震災の経験と教訓から生まれた
「生きがいしごと」への取り組み
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兵庫県理事     
清 原 桂 子


震災の経験と教訓から

 未曾有の大災害であった阪神・淡路大震災の経験から、私たちは生き方・働き方についても、多くの教訓を得ました。例えば、1つには、家族をひらくことが逆に家族の絆を結ぶということです。震災のときには、自分の家族だけはと、家族分の弁当を何食分も集めたり、避難所のいい場所を独占したりといったことも実際には見られました。しかし、「わが家族だけ」のなかに入りこめば入りこむほどどんどん家族の関係は煮詰まっていき、逆に決定的に崩壊していくという例も少なからずありました。
 それに対して、極限の状況のなかでも、あるいは極限の状況であればこそ、家族が地域にひらかれ、家族構成員のそれぞれが地域のたくさんの人間関係のなかにあることで、逆に家族の絆を結んでいった例もたくさんあります。
 2つめは、近隣の重要性ということです。時間との戦いのなかで、ガレキの中から助けられた方の8割は、近所の人に助けられたといわれています。淡路では、どの部屋に寝ているかまで近所の人が知っていたために、その日のうちに全員の安否の確認が行われ、神戸でも近隣の関係の濃い下町ほど、いち早く自治組織が立ち上がって、弁当や毛布の配給にも、その後の復興や心の支えにも大きな力を発揮していきました。
 3つめは、男女の生き方・働き方が問われたということです。震災では、大切な会社や店がつぶれ、業績悪化によって解雇され、ひたすら働きバチをしてきた男性たちにとってこれまでの人生は何だったのかということに直面せざるをえませんでした。人生イコール仕事、男は稼ぐものという強い意識にとらわれていた人ほど、仕事を失った自分を認めることができずに追い詰められ、アルコール依存や、ドメスティックバイオレンス、離婚相談も、急増しました。
 女性たちを見ると、パートタイマーなどの不安定雇用が多く、解雇されても、書面での雇用契約もかわしていない、雇用保険にもはいっていない、といった事例が多くありました。震災による死者は、女性のほうが1,000人多かったのですが、これは経済的な困窮から、多数の女性高齢者が安く古い木造文化住宅に住んでおり、これらの住宅の多くが倒壊したことも一因でした。しかし、逆に仮設住宅に入ってから亡くなって発見された人の7割は、男性でした。
 4つめは、閉じこもっていく人が増えるなかで、広い意味の「しごと」と、「しごと」を通じた仲間づくりが生きる意欲をつくったということです。NPOによる、被災高齢者が救援物資のタオルでつくった「まけないぞう(象)」の販売は、震災直後からはじまりましたし、県も、「女たちのしごとづくりセミナー」や「いきいき仕事塾」の開講、そこでつくられたものを含め被災者手づくりの小物や野菜・花などを販売する「フェニックス・リレーマーケット」を各地で開催、さらに高齢者に被災地の子どもたちを支援する側になってもらう「高齢者・昔の遊び伝承事業」などをスタートさせました。
  さらに、そうした取り組みをすすめる地域団体やNPOなどに、300万円(現在は200万円)の立ち上がり助成をする「コミュニティ・ビジネス離陸応援事業」や、立ち上がったあとのための低利の「NPO活動応援貸付制度(300万円上限)」なども事業化されました。
 大きな収入にはならないかもしれないけれど活動を回していけるくらいは少しでも収入になって、しかも地域に貢献していける、地域でのそんな新しい働き方を応援し、そうした仕事をしたい人と働く場をマッチングするための「生きがいしごとサポートセンター」の1ヵ所めが、NPOに委託して開設されたのは、2000(平成12)年のことでした。
 今、神戸東、神戸西、阪神南、阪神北、播磨西、播磨東、の6地域で、公募による審査を経て、NPOによる「生きがいしごとサポートセンター」が活動を展開しています。民間と行政の協働事業としての新しい試みでもある、これらの挑戦は、ミッション(使命)と事業経営のバランスのむずかしさなどの課題を抱えつつ、誰にとっても、生きがいが、広い意味の「しごと」(社会に役立っている実感)とそこから広がる人間関係によって得られることを、私たちに教えてくれました。



政労使三者合意

 兵庫県では、震災後の復興需要も一巡して有効求人倍率が県政史上最低の0.32まで落ち込んだ1999(平成11)年、連合兵庫、県経営者協会、兵庫県の三者で話し合いを重ね、全国ではじめての「兵庫型ワークシェアリングについての合意(兵庫合意)」を交わしました。そしてこの合意に基づいて、労使によるガイドラインづくり、モデル事業所への助成、アドバイザーの派遣、などの事業が取り組まれていきました。
 その蓄積の上に、2006(平成18)年には、三者による「仕事と生活の調和と子育て支援に関する三者合意(ひょうご子ども未来三者合意)」が締結されました。アクションプログラムも策定され、現在、ワークライフバランス(仕事と生活の調和)へ向けての、三者それぞれの、そして三者協働の取り組みがすすめられているところです。


「しごと」と生活の調和

 こうした流れのなかで、6地域にある「生きがいしごとサポートセンター」でも今、シニア世代や退職期の団塊世代向けの、各種ライフプランセミナーや、地域デビューのワーク、現役時代のキャリアをNPO活動に活かしたい希望者へのマッチング支援、ボランティアや「生きがいしごと」のミニ体験、等々に力を注いでいこうとしています。
 現役の時代から退職後も、広い意味の「しごと」と生活を調和させ、生き生きと暮らしていくことができるよう、政労使が知恵と力をあわせて取り組んでいければと考えています。

生きがいしごとサポートセンターの活動から