働きやすい
職場環境づくりとは
―過去の事故、災害の事例を
      見ながら考えてみよう―
安全品質環境部     
  部長 北之防   保


 みなさん、ご安全に。
 今日は、労働対策委員会の第一回の研修会という事ですが、皆さんは、職場の代表として、これから、各職場での働きやすい職場環境づくりを考え、職場の声を会社側に伝える大変責任のある立場となります。働きやすい職場環境づくりとは、一体どのようにしていけばよいのか、これから皆さんに考えて頂きたいと思います。今日は、まず、過去にどのような事故、災害があり、それをどのように対処していったのかを見ながら、考えてみましょう。


最近の災害統計


 統計によると、1973年(昭和48年)には5000人を超える人が労働災害により亡くなっていますが、当時はヘルメットをかぶる人も少なく、墜落すれば死亡する人が後を絶たなかったために、多かったのですね。しかし、安全意識の高まりに呼応して死亡者数が年々減ってきました。最近、我々安全の担当者が口を酸っぱくして指摘するのは、安全帯の使用です。これも腰に巻くまでに20年ほどかかりましたが、まだまだ、適切な知識を持って使用する人は少ないので、我々も使用指導を強化していく必要があります。また、死に至らなくても、現在、50万人を超える人が毎年、何らかの形で、障害保険を受け取っています。つまり、1分に1人は、怪我をしているということになります。
 業種別に災害状況を見てみると、製造業と建設業が半数を占めています。これらの業種が危険な環境にあることが出ています。特に建設業は、死亡者数が多く、危険な業種であることがわかります。我々と関係ないと思っている人がいるかも分かりませんが、当社も建設業を行っています。「建設」を「建築」と誤解する人がいますが、機械を据付けたり、配管、配線工事をしたりすることも建設業と分類されています。
 産業別に怪我のしやすさを見てみてみると、1973年(昭和48年)には港湾荷役や鉱業が非常に高い数値を示していましたが、機械化が進み、今ではずいぶん安全な作業場になってきています。また、事業場別にみると100人未満の中小企業が圧倒的に多く、安全に対する取り組みが低いことを示しています。
 全産業でみると、死傷者がでるのは、墜落、転倒、はさまれ、巻き込まれが多くなっています。しかし、死亡者数では交通事故が30%を占めており、次いで、墜落・転落が25%を占めています。
 これを建設業で見ると死傷者数は全産業に比べ、墜落の割合が増えています。また、死亡者数では墜落の割合が45%とほぼ半数になろうとしています。建設業では墜落に注意することが事故を減らす第一歩であることがわかると思います。また、製造業では、はさまれ・巻き込まれが30%を超えており、死亡者数も同様の結果が出ています。特に、機械や回転物を扱うことが多いのでこのような結果になるのですが、機械を止めずに補修をしていて巻き込まれてしまうことが多いようです。
 以上、日本の労働災害の状況を説明しました。普段、馴染みの無い数値を聞いて、興味が沸かなかったかもしれませんが、労働災害は非常に多く発生しており、いつ、自分の周りで起こっても不思議ではないのだと言うことが分かっていただけたと思います。 次に私が最近、特に気になった災害についてお話します。


最近の災害統計


・連絡通路が崩落
平成15年8月26日
 新潟県新潟市で、コンベンションセンターと駐車場をつなぐ連絡通路の一部が崩落しました。これは歩道橋ですが、ある朝突然落ちました。下に道路が見えていますが、幸いけが人はでませんでした。調査の結果、設計ミスであることが判明しましたが、パソコンでシミュレーションをやっても根本的なチェック能力がないと、このような結果もありえます。皆さんもパソコンソフトに頼っていませんか?


A社名古屋製鐵所火災
・A社名古屋製鐵所火災
火災発生・鎮火日時/平成15年9月3日(水)19:45分覚知・9月4日(木)3:26分鎮火
火災発生場所/愛知県東海市
火災概要/COG(コークス炉ガス)タンク、ガスホルダー(容量約4万トン)で、一酸化炭素ガスと酸素が反応して爆発炎上したもの。それにより、隣接したBFG(高炉ガス)タンク(容量10万トン)が誘発爆発した。同所ではその後9月12日にも10万トンガスホルダーから火災が発生しました。
死傷者/15名負傷(うち1名重傷)
 この災害は人災です。第1発見者が異常に気付いて、中央制御センターに通報したにもかかわらず、パネルに異常がでていないので問題ないと何も手を打たなかったために「爆発」と言う最悪の事態まで発展しました。


B社栃木工場火災
・B社栃木工場火災
火災発生・鎮火日時/平成15年9月8日(月)12:00時頃・9月10日(水)10:30分鎮火
発生場所/栃木県黒磯市
火災経過/B社栃木工場のバンバリー棟内に8機ある精錬機の第3号機付近から出火。
死傷者/なし建物被害/建物約40,000m2全焼、天然ゴム、カーボンなど475t焼損、タイヤなど多数焼損
 溶接作業の火がカーボンブラックに引火。消火器なし。防火シャッター故障精錬機の近くの鉄板がずれているので、溶接してとめようとした。人員削減で補修をする人がいなかったため、自分で直そうとしたとのこと。
 しかし、カーボンブラックは引火しやすく、プロでも消火器を横に置かないと作業が出来ないくらい、危険な場所でした。溶接の火が移った時、消火器を探したが周囲になく、延焼だけは防ごうと防火シャッターを下ろそうとしたが途中で止まってしまいました。そうこうする内に燃え広がってしまい、手がつけられなくなったとのこと。この人は後になって責任を感じ自殺しました。


C社北海道製油所(苫小牧市)タンク火災
・C社北海道製油所(苫小牧市)タンク火災
1回目の火災/平成15年9月26日4:52分覚知、同日12:09分鎮火
2回目の火災/平成15年9月28日10:49分覚知、9月30日、5:10分鎮火
 1回目の火災は、十勝沖を震源とするマグニチュード8の地震が発生し、その直後に、苫小牧にあるC社北海道製油所・特定屋外タンク貯蔵所で、リング火災が発生しました。当該タンク付近の配管からの漏油火災が発生したものです。2回目の火災は最初の火災炎上したタンクから200m程はなれたナフサのタンクから出火し44時間も炎上しました。2回目の火災前には近所の人から臭いの苦情が多数寄せられてため消防署も出光に確認したのですが、「泡で押さえてあるので大丈夫」と回答しました。タンクの油面を泡で押さえていましたが、風で泡が飛ばされていたのを確認していなかったのです。この時に担当者が現場確認をしていれば、災害は防げたと思われる例です。


当社の過去の災害


 では、当社での過去の災害を例に見てみましょう。

・過去の災害事例1
 ごみピット土止支保工の最上段部に設置した雨養生用のブルーシートの雨水を落とそうと安全柵のネットをくぐり、腹起し上でブルーシートを持って引っ張りました。しかしうまくいかず、切梁上に乗り、再度ブルーシートを引っ張った直後、滑ってしまい、約4.7m下の壁鉄筋上に墜落しました。

・過去の災害事例2
 仮設足場を組み立てていましたが、クランプを上向けに取り付けて吊り下げていたため、外れて落下したため、その上に乗っていた作業員が9m墜落してしまいました。足場を組むときには足場組み立て等作業主任者が指揮することになっていたのに、作業前のKYもせず、作業を下請けに任せていた結果です。幸い死亡災害にはいたりませんでしたが、死亡災害になっていたら、この作業主任者は有罪になっていたでしょうし、また、安全配慮義務違反で当社も訴えられていた可能性があります。

・過去の災害事例3
 黒板を片手に持って写真をとるため、梯子を上っていたときに手がすべって墜落してしまった災害です。
 3点確保が梯子を使用する際の基本でありますが、物を持つとこれができない。基本ルールを守らなかった災害です。

・過去の災害事例4
 25トンラフタークレーンにてフレコンを吊り上げ濾過池内に砂利を充填し空のフレコンパックを吊り上げたとき強風にパックが揺れ巻き込まれて転落した(高さ:4m)。
 これらの災害事例を見直してみると、共通して言えることは「基本的なことが守られていないことから発生したものがほとんど」ということです。基本的なルールを守ることがどれほど大切か、ということをあらためて思い知ることができます。



おわりに


 当社は今年6月から労働安全衛生マネジメントシステムを導入します。本社と作業所が一体となり、「計画(Plan)−実施(Do)−評価(Check)−改善(Act)」という一連の過程を定めて継続的に行っていきます。
  自主的な安全衛生活動を促進することで、潜在的危険性を低減し、健康の増進及び快適職場の形成促進により、安全衛生の水準向上に資することを目的としています。
  社長は安全について、「当社は、発足後1年半が経過しました。2004年度は2003年度の重篤災害を含む安全成績を踏まえて大幅改善を目指し取り組んできました。件数では前年とかわらないものの重篤な災害もなく着実に安全レベルが上がって来ました。災害の型で見ると墜落災害、挟まれ巻き込まれ、そして有害物との接触が多く、その原因をみると基本ルールをした不安全行動に起因しています。今後もきめ細かな指導や教育等の安全活動を進めることにより、安全成績向上を目指さなければなりません。また、今年度は交通災害が、第二当事者としても事故もかなりありますが、過去最悪の結果となりました。類似の事故が発生しており、今年度導入しました適性検査を活用した指導や教育を通じて一人ひとりが交通ルールを守り、交通事故を防ぐという交通安全に対する意識を醸成してください」と、年頭のあいさつでも述べていた様に、現場での作業以外でも社会人としての基本的な交通ルールを守ると言った事からも安全に対する意識レベルを上げてもらいたいと考えています。
  衛生関連では、定期健康診断の有所見者率が昨年と比べて全般的に悪化しています。全国平均と同等ですが、二人に一人はどこか健康障害があるという状況です。さらに有所見者の過半数が過労死につながる心臓病や脳血管疾患関連の予備軍ですので注意が必要です。自分のためにも家族のためにも自己管理を徹底してもらいたいと考えています。
  最後に、今後ともまだまだ厳しい経済状況の中で我々は日々、頑張っていかねばなりません。そのためにも、全員が労働災害ゼロと職業性疾病ゼロを合言葉に安全と健康に気を配ることができる快適な職場づくりを進めるにはどうしたら良いか考えていきましょう。
(文責:福田智宏)


研修会初日は「安全衛生」についての朝までトーク

 金曜の夜から土曜にかけての一泊二日で行った研修会。初日は小角副委員長を中心に、労働安全衛生法についての勉強会と安全衛生についてのフリーディスカッションを行いました。教材は2002年12月に茶園講師を迎えて開催したセミナー要録集。夜が更けるとともに車座のディスカッションも熱気を帯び、充実した研修会のスタートとなりました。