域にも共通して、環境に対する意識が高い、という印象を持ちました。その中でも「神鋼環境ソリューション」という会社が少なからず中国国内において認識されている点は誇りに感じました。
 個人的には初めてのアジア・中国訪問であり、生活スタイルの違いを感じる所も多分にありました。ただ、昨年日本で話題となった食料品の安全性に対する疑問視など、危機管理意識は日本同様に中国全土にも拡大しており、一般家庭においても、食料品を購入する店やブランドを限定していると現地駐在の方に聞きました。中国では経済成長優先であり環境問題は後回し、との先入観を抱いていましたが、実際は環境問題への意識は思った以上に高いのだと思います。エメックス会議のテーマでもある通り、環境問題とは結局我々人類の生活の基本である食の安全、食の確保にまで繋がる人間生活の重要な問題であるということを改めて感じました。食の安全を含めた危機管理意識の1つとして、中国でも環境改善の必要性は当然ながら感じているのだろうと思います。
 街の雰囲気としては、どこも埃っぽくて霞んだ印象が強く残りましたが、道端には投棄されたごみは一切無かったことなど、我々日本人が逆に見習うべき点が中国にもあるのかもしれないと思い抱き、帰国の途につきました。


江門循環経済モデル地区将来構想模型

歓迎の文字パネル

 最後に、今回のツアーへ快く送り出していただき、不在中の仕事をサポートいただきました職場のみなさん、ならびにツアー参加の機会を与えてくださったエコユニオン会員のみなさんには大変感謝いたします。貴重な経験をさせていただき、ありがとうございました。
 また、今回のツアーを企画し、事務局として滞りなくツアーを引率いただいた、ひょうご環境創造協会のみなさまには大変お世話になりましたことをこの場を借りてお礼させていただきます。ユニオンでのモンゴル交流や環境体験館での研修など、今後も連携をとりながら組合活動を行っていきたいと思います。
以 上


視察団のみなさん