JCVミャンマー視察 (ワクチン接種会場、コールドチェーンの視察) |
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東京ブロック ユニオン委員 矢 吹 亮 |
訪問先: 日 程: 参加者: |
ミャンマー(ヤンゴン、モン州) 2007年3月18日〜3月25日 3月18日:日本発→タイ(バンコク)経由→ミャンマー(ヤンゴン着) 3月19日:ミャンマー代表チームへの野球道具贈呈 UNICEF・WHOを表敬訪問 3月20日:ヤンゴンセントラルルーム (ミャンマーの中心のワクチン保管場所)の視察 UNICEFとの質疑応答 3月21日:モン州でのはしか予防接種会場の視察、 モン州のコールドチェーンの視察 3月22日:モン州保健局訪問、都市部(州都モロミャイン)の はしか予防接種会場の視察 3月23日:AAR(障害者支援協会)、孤児院の視察 3月24日:帰国(25日 日本着) 執行委員 福田、ユニオン委員 矢吹 |
ミャンマー訪問の目的 |
認定NPO法人である「世界に子どもにワクチンを日本委員会(JCV)」ではミャンマーを中心に感染症『はしか、ポリオ(小児マヒ)など』から守るためのワクチンの支給やワクチン接種に必要なシステムを支援しています。 今回はECOユニオンの代表として、JCVの活動を支援すること、またワクチンなどの支給物資がどのように運用されているかを確認するため、支援先のミャンマーを訪問しました。 |
※コールドチェーン: ワクチン接種に必要なシステム 製造段階から運搬、現地での接種まで、ワクチンは一定の低温で保つ(温度が上がるとワクチンの効果がなくなってしまう。)必要があり、この一連のシステム(冷蔵庫などの設備や現地の医師など)をコールドチェーン(冷たい鎖:冷たい状態で製造から接種まで繋がっている)と呼んでいます。 |
意外と知られてない ミャンマーという国 |
バングラディシュ、インド、中国、 ラオス、タイに囲まれている |
ミャンマーの国旗 |
●穏やかな国民性 ミャンマーの旧国名はビルマであり、皆さんには映画・小説の「ビルマの竪琴」の舞台となっている国でお馴染みだと思います。なお、このビルマからミャンマーの国名の変更は1989年に軍事政権が発足した時に行われました。 軍事政権であるが故に日本に入ってくる情報は「民主主義の敵?」というニュアンスが多分に含まれたもの(アウンサンスーチーさん関連の話題は実際に軟禁など穏やかでない内容)であり、ミャンマーはとても危険な国という認識が一般的であると思います。 しかしながら、一部の地方では小さな紛争が断続的に続いてることを除けば、全体的に治安は意外にも良好です。 紛争の要因の一つとして、ミャンマーが多民族国家(135の民族がおり、世界でも有数の多民族国家。ちなみに一時期テレビで話題になった首長族もミャンマーの民族)であることが挙げられます。地方には少数民族で構成された反政府組織も存在します。 また、人々は信心深く(全体の80%が仏教徒、その他キリスト教徒、イスラム教徒、ヒンドゥー教徒がそれぞれ数%)、穏やかな性格であることが治安を良好に維持していることに大きく関わっていると感じます。特に最近の日本ではマンホールや電線などの金属製品が公の場から盗まれているのに対して、ミャンマーではなけなしのお金をはたいて金箔を寺院に寄付している状況を考えれば、日本よりも治安がいいんじゃないか??とも思ってしまいます。 |
●農業が中心の産業 産業は農業が中心であり、国全体としては現金収入が少なくGDPはアジア最低レベルです。特に地方では現金の収入を求めて都市部や海外への出稼ぎが多くなってきています。 ヤンゴン市内では自動車、パソコン、携帯電話が販売されていますが、一部の富裕層にしか手の届かないものであり、一般の庶民は固定電話がない家も珍しくありません。 ちなみに、地方で働く助産師(お産婆さん)の月給は 800円程度といわれています。 最近の問題として、地方出身者が出稼ぎ先の都市部や海外で性交渉によってエイズに感染し、地方にエイズを持ち込んでしまうことが増えており(奥さんや生まれてくる赤ちゃんが感染してしまう。)、UNICEF、WHOではワクチンの問題と同様に重要課題として取り組んでいます。 農業以外の産業としては、天然資源が豊富な事から、ルビーなどの宝石類や、天然ガスの輸出をしています。 |
●未成熟な医療事情 ミャンマーの医療事情は非常に悪く、子供たちのうち10人に1人は5歳を迎えることなく、命を落としています。 @ 医師の不足 A 医療設備、医薬品の不足 B 不衛生な状況 |
●食糧事情は良好 ミャンマーでは、農業が盛んであるという事もあり、食糧事情は良好であり、飢餓で苦しむ人々はほとんどいません。 また、食事内容としては多民族国家ということもあり、これぞミャンマー料理というものはなく、中華風のもの、インド風のもの、タイ風のものとバリエーションは豊富です。全体的に脂っこいものが多いので胃腸の弱い人には少ししんどいかもしれませんが、なかなかの美味です。(ライトなテイストのミャンマービールと一緒に食べれば、よりおいしいです。) |
●ミャンマーの風習 服装は男性も女性もロンジーと呼ばれる巻きスカートを履くことが一般的です。男性用ロンジーは地味な色なものに対して、女性用は色鮮やかです。
地方で出産などの医療を一手に引き受ける助産師さんは、赤いロンジーをはいており、レッドエンジェルと呼ばれています。 都市部ではロンジーをはく人が年々減ってきており、男性では単パンをはく人が増えてきています。 また、子供たちの顔を見ると泥のようなものが塗られていますが、「タナカ」という化粧(日焼け止め)であり、決して顔がよごれている訳ではありません。 タナカは一般的に女性や子供たちがするものであり、成人男性は余りしません。したがって、成人男性でタナカを塗っている人は女性的趣向が好きな人と思われるようです。 |
ワクチンを子供に接種するレッドエンジェル |
タナカ(化粧・日焼け止め)を顔に塗った子供 |
●都市部の街並み、地方の村の雰囲気 仏教の国ということもあって、寺院が数多くあります。今回はシエダ・ゴン・パゴダ(ヤンゴンの中心にある寺院)、チャウッダーヂー・パゴダ(約50mの大きさの仏像がある寺院)を見学しましたが、見るもの全てが金色であること(金箔を貼っている。)、大きさがとても巨大であることにびっくりさせられました。(日本にも金色の寺院として金閣寺がありますが、スケールが圧倒的に違います。) また、イギリス植民地時代の名残で、キリスト教の教会や洋館についてもちらほらとみられます。特にモン州の州都であるモロミャインでは、イギリス植民地時代の影響が大きく、非常に美しい街並みでした。 |
@ ヤンゴン 高層ビルはないもののボーヂョーアウンサンマーケットなど、町の中心部は人々も多く活気がありました。 また、寺院を中心に数多くのお坊さんがいましたが、行った期間がちょうど学校の長期休み期間(3月〜5月)であり、この期間を利用した修行中の子供たちがたくさんいました。 |
シエダ・ゴン・パゴダ |
チャウッダーヂー・パゴダ |
修行中の僧侶見習いの子供たち |
A 地方の村 地方では農作物やゴムの木の栽培が行われており、見渡す限り田園風景のところもあり、まるで北海道のような感じ(熱帯なので、実際に作っているものは違いますが)でした。 住居は簡素で、必要最低限の大きさで、家の中も生活に必要最低限なもののみをおいているだけであり、まさに「スローライフ」を実践しているというような感じです。(ただし2.2項でも前述しましたが、最近では現金収入を求めて、農村から都市部に出稼ぎに行く人も増えてきています。) |
見渡す限りの田園風景 |
モン州郊外でよく見られる高床式の家 |
六大感染症とワクチン |
世界では1日約4,000人の子供たち(5歳以下)が感染症が原因で命を落としていると言われています。 WHO(世界保健機関)/UNICEF(国連児童基金)は、感染症対策の重要な柱の一つとして「予防接種拡大計画」を展開しています。 |
※予防接種拡大計画・・・ EPI(Expanded Programme on Immunization) 1974年に始まった事業で「はしか、ポリオ(小児マヒ)、結核、ジフテリア、百日咳、破傷風(六大感染症)」を予防するために予防接種を実施している。 |
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※どのワクチンも1人分100円以下(運賃、人件費含む)。 |
ミャンマーにおける感染症対策 |
ミャンマーでは「全国一斉予防接種日 NID・・・National Immunization Day」と呼ばれる行事を設定し、全国で一斉に5歳未満全ての子供を対象に予防接種を計画していおり、現在ではこの計画を元にワクチンの接種は70〜80%をカバーしています。 交通事情などの問題により、実際は一斉にはできないために複数回に分けて実施されています。今回のはしかは年間で3回に分けられている内の2回目で、特に交通便の悪い場所を中心に展開されました。 |
●ミャンマーにおけるコールドチェーン (医療施設、ワクチンの流れ)の仕組み |
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←医師在駐 | ||
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←準医師・助産師(医師はいない) | ||
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←助産師のみ | ||
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@ セントラルルーム ミャンマー国内ではワクチンを作ることができないため、タイなどの周辺国からまずはヤンゴンにあるセントラルルームと呼ばれる施設に運ばれます。 今回の視察では、このセントラルルームを視察しました。ワクチンを保管するための大きな冷蔵庫、冷凍庫が完備されている他、停電対策として発電機が複数準備されていました。(このようなところからもミャンマーの電力事情が悪いことが分かります。) また、セントラルルームは1箇所ですが、現状では保管量が不十分であるため、新しいセントラルルームをヤンゴンの郊外に増設しています。 |
ワクチンを保管している冷蔵庫がある倉庫 |
日本から寄付された冷蔵庫用の発電機 |
A メインストア ヤンゴンのセントラルルームに集められたワクチンは地方に届けるために、マンダレー、マグウェイという2つの都市に運ばれます。 |
B サブストア サブストアは各州都などの17の地方都市にあり、セントラルルーム、メインストアから運ばれたワクチンを現地の医療現場へと運びます。 視察の中で、モン州にあるサブストアについても見学しました。こちらにも冷蔵庫、冷凍庫がありますが、大きさは一回り小さいものでした。 |
ワクチンを保管している小型の冷蔵庫と冷凍庫 |
C タウンシップ 現地の医療現場。医師が在住しており、比較的医療設備に恵まれている。 |
D ルーラルヘルスセンター タウンシップよりも奥地にある医療現場であり、医師がおらず、準医師と助産師で運営している。 |
E サブルーラルヘルスセンター ルーラルヘルスセンターよりもさらに奥地にある医療現場、医師はおろか準医師もおらず、助産師だけで運営をしています。場所によっては道路が整備されていないため、車輌が入れないため、ワクチンを2〜3時間かけて歩いてサブルーラルヘルスセンターに持っていくこともあります。 |
●ワクチン接種会場の視察について ワクチンの接種会場としてモン州を視察しました。モン州は海辺の州であり比較的交通便のよいこともあり、ワクチンの接種率も90%以上(ミャンマー全土では70〜80%程度)を維持している地域です。交通便がよいとは言っても、末端のサブルーラルヘルスセンターには、車輌が入れず歩いてでしかいけない場所もやはりあります。 視察先は都市部としてモン州の州都モロミャイン、地方としてテーエイン村、パンゴン村を訪問しましたが、どちらの地域でもワクチン接種は一大イベントであり、お祭りのような雰囲気で実施されています。ワクチン接種への各地域の強い意気込みが感じられます。 |
民族衣装を着た村の子供たちが出迎えてくれた |
黄色の服を着たワクチンキャンペーンのボランティアたち |
視察を終えて |
世界ではミャンマーのように定期的にワクチンを接種することが着実に行われるようになってきており、感染症による5歳以下の子供たちの死亡者数はここ数年間で半数以下に減っています。 しかしながら、今でも1日約4,000人の子供たちは感染症が原因で亡くなり続けていると言われています。 問題の解決方法としては、ワクチンのみならず衛生状況、電力事情、交通網の不備、地域紛争など様々な問題をクリアしていくことが必要ですが、まずは第一歩としてワクチンの接種を継続していくことが着実な成果に繋がると考えます。 どのワクチンも1本あたり100円以下であり、気軽に支援することができますので、今後は自分なりの方法で無理をせずに活動に関わっていきたいと思います。 |
(文責:福田智宏) |