ライフプラン研修
『定年後をみんなで考えよう』
─人生の大先輩である皆さまに
         私達が期待する事─
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しゃらくの紹介

 神鋼環境ソリューション様主催のセカンドライフ準備セミナーのお手伝いをさせて頂いた特定非営利活動法人(以下NPO法人)しゃらくの小倉と申します。この度は、ECOユニオン様の会報誌にこの様な場をいただき大変光栄に思っております。
 私たちは、神戸市須磨区須磨寺町にて主に団塊世代からシニア世代の方に対して「心のバリアフリーを推進する」を基本理念に、日本国内外での生涯学習の企画やITサポート、まちづくりといった様々な事業を展開しております。また昨年(18年度)は、兵庫県よりシニア生きがいしごとサポートセンター事業を受託し、団塊世代からシニア世代の方々に対して、地域で生きがいをもって仕事や活動をするための支援を行ってきました。今年度は、シニア生きがいしごとサポートセンターからシニアからの枠を超え、生きがいしごとサポートセンター神戸西となり、引き続きNPO法人や株式会社での起業、地域でのボランティア活動、無料職業紹介と様々な支援事業を展開しております。

 昨今よく耳にする2007年問題。危惧されていた一斉退職は改正高齢者雇用安定法により若干緩和されはしましたが、これは問題が先延ばしされたにすぎません。人口ピラミッドの頂点にある団塊の世代が、今後数年の間に段階的に退職していくのは紛れもない事実であり、多くの企業にとってはその知識や経験などの財産を如何に残していくかが大きな問題となっています。
 そしてその一方で、経験豊富でアクティブな定年退職者に、どのようにして地域へソフトランディングしてもらうか、ということが、地域コミュニティの中で仕事をする私たちNPO法人にとっても大きな課題となっています。



今日までの生きてきた道のり

 そもそも間もなく定年退職を迎える方のほとんどは、高校もしくは大学を卒業してから、約40年もの間、ずっと仕事中心の生活を送ってきました。その中でも、仕事と時間に追われ、自分自身の人生というものをあまり振り返ることなく、気がついたら定年を迎える、というケースが多いようです。皆さんはいかがですか?今までのご自身の人生を少しでも振り返ったことがありますか?少しでも退職後の自分の生きかたを考えたことがあったでしょうか?
 働いてきた男性のほとんどは職場の縁によって生活のつながりを持つ職縁社会で生きてこられたように思います。仕事終わりに赤ちょうちんを回りお酒を飲んだのも、休みの日にゴルフやアウトドアなどを楽しんだのも、悩みなどを相談したのも、そのほとんどが職場の同期であったり、上司や部下だったのではないでしょうか。それが退職と同時にそんな職縁社会に別れを告げ、住み家である地域社会を中心に生活をしていかなければならなくなるのです。
 職縁社会から地域社会へ、生活の場が変わることに対して多くの方が違和感を持つことは言うまでもありません。いわば、学生が就職してステージが学校から職場に移ったのと同じ事です。ただ、その場合は、自分の意思とは関係なく職場にはルールがあり仕事があるように「する」ことがあります。しかし、地域社会の場合はどうでしょうか、そこには家庭のルールはあっても、強制的な「する」ことはなく、すべて自分の意思を元に「する」ことを考え行動していかなければなりません。また、ほとんどの方は職縁社会での生活が長かったために、職縁社会での友人は多くても、地域社会に友人は少なく、相談する相手もあまりいない、というのが現状のようです。



定年退職と夫婦関係

 地域社会で生活する上で忘れてはいけないのが家庭、夫婦関係です。先日、間もなく退職を迎える夫がいる女性にアンケートをとったところ、夫が定年退職を迎えることに不安に感じている方が72.1%もいました。その不安の理由として「夫が仕事をなくしてどのように過ごすか想像できない」が44.4%と最も高かったのが印象的です。
 40年間という歳月を、夫は夫で職縁社会を中心とした生活パターンを築き、妻は妻で家庭や地域社会を中心とした生活パターンを築いてきました。それが夫の定年退職を機に長年慣れ親しんだそれぞれの生活パターンをいったん壊し、二人で同じ場所、同じ空間で生活をともにする生活パターンを新たにつくる、ということは、決して簡単なことではないと思います。
 退職後、夫は働かない自分に違和感を持ちながらも、基本的には時間に束縛されることもなく、長年の仕事の疲れをゆったりと家で癒す、そんな方が多いようです。しかし夫にとってはごく当たり前の、「自分の家にいる」だけ、というこの行為は、妻の目には、自分だけの空間が突然の侵入者によって侵される、というふうに映ります。今までは夫を会社に送り出した後には、掃除に洗濯、パートや買い物、食事の準備。それらを自分のペースでこなしながら、街中で友だちとおしゃべりしたり、テレビを見たり、趣味の活動をしたり。それこそが、妻にとっての自分だけの空間だったのです。その自由に過ごせる空間の中に、突然退職した夫が入ってくることによって、掃除や洗濯の段取りも変わり、朝ごはんや昼ごはんの仕度で拘束され出すと、妻はそれを非常に窮屈に感じるようです。その状態が更にエスカレートし、夫が一日中家に閉じこもる日が長く続くと、妻は「自分だけの自由な時間」が完全になくなり、「夫在宅ストレス症候群」になる、というケースも多く見られます。こういった事例からも、自分一人で考えるのではなく、夫婦二人で話し合うなどして退職後の準備を進めることが大切なのではないかと思います。



だからこそセカンドライフの準備が大切

 この度、神鋼環境ソリューション労働組合様と一緒に退職前後の方に対して行ったセカンドライフ準備セミナーも、上記のような事態にならないために、事前に準備をしておく必要があると思い、企画の段階から一緒に考えさせていただきました。
 退職後の余暇を、生きがいを持って過ごす。そのためには、生活の基本となる「健康」そして「お金」をきちんと管理しなければならないことは言うまでもありません。
 しかし、そんな基本的なことを、皆さん、日々仕事に追われる中でなかなか考えるきっかけがないのもまた事実です。そこで、そういうきっかけをこのライフプランセミナーで私達が提供できればと思い、「定年後をみんなで考えよう」というテーマで、今回は参加させていただきました。

「定年後をみんなで考えよう」
 皆さんそれぞれの、青年期から今日に至るまでに、「したかった事、やり残したこと」を考え、そしてこれから「したいこと、できること、チャレンジしたいこと」を明白にして、退職後の余暇の過ごし方を再認識することを目的としたワークショップを行ないました。目的を達成するためには、何が大切かを具体的に考え、グループ内で話し合うことにより認識を共有する事ができました。
 結果的にワークショップは盛り上がり、参加していただいた皆様にはなにか感じるモノを持って帰っていただけたのではないかと考えています。
 ただ、正直に申し上げますと、もうちょっと時間に余裕があれば、もっと深く自分を振り返った上で、今後のライフプランを作成し、具体的な行動計画まで落とし込むことができたのではないか、と思う気持ちもあります。



補     足

 時間があれば、ライフラインチャートを作成し、自分史を作ることを一番して欲しいと考えていました。ライフラインチャートを作成すると、自分の過去に起きた出来事や、自分の考え方に影響を与えたこと、成功したこと、失敗したことを基に、自分のその時の満足度をラインでグラフ上に表すことにより、自分はどんな人間なのか、どのように生きたいのかといったことを模索する3つの視点を持つことができます。
 1つ目は、自分が感じている過去から現在までの自分の歴史に一貫性を持てる。
 2つ目に、組織の中での自分の位置が、ある程度客観的に理解できる。
 3つ目に、社会との関係の中で、自分の位置がある程度客観的に見える。
 このようなライフラインを書き出すことにより、自分の歴史に一貫性が持てるとともに、自分自身を3つの視点で見つめ直すことができます。一本の線であるグラフには、自分のいやな思い出から楽しかった思い出までが表されます。そんな自分の本音を書き出していけば、未来に向かってどのようにライフプランを作成すればいいのかを考えることができるからです。
 また、今日に至るまでの自分自身が担ってきた役割を明白にしても、今までとこれからが明白に見えたと思います。たとえば、日々の暮しの中にはたくさんの役割が存在しているのですが、それを8つの役割に分類し、再認識していきます。
8つの役割:
 @ 息子、娘
 A 学生
 B 職業人
 C 配偶者
 D ホームメーカー
 E 親 
 F 余暇を楽しむ人 
 G 市民(ボランティアなど)
 そして、年代ごとの自分の役割を明白にしていきます。
例:10代の時の役割
@ 息子、もしくは娘という役割 (子と親の関係)
A 学生という役割
B 余暇を楽しむ人という役割 
ほとんどの方はこういったいった感じになると思います。それを、同じように50代の役割を考えると、
@ 息子・娘という役割
A 職業人という役割(サラリーマン)
B 配偶者という役割(夫婦)
C 親という役割(親と子)
D 余暇を楽しむ人という役割
といった感じになります。年代や次期によって役割が異なることがはっきりとわかると思います。また、これらの役割の大きさの配分を、全体で100%になるように数値化すると、どの役割が大きいのかがもっとわかりやすくなります。皆さんもやってみていただけますか? 「職業人という役割」がどうしても大きくなってしまうのではないでしょうか?
 そして更にこのやり方で、定年退職した時の役割をイメージしてみてください。いくつかあった50代での役割が、退職すると、「職業人としての役割」がなくなり、その頃には子供も独立し、「親としての役割」も小さくなります。その一方で、例えば、自分の親が、介護が必要になる年齢であったりすると「息子・娘という役割」が大きくなったりして、役割の比重が変わってくるのがわかると思います。特に以前は大きかった「職業人としての役割」の比重が小さくなると、何となく生活にメリハリを感じれなくなると思います。
 そうならないためにも、退職後は「市民としての役割」を考えてみたりする必要があります。



お わ り に

 私達のような仕事をしていると、日々いろいろな方が事務所にいらっしゃいます。「退職してもすることがない」、「仕事を探しているのだが見つからない」など、相談内容もまた様々ですが、退職後に進むべき道を見失う方のほとんどは、仕事が忙しくて退職前に何の準備もしていなかったという方です。
 またその一方で、退職後に元気に生きがいある人生を送っている方と、時に一緒に仕事をする事がありますが、そういった方々の共通点といえば、50代に入ってから趣味や地域の活動に参加したり、退職後の交友づくりから居場所づくりなどをしたりするなど、きちんと退職前から準備をされていた、ということです。ですから、皆様もできるだけ早く、退職後の準備を今すぐにでも始めていただければ、と思います。