「持続可能な地域づくり戦略」
  ―エネルギーの自立が地域を救う

「いま、あわじ菜の花
     エコプロジェクトがおもしろい」
  ―環境立島“淡路島”づくり
                への挑戦―
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環境省 環境カウンセラー 
岡 田 清 隆


なぜ環境に携わるようになったか?


小麦の品種改良それは劇的な変化

 みなさん、おはようございます。
 私は今から10年前に環境カウンセラーになり、学校の理科の教師をする傍ら環境問題について取り組んできました。ちょうど1年前に定年退職となり39年間の教師生活に終止符を打ち、今は環境カウンセラーの活動に専念しています。
 まずはじめに、なぜ環境活動に関わるようになったのか? というか、私と環境活動の出会いについて紹介したいと思います。
 今や飽食の時代で、食べるのは当たり前という時代ですが、学生時代の私は、将来やがて食料難の時代がやってくるのではないかと考え、パンに使う小麦の品種改良に取り組んでいました。これは私が高校生だった頃に、小麦の品種改良を研究されていた京都大学の木原先生と山下先生との出会いが大きく、その話を聞いていてこれは面白いなぁと思ったことが私の人生におけるターニングポイントになったのです。
 人は染色体を何本持っているか知っていますか?(一同手を挙げない・・・分からない)人は46本の染色体を持っています。さてそれでは、小麦は何本染色体を持っていますか?(皆分からない)実は42本の染色体を持っています。当時、木原先生と山下先生は、小麦の染色体の研究を行っていました。西アジアのカラコルムが原産のタルホ小麦と言われる一条小麦がパンに使う小麦の元になるのですが、このタルホ小麦は背が低く一条ずつ実ることから収穫量が少ないものでした。これを交配による品種改良を積み重ね、現在一般的にパン小麦として使われている六条麦の品種改良を行ったのです。六条小麦は、背丈が低く刈り取りにくかった一条小麦に対して、背丈が高く、そして倒れにくく、コンバインで回収できるような小麦へ劇的な変化を遂げ、それによって現在みなさん方が普通に口にしているパンの小麦が誕生したのです。


一条小麦と六条小麦を図解する岡田氏


DNAを解明する姿に発見する喜びがあった

 みなさんが一般的に耳にするDNA研究は、ワトソン(米国人)とクリック(英国人)という二人の科学者によってなされ、そのDNAの構造の解明でノーベル医学生理学賞を受賞しました。彼らは、日夜研究を積み重ね、それまでは分かっていなかったDNAの構造をダブルヘリックと言われる二重らせん構造であることを遂に発見したのです。そのことを「二重らせん―DNAの構造を発見した科学者の記録―」という本を通じて知ったのですが、学生時代その本をむさぼるように読みふけったことを思い出します。この本は、私に発見する喜びを与えてくれました。また、柔らかい頭を持つことの大切さも学びました。みなさんも是非読んでもらいたいと思います。
 このように「DNA=遺伝子であるということの解明」、「Ecology(生態学)が面白い」ということ、「感動する」ということ、そして「人との関わり」が大切だということに気づいたことが、私にとって環境に関わっていく大きなきっかけでした。環境について考えていくと、人が自然を利用するのではなく、人が自然界の一部であるというライフスタイルが必要だということが分かりました。そして、人は個人プレーだけしていてはだめで、やはり人と人とが関わり合うチームプレーへと変わらなければならないということが分かったのです。


石けんとの出会い

 私は、39年間の教師生活の中で、ずっと思い続けてきたことがあります。それは、正しい情報を流すことの大切さです。一つ例を紹介しましょう。以前の教科書では「石けん」と「合成洗剤」は洗剤として同じで、且つ、合成洗剤は水でもよく洗えるということが書いてありましたが、実際はこれらの二つは全く別のものなのです。「合成洗剤」は、約65年前から使われるようになったのに対して、「石けん」の歴史は、5〜6千年前から使われています。二つの大きな違いは何か? それは「分解性」の違いです。「石けん」は分解性が非常に高いのに、「合成洗剤」は分解されにくい性質を持っています。
 淡路の一宮で小学生を対象にサマースクールという1週間の体験合宿をやっていた時のことですが、この時は淡路島近海でも生息しているウニの受精状況を顕微鏡を使って観察していました。受精卵は分裂を繰り返し、数を1つから2つへ、2つから4つへとどんどん増やしていきます。一晩が経ち、受精卵から成長したプルテウス幼生が泳ぎだしている状況を、顕微鏡のレンズを通じて子供たちは目を輝かせながら観察していました。ところが、その観察は学校の調理場で行っており、偶然にも調理場で使用していた「合成洗剤」がその中へ1滴入ってしまったところ、その新しく誕生していた命が、たちまち死んでしまいました。その「合成洗剤」が持つ強い力と恐ろしい影響力に子供たちも驚愕してしまいました。


おちょこ一杯の油を分解するには、
お風呂365日分の水が必要!

 一般的な生活排水のBODは、いくらか知っていますか?(受講者の一人が「20程度です。」と答えた。)「そう! BOD20程度です。」私たちが生活し排水を流しますが、その先には浄化槽があります。その浄化槽には低生動物が生息している槽があり、人間が使った水の処理をするにも生物のお世話になっています。そのpH値が5程度になると、その浄化槽にいる生物たちも死んでしまうのです。天ぷらなどで使った廃食用油を台所に流すと、台所から消えるわけではありません。その先があることを皆さん是非知ってもらいたいと思います。おちょこ一杯の油を自然分解するには、73,000リットルの水が必要なのです。200リットルのお風呂で言えば、ちょうど1年間分の365日分の水が必要になります。これほど分解されにくいものなのです。そこで、廃食用油をリサイクル石けんとして再利用しようというネットワークも作っています。「石けん」の材料ひとつを例にとっても、人だけでなく水や環境といった部分で密接した関わりを持っているのです。

BODとは英語でBiochemical Oxygen Demandの頭文字をとったもので、日本語では「生物化学的酸素要求量」というむずかしい言い方をします。BODは水の有機物による汚れを表すもので、世界中で使われています。なお、湖沼・海域などの「水の流れがほとんどないところ」(=「停滞性水域」という)で測定する場合は、COD:Chemical Oxygen Demand「化学的酸素要求量」を用います。



持続可能な地域づくり戦略
〜エネルギーの自立が地域を救う〜


環境に配慮できる人づくりを

 いま、日本では電気が止まれば、都市機能は“マヒ”してしまう世の中になってしまいました。私は、今年5月にスカンジナビアを回り、彼らの生活のあり方を見てきましたが、これらの国々は、人の育て方が日本とは大きく違うことを感じました。自然に対して畏敬の念を持ち、ローテクを大切にし、環境に配慮できる人を育てているのです。神鋼環境ソリューションのみなさんにも、技術だけでなく環境に配慮する人づくりという点でも是非取り組んでもらいたいと期待しています。


生きるということはエネルギーが必要

 そもそも人間は、生きるために「エネルギー」が必要です。水や食物や空気も、全て人間にとっては生きるためのエネルギー源なのです。「エネルギーとは生きる源」と定義できます。人間は発祥以来ずっと、バイオマスの世界で生きてきたと言えます。人間は、バイオマスと太陽があれば「背丈の範囲内」で生きていくことが可能なのです。
 ところが人間は、産業革命以降「背丈以上の生活」すなわち「豊かさ」を手に入れようとしました。その豊かさにより、私たちの生活は確かに便利なものとなりました。一方で、その豊かさの源は「化石資源」であり、「核資源」であったのです。しかし、それらには限りがあり、ここにきてようやく、私たちは未来の子供たちの貴重な財産を先取りし、浪費し、さらには危険を放置していることに気づいたのです。あまりにも、私たちは自分たちさえ良ければという利己主義に走っていたわけです。今までの豊かさを支えてきたエネルギー資源のことをまず知ることからはじめ、「限りある資源」から、いかに「持続可能な資源」にシフトしていくかを学ばなければならないのです。
 「持続可能な資源」とは何か? それは「太陽資源」の活用です。今、石油資源に依存しきっている生活から脱却しなければならないのです。今日まで、石油資源が世界の中で偏って存在していたために、多くの戦争や紛争が起きてしまいました。それらを回避するためにも、「太陽エネルギーすなわち太陽資源」へのシフトが必要なんです。単に化石・核エネルギーを自然エネルギーにシフトするだけでなく、環境負荷の高い「化石資源」から「バイオ資源」へ、引いては「太陽資源」にシフトし、持続可能な平和社会を目指す必要があるのです。


ドイツは第一次オイルショックを
機に「脱化石燃料」を目指す

 当初、太陽光発電や太陽熱利用の分野において、日本は世界の模範になっていました。しかしながら、今ではドイツが年間2500MWH(メガワットアワー)を太陽光により発電しており、日本は1700MWHと大きく抜かれてしまいました。この理由には、国の政策が大きく影響しています。ドイツも日本も1972年に第一次オイルショックを経験しました。ドイツは、「脱化石燃料」を推し進め、日本もNEDOなどにより太陽光発電や太陽熱利用を進めましたが、2005年度以降それらの補助制度を打ち切ってしまったのです。ドイツは長いスパンでエネルギー情勢を見据え、現在も補助制度を維持しています。ぶれない国策を取っているのです。


日本で活用できる自然エネルギーは
どれくらい?

 自然エネルギーとは、太陽から送られてくるエネルギーを太陽光発電や温水器に代表されるように太陽熱の利用など直接的に利用したり、風力、バイオマス、水力など間接的に利用する他、地熱のように地球が潜在的に保有しているエネルギー資源を活用して得られるもののことを言います。
 さて、日本には自然エネルギーとしてどれくらいの供給能力があるのでしょう? 自然エネルギーは、化石燃料と比べるとエネルギーを取り出す効率は悪く、例えば太陽光発電であれば太陽光パネルを数多く設置したり、風力発電設備を数多く建設する必要があります。しかしながら、自然エネルギーを含む新エネルギーは、次に示す供給能力があると試算されています。
 ここで言いたいのは、「地域で作った自然エネルギーを地域で使う」という考え方です。一つの拠点で遠く離れた地域の分までエネルギーを作ろうとすると、送電ロスなどのムダが出てしまいます。こうしたことから、各地域、地域で自分たちが使用するエネルギーを自然エネルギーで確保していくというシステムを作っていくことが、今後ますます重要になると考えています。


雑誌「Deutschland」に掲載されている
ドイツの自然エネルギー最新情報

表 自然エネルギーを含む新エネルギーの供給能力
  実際的潜在量(試算)
太陽光発電 約4,200万〜 約8,600万KW
太陽熱発電 810万〜1,621万KW
風力発電 250万〜500万KW
未利用エネルギー 90 万Kl〜150万Kl
廃棄物発電・熱利用 500万KW〜732万KW
バイオマス 927万Kl〜1,277万Kl
合計 3,800万Kl〜6,400万Kl


日本と欧州の自然エネルギー
普及促進への法律の違い

 日本では1997年に新エネルギー法が制定されました。これは、電気製品や自動車など汎用品については一番効率の良いものを基準として目指すというトップランナー方式の導入や、広範な自然エネルギーの導入を目指し日本で初めて全体方針を定めたものです。しかしながら、ドイツやデンマークでは、地球温暖化防止や環境保護、自然エネルギーの供給を目的として、国内でつくられた自然エネルギーを全量買い取りを義務づける「自然エネルギー買取義務法」という法律があります。買い取り義務があるという点では、日本とは大きく異なります。日本ではこの点において多くの問題や課題が残されており、未だそこまで進んでいないのが現状なのです。
 ドイツでは、自然エネルギー買取義務法として「再生可能エネルギー法:Erneuerbare-Energien-Gesetz(EEG)」が、2000年に施行されました。このEEG制度では、ドイツの電力会社が通常の電力料金より2倍以上の価格で自然エネルギーを買い取ります。その買取価格は、日本の4倍以上の価格にもなり、その電力会社の負担は、最終的に電気需要者全員の負担となるわけですが、結果として省エネのサイクルが仕組みとしてできるのです。さらにドイツは、自然エネルギーの電力供給を現在の6%から2010年までに12%に引き上げることを目標に掲げました。デンマークでは同法律が1992年には施行されており、既に10%を自然エネルギーでまかなうことに成功しているのです。どうでしょう、日本は大きく出遅れているのではないでしょうか?


淡路島で稼働している風力発電機


バイオマスエネルギーとは?

 バイオマスは、BIOMASSと書かれるように、BIO(生物)とMASS(量)から来ています。バイオマスエネルギーは再生可能であって、生物由来の有機性資源のことなんですが、ガソリンなどの化石燃料は使い切れば終わってしまうためバイオマスエネルギーには含まれません。
 バイオマスエネルギーは、太陽のエネルギーを使って生物が合成したもので、生命と太陽がある限り枯渇しない資源なのです。バイオマスエネルギーは、焼却しても大気中の二酸化炭素を増加させない、カーボンニュートラルな資源と言われています。なぜカーボンニュートラルかというと、草や木は燃やせばCO2を出しますが、そもそも草や木は、空気中のCO2を吸って太陽エネルギーによって光合成を行っています。このように成長していく中でCO2を吸収しているため、結果として排出するCO2の量は、プラスマイナスゼロと考えられるのです。また、栄養が蓄えられてできた草や木の葉、幹や根および種子などは、太陽エネルギーを別の形に蓄えた「太陽エネルギーの缶詰」とも言えるのです。このように生き物が太陽エネルギーを蓄えたものを「バイオマス」って呼んでます。
 そもそも化石燃料が使われる20世紀初めまでは、地球上に存在する人間を含めた生き物は、お互い複雑な食物連鎖を持ち、お互いをせっせと食べあいながら生命を育んできました。その営みが生み出していたエネルギーが、バイオマスエネルギーそのものなのです。化石燃料は生き物の連鎖を持っておらず、使い切れば終わってしまいます。その点バイオマスは、繰り返し「太陽エネルギーの缶詰」を私たちの暮らしに届けてくれる再生可能なエネルギーなのです。
 バイオマスエネルギーの中でも最も重要なことは、バイオマス資源を直接燃焼させないでエネルギーとして利用することです。例えば、微生物の代謝を利用して木材や農産物の残り物からメタンやエタノールなどの高エネルギー物質を生産させることは非常に良い例です。
 次に、都会に住む私たちができることは何でしょう? 生ごみや落ち葉や剪定枝を利用した堆肥づくり(コンポスト化)は、大切なバイオマス利用となるんです。また、今では廃食用油を石けんとして再利用したり、軽油代替燃料(バイオディーゼル燃料)としての再利用も注目されています。また、菜の花の栽培により休耕田の活用や里山保全や循環型地域社会づくりも、二酸化炭素吸収や排出抑制による地球温暖化防止に向けた取り組みとしても注目されています。この話は後ほど詳しく説明したいと思います。



ゼロエミッションとは?

 最近よく耳にするようになったゼロエミッションとは、一体どういうものでしょう。それは、「ごみゼロ」のことであり、ムダをなくした究極の状態のことです。まず、資源回収システムやリサイクルなど「資源循環型社会」を築いていく必要があります。次に、コンポスト化の促進や環境負荷の少ない農業の促進といった「環境保全型農業の推進」を図っていく必要があります。そして私たちが目指すべきところは、自然エネルギーやバイオマスエネルギーの活用をはじめとした地域のエネルギーを地域で消費し、地域内で発生するごみの減量化を目指し、そして地域で取れたものを地域で消費し(地産地消)、休耕田の有効活用を行うといった、その地域ならではの力が発揮できる「地域資源循環型の究極の状態」なのです。


淡路島の取り組み

 淡路島は、特に優れた風の道をもっており風力発電に適している。また、四季を通じて太陽が注がれていることから太陽光発電にも適しています。淡路島では、このような立地条件を最大限活用した新エネルギーの導入を促進しており、電力比率にして30%まで引き上げたいと考えています。今では、淡路島が飛んでしまうのではないかと思うほど、風力発電のプロペラがたくさん回っているんですよ。(笑い)
 また、家畜の糞やタマネギなどの食物残渣を利用しバイオマスエネルギーとして使うといった、自然エネルギーの導入促進に淡路島として力を入れているところなのです。

「エネルギー問題」と「環境問題」

 私たちの生活や経済活動は、今やエネルギーの消費の上に成り立っています。もともと日本という国はエネルギー資源の乏しい国であったために、エネルギーを安定的に確保することが最大の課題でした。世界的に見ても、石油や石炭などの化石燃料の大量消費によって、エネルギー資源の枯渇が懸念されています。私たちは産業革命によって目覚しい発展を遂げましたが、それと引き換えに、大気、水、土壌などかけがえのない地球環境に深刻な影響を与えてしまったのです。近年では、エネルギーの消費に伴って排出される大量のCO2が、地球の温度を上げる原因ともなっています。
 今まさしく「エネルギー問題」と「地球環境問題」を同時に解決しなくてはならない状況となっているのです。この二つの問題を一挙に解決していく手段として、世界が熱心に取り組んでいるのが、エネルギー消費の削減と非化石エネルギーの導入です。現時点では、エネルギー消費の削減においては世界規模で見るとその歩みは遅々たるもので、やはり私たちは地球の営みを支える自然エネルギーの恩恵に感謝し、この世界が引き続き未来の人類にとって、心豊かに暮らせるところであるように、地球環境と豊かな生活との共生を考える時代になったのです。



いま、あわじ菜の花エコ・プロジェクトがおもしろい!
〜環境立島、「淡路島」づくりへの挑戦〜

菜の花栽培と淡路島の歴史

 淡路島は、とても暖かく地中海性の気候風土を持っています。昔から、司馬遼太郎の「菜の花の沖」にも出てくるように、その温暖な気候と丘陵地を活かして菜の花が淡路島全域で広く栽培されていました。昔から淡路の菜種油の質は非常に良く、雨の中でも火縄銃の導火糸に塗っておけば、消えないという話が残るほど有名でした。


地域ビジョン推進プログラムの誕生

 兵庫県では、平成13年2月に県民主役・地域主導のもと、21世紀初頭の兵庫県のめざすべき社会像とその実現方向を明らかにした「21世紀兵庫長期ビジョン」を策定しました。「21世紀兵庫長期ビジョン」は、「地域ビジョン」と「全県ビジョン」からなり、「地域ビジョン」は、歴史・風土・文化などを共有する広域的な圏域ごとに、地域住民が地域の将来像を描き、その実現に向けて主体的に取り組む指針です。「全県ビジョン」は、「地域ビジョン」の実現を支援するとともに、全県的な視点から見た基本課題やめざすべき将来像とその実現方向を明らかにしたものです。
 淡路島地域ビジョンは、30年先を見据え10年から15年先の淡路島のあるべき姿として策定しました。それは「人と自然の豊かな調和を目指す環境立島『公園島淡路』」を目標として定め、その実践として「花いっぱいの美しい島づくり」を目指し、県民行動プログラムに含まれる行動指針「自然と共生し、循環性を向上させよう」の具体的なプログラムが『あわじ菜の花プロジェクト』なのです。

あわじ菜の花エコ・プロジェクトとは

 菜の花プロジェクトは滋賀県の琵琶湖から始まった活動です。生活廃水による琵琶湖の水質汚濁が大きな問題になっていたころ、なかなか分解されない合成洗剤の使用が問題となり、生態系に優しい「石けん」が見直され、また、水を汚す揚げ物をした後の廃食用油を回収することとあわせて、廃食用油を石けんに再利用するという活動が始まりました。
 ところが、このリサイクル石けんの活動が軌道に乗ると、石けんとしてリサイクルする以上に廃食用油が集まってくるようになり、廃食用油をさらに何かに使えないだろうか? 資源有効サイクルのひとつに入れて、そのサイクルをさらに大きくすることはできないか? ということを全員で一生懸命議論したのです。その時、滋賀大学の山根先生という方が、ドイツで開発されたディーゼル機関はもともと植物由来の油を燃料として使用していたことに着目し(ピーナッツオイルを原料にして開発され改良を経て現在の形になった)、菜種油の廃食用油を軽油代替燃料であるBDF(バイオディーゼル燃料)として精製することに成功したのです。
 幸いにも日本には、天ぷらを食べる食文化を持っています。それを利用し、食用として使用した菜種油、つまり天ぷらした後の油をBDF燃料として再利用するというプロジェクトが始まりました。
 この琵琶湖で始まったプロジェクトが、もともと菜の花の栽培に適し良質な菜種油を産出していた淡路島に広がり、環境立島を目指す淡路にとって大きな転機となりました。
 それは、全島に広がる減反や後継者不足により放置された農地に、菜の花を植えることで有効な休耕地対策になり、また、田植えの季節である6月までに菜の花を刈り取ることで二毛作や、三毛作が可能となります。
 廃食用油を適正に処理することで、下水処理場の負担を減らすことができ、搾油時に出る油かすは、有機肥料として耕地に返すことで土壌改良につながります。また、家庭から出る廃食用油は、ごみ分別回収時のプラス・ワンとして導入し、軽油代替燃料であるBDFとして、公用車やパッカー車、バス、農耕用トラクターなど、地域住民と深く関わったものに燃料として活用することができました。
 淡路島の立地条件に最適の菜の花をスタートにして、「環境」「エネルギー」「食料」のそれぞれの持続可能な循環システムづくりが実践できたのです。
 琵琶湖から広がった「菜の花プロジェクト」は、今では「イエローレボリューション(黄色い革命)」として、日本全国で2つの県を除き全国の自治体で展開されています。


平成19年11月13日読売新聞夕刊に掲載された
琵琶湖の菜の花プロジェクトの紹介




あわじウェルネスパーク五色内にあるBDF精製プラント


菜の花エコプロジェクトのシンボルマーク


ドイツにおける菜種栽培から学ぶ

 ドイツでは、BDF(バイオディーゼル燃料)に使用する菜種栽培が盛んです。BDFは地球環境への負荷が低いため、ドイツでは国策としてBDFの価格を地球環境に負荷が高い化石燃料の軽油と比較して1リットルあたり30円程度安く設定しています。また、化石燃料はBDFと比較するとCO2を多く排出するため、炭素税(環境税)を支払う仕組みとなっているのです。
 自動車メーカーもこぞってバイオディーゼルの研究開発に取り組んでいるのです。BDFは、バスや自動車の走行などで環境負荷が掛かりやすい都市の人口集中地域や、船や農地などの第一次産業での使用が奨励されているのです。どうでしょうか? 日本と比べると、ドイツはやはり一歩も二歩も先を行っていると感じませんか?


食を通じた環境活動について

日本の食料自給率は約40%

 今、日本の食糧自給率はどれくらいか知っていますか? 38〜39%程度なんです。一方で、氷河が大地を削り取ってできた、非常に土地自身が痩せていて農耕には向かないと言われるデンマークはどれくらいの自給率か分かりますか? なんと、120%もあるんです。フランスでも160%あり、太陽の恩恵を受ける時期が短い北欧のノルウェーで130%、スウェーデンで140%と、自分たちの国で食べる分はちゃんと確保した上で、食料を輸出しているのです。
 では、デンマークと日本の違いはなんでしょうか? それは国策にあると思います。自分たちが生き残っていくためには「実践なくして自然との共生はない」とし、100年先を考え100年間の国家の政策として農業を育てていくことを実践してきた結果なのです。


「フードマイレージ」と「地産地消」

 次に「フードマイレージ」という言葉を聞いたことがありますか? これは、飛行機のフライトマイレージの食べ物版というイメージをしてもらえれば良いです。具体的には(食べ物の重さ)×(距離)によって、食料を手に入れるのにどれだけの労力やエネルギーを費やしているかということを表すものなのです。
 例えばタコを食べるにしても、淡路島で捕れたものか、遠く離れたチリでとれたものか、同じ店内で売られている場合でも、輸送に必要とするエネルギーや排出されるCO2を考えると、やはり地場である淡路島のものを食べるべきなんだということです。フードマイレージを如何に下げていくか、それは地元で捕れたものを地元で食べる、これを「地産地消」と呼んでいますが、これが最も良い形なのだと思います。


国づくりは人づくり

 今日は、エネルギーという観点からの環境問題の解決に向けた提言と、実際に淡路島で取り組んでいる「あわじ菜の花エコプロジェクト」の紹介などを中心に、非常に多岐に渡る視点で私が考える環境に関する話をさせてもらいました。
 みなさんは、様々な環境問題について、日本が置かれた状況をしっかり把握し、これからやらなければならないことを明確に持つべきです。将来どのようにありたいのか、そのために今なにをすべきなのか、30年、50年先を見据えたビジョンを持たなければならないということです。
 そのためには、まず未来を担う人づくりを行うことが先決であり、人材育成のための仕掛けづくりをしっかりやっていくことが大事なんだと思います。若いみなさんに期待しているので頑張ってください。

以上
(文責:大川敦彦)


BDF精製プラントの前で、岡田先生と参加