「働くということの意味・目的と心得」
勇気ある楽観主義と
使命を持った自然体で
(社)日本マーケティング協会理事
株式会社マンダム 常務取締役 
桃 田 雅 好


「働く」は永遠のテーマ


 みなさん、こんにちは。「意外」な職歴を持った桃田です。(一同爆笑。講師のプロフィール紹介で「多彩な職歴」と紹介するつもりの司会者が「意外な職歴」と言い間違えて紹介)
 ちょうどお昼過ぎで、みなさんも眠たくなる時間帯だと思いますので、マンダムのフェイシャルペーパーを配りますので、すっきり目を覚ませて聴いてください。
 このビジョンづくり委員会でお話しさせていただくのは、一昨年(2003年)の5月以来、2回目になります。今回は「働く」ということがテーマになっていますが、私自身もマンダムに入社し働き続けて31年、現在54歳です。第一線の営業から開発まで、いろんな仕事に取り組んできました。営業時代の9年間には7回の人事異動を経験し、ある時は上司から左遷だとも言われ、辞表を出したこともあります。現在ではそんな経験をも生かしながら社員の育成に力を注いでいます。
 「働く」ということ。今回も大変面白いテーマを与えていただきました。しかし、ある意味で非常に難しいテーマでもあります。私自身も悩んできたし、すべての企業にとってのテーマであり、そして過去から現在、未来にも続き、また、マンダムでも、みなさんの会社にとっても「永遠のテーマ」だと言えます。後輩や部下たちが、「会社って嫌な所だ」、「やりがいって何ですか?」、「どうしたら昇進出来ますか?」、「あんな奴が昇進してなぜ自分はなれないのですか?」など赤裸々な悩みを抱え、相談を受けることがありました。私自身も嫌な思いを一杯した経験から、後輩たちにこんな嫌な思いはさせたくないと考え、これまで私がまとめてきた資料を、本日のレジメとしてみなさんにお配りしています。これらをひもときながら、みなさんと一緒に「働く」ということについて考えていきましょう。




「働く」ことを真剣に考え出した理由



マンダムの革新的DNA経営を紹介した
平林千春氏著
「365日のオンリーワン・マーケティング」
  では、みなさんと考える前に、マンダムでの事例をご紹介します。「働く」ことについて真剣に考えるきっかけとなったのは、過去、2度にわたる経営危機でした。一度目の経営危機は、創業から1970年(昭和45年)までの間、ロングセラー商品であった丹頂チックや丹頂ポマードのイメージから脱却出来ずに低迷した時期でした。もう潰れるのではないかと思われましたが、このときは、たまたまチャールズ・ブロンソンの「う〜ん、マンダム」というCMで話題を呼び、商品が大ヒットしたお陰で生き伸びることが出来ました。これはポマードという商品そのものが衰退していく時期に起こった危機でした。
 二度目は会社存続が危ぶまれる最大級の危機でした。ちょうど25年程前のことです。その当時、流通改革を行い、代理店制をすべて止め、販売店との直接取引を行うようにしていました。ところがそれが大失敗に終わり、1978年から1980年にかけて、業績が低迷する結果となりました。つまり、直販体制を取ったことにより、営業マンの数が膨れあがり、それに加えて売上が伸び悩んだために、利益が確保出来ない状態になってしまったのです。現在350億円の売上で営業マンが150人に対し、その当時は60億円の売上で450人もいました。
 結果的に大リストラを行わざるを得ない状態に陥り、私も営業所長をしておりましたので、希望退職を募る暇もなく、指名解雇をして営業マンを半減させるリストラをしました。労働組合はありませんが、不当解雇ではないかということで労働基準局より聴取を受けることになりました。会社の深刻な状況を説明すると、「それは仕方が無い」と言われるほどひどい状態だったのです。痛恨の思いで社員を解雇せざるを得なかったわけですが、現在の社長も当時「二度と起こしてはならないこと」として肝に銘じました。そして会社業績が悪化して本当に迷惑を受けるのは、取引先と社員だということを忘れずに今日まできました。この25年前の危機があったからこそ、「働く」ということを真剣に考えていくことが出来たわけです。二度目の深刻な危機から立ち直るために、企業存在の原点を見つめて再建に取り組み、その後数年で売上高は200億円を突破し、東証一部への上場も果たすことが出来ました。


再建のキーワード 全員参革の会社へ


 では、再建するために我々が考えたことをご紹介します。まず、「再建へのキーワード」というものがありました。経営難に陥った最大の原因は、独断専行のひとりのトップに起因していましたが、そのことを我々が許していたということでした。確かに経営のトップですから、経営批判しにくい状況です。しかし、それを助長させた我々全員にも責任があったのです。その後、このトップも経営不振の責任を取り、会社を去っていきましたが、後に残された者で「どうやって再建させるのか?」が問題となりました。社員の「再建への想い」として「我々の子供たちに入社をススめられる会社にしたい」を掲げ、次に、100億円の売上達成と持続を目的に「200万人のマンダムワールドをつくろう」を再建のスローガンに掲げました。200万人の人たちがマンダム商品のファンとなったら……と仮定して、これを逆算していくと、売上が100億円になる計算です。
 これを達成していくための、再建のキーワードとなるマンダム用語が生まれました。一つ目は「他動から自動へ」。まず自らが動くということです。誰かがやってくれるだろうではなく、まず自分から動くことです。関谷さんが「一人立つ精神で……」と言っていましたが、まさに自ら立つことです。二つ目のキーワードは「理念とのベクトル合わせ」です。理念を大切にし、社長から社員まで一緒になり、お互い双方向から企業理念にベクトルを合わせて力を発揮する会社になることです。三つ目のキーワードは「行動から考働へ」です。これは、文字の通り「考えて働こう」ということです。企業の収益をあげるには、いかに一人ひとりが考えて生産性を上げて働くかがキーになってきます。一生懸命、汗水垂らして努力して働くことだけが、いいことでは決してない。一人ひとりが、プロの人材として考えて労働効率を上げ、そして給料も上げていくことが必要なのです。
 これらの再建へのキーワードと共に、各部門でもキーワードを作りました。開発部門では「生活者(発)生活者(着)」。これは生活者からのニーズで商品を開発し、満足していただき、また、不満があれば、それを解決し商品として生活者へ提供する構図で、常にお客様のニーズがお客様自身に帰っていくようにするということです。また、営業部門では「売り場から買い場の創造」を掲げました。営業はただ商品を売りつけるのではなく、お客様から買っていただけるように営業しようということです。
 そして、これらのキーワードを元に再建後のイメージを「モノづくりから価値づくりの会社へ」、「ナンバーワンよりオンリーワンの会社へ」、「人件費は低く賃金は高くの会社へ」とし、「全員参革」の経営を推進していくことにしました。この全員参革とは、自己の責任において自分で自立する精神を持ち、一人ひとりが自覚して自分のスキルを上げて使命を全うするために「お役立ち考働していく」ということで、社外の方々からも、よくその意味を尋ねられる言葉です。
 人材育成で言いますと、私が今している仕事は3つあります。ひとつは「企業が成長する戦略シナリオを作ること」。そして、それが企業内で上手に動く「仕組みを作ること」、そして、その戦略にそって実行する「人を育てること」です。とくに人材の成長がないと企業の発展もないと考えていますから、人を育てることは非常に楽しみなことでもありますし、本当に最高の仕事だと思っています。
 このような再建のためのキーワードを持って、マーケティングや人材育成、企業哲学へと展開し、企業の社会的責任を明確にして「働く」ことの環境づくりを行いました。一旦潰れかかり、社員を解雇しなければならないような嫌なことを経験したからこそ、このようなことを考え、実行して目標を達成していくことができ、そして我々は誇りと自信を持って事業を運営しています。
 以上、マンダムの再建までのプロセスを例にご紹介しました。それでは「働く」の意味、心得、目的の大きく3つに分けて、みなさんと一緒に考えていきましょう。


図−1


「企業・事業・経営」の違い


 企業と事業と経営とありますが、いろんな企業のトップの方と話をしていてもこの3つの縦分けがキチンと出来ていないと感じることが多くあります。この3つについての正しい認識がないと、「働く」ということも分かってこないので、本題に入る前に説明します。
  まず「企業」。みなさんの働く場であると同時にいろんな事業が集まった組織。これが「企業」です。次に「事業」とはマーケットでのお客様のお役立ちする「価値」を創出することです。みなさんもいろんなマーケットでの機械やシステムを作って、それを営業がブランドとして販売していますが、お客様の目的は、機械の購入ではなく、神鋼環境ソリューションが作った機械を使って、新しい価値を見出すことなのです。みなさんの会社が行っているのは、お客様を通じ、様々なマーケットで価値を提供しているのです。だから、「事業」というのは「価値創造」だと思ってください。次に「経営」です。当然ですが、会社は潰してはいけません。人・物・金など様々な物が上手く軌道に乗るための仕組みを考えて作っていくことが「経営」です。大事なことは、お客様に対して価値を創出すること。これが事業の目的になるのです。このためにみなさんがいろんな立場で支えているわけです。支えているのは社員です。中にいるようで、外側から支えているわけです。企業が存続するために上手に支えている。そういう仕組みになっています。では、社員と経営者の違いは何なのでしょうか。経営者は社員ではありません。会社を退職して株主から経営権を委任されて行っています。だから、労働契約はありません。基本的には社員とは全く違うという認識があります。ですから、経営者は株主からお金を預かってそれを上手く活用して、どうすれば企業価値があがるのかなどを考えているのです。会社というのは漠然とひとつものではなく、企業と事業と経営は全く異なり、それぞれが役割をもって成り立っているということを知ってください。そう考えていくと、企業というものを支えているのは誰なのか、または誰のものなのか?と考えると、これは会社を支えている社員のものなのです。それでは事業というのは誰のものなのか? この事業の価値を認めてくれるかどうか決めるのはお客様です。だから、事業は、お客様のものだと思います。そして経営は経営者のものではなくて株主のものです。これはライブドアの問題でも明らかにされました。例えば、これが事業も企業も経営も全て経営者のものだと勘違いして失敗したのが、西武鉄道、コクドの堤義明さんの例です。そしてブランドを自分たち企業のものだと過信して不祥事に繋がったのが雪印の件です。この3つの違いを分からないとCSR(企業の社会的責任)も「働く」という意味も分からなくなるので、よく理解してください。


「働」という意味


 「働」という文字をみると、まず、真ん中に「重い」と右側に「力」があります。これは重い石を力合わせて、または全力を出していくと、「動く」という意味になります。「働く」は、この「動く」にさらに人偏がつきます。これは、人が、重いこと、重要なこと、例えばプロジェクト等を力合わせて全力で取り組み成果を出していくこと。これが「働く」という言葉の真の意味だと考えれば良いと思います。人がいなければ、ただ動くだけのことです。みなさん方は「労働組合」ですが、「労働」という言葉は、法律で言うと本当に嫌な言葉です。労務を提供するとか、使用人だとか言われ、労働者という意味のイメージはあまり良くありません。ですが、この「労働」の「労」を見ると、「学ぶ」と「力」で組み合わされています。つまり、「労働」とは働くためにいかに力を出せば良いのかを学んでいくことだと考えれば、嫌な法律用語のイメージとは違ったものの見方に変わり、「働く」ということの本当の意味が分かっていくのではないかと思います。



「働く」心得


 生きていれば、いろいろと悩み苦しむことがあります。かく言う私も随分と悩んできました。そんなときは同僚・先輩・上司に相談し随分と助けて貰いました。本当に有り難かった。相談する相手がいるということは本当に素晴らしいことです。みなさんには相談出来る同僚・先輩・上司が居ますか? ここでは仕事・会社・家族に関わる悩みを取り上げ、そしてそれらに対峙する際の心得についてお話します。
 図−2は自己の矛盾と企業の矛盾とが年齢や経験とどう関係しているのかを模式したものです。25才くらいまでは企業への矛盾よりも自己への矛盾を強く感じます。働き始めは右も左も判らず不満も有りませんが、少し慣れた頃から「こんなはずじゃなかった」、「このままで良いのか」と自己の矛盾を強く感じます。この感覚も慣れとともに徐々に小さくなっていきます。慣らされていくわけです。
 その様な状態がしばらく続きます。そして40才前後になると様々な問題が一気に噴き出して来て悩みも多くなります。会社では仕事の経験も積み、職位も上がり、その分、責任も重くなっていますし、当然、量も増えています。平日は家族と会話を交わすことが出来ない日が続くこともあるでしょう。平日だけに留まらず休日も仕事に追われているかも知れません。
 一方、家庭では子供も大きくなり教育費は増加の一途を辿り、また住宅ローンを抱えている人もいるでしょう。しかし思うほど収入は増えません。ちゃんと仕事もしなくては駄目。ちゃんと父親もしなくては駄目。でも両立する時間がない。この様な問題に直面する頃です。


図−2

図−3

 次の図は現実の世界を取り巻く構図です。図−3のようにそれぞれの世界を分断するところに問題が発生します。
 このような関係で行く限り、必ずどこかの世界に飲み込まれ、結局は現実と理想の乖離が生じてしまうのです。では企業の論理、家庭の論理に引きずられたり、飲み込まれたりしないためには、どうすれば良いのでしょう。それは企業と家庭と自己の三者をバラバラに考えないことです。企業とか家庭とかを越えた自己の正しい価値観を持つことです。
 まず会社の仕事と自分の仕事とを分けてみましょう。図−4の三角は私が大切にしたいものです。自分を中心に置くわけです。しかし決して利己主義的な考えはしてはいけません。
 社会的に少し成長すると、自分自身を大切にするということは、自分に深く関わっているもの、つまり家庭・仕事・私事の全てを大切にしなければ叶わないと気付くはずです。周囲から孤立して自分だけが幸せになるなど有り得ません。また、時間だけが支配するものでもないことに気付いてください。タイムシェアという事実だけではなくマインドシェアという概念です。費やしている時間よりも中身の方が重要なのです。
 社会の中で成長していくプロセスにおいて、この3つ(家庭・仕事・私事)は必ず大きな影響を与えてくれます。そう考えると、仕事とは、自分が一生をかけてやる仕事と会社の中での仕事とが本来は別のものであると言えます。

図−4
  「私」である自分が会社に求めるものは図−4の四角です。まずビジョンです。どんな理念を持っているのか。どこに進もうとしているのか。何がしたいのか。これらが自分の持っている仕事観にマッチしているかどうかが重要です。次に賃金です。やはり安すぎたら考えます。それと福利・厚生。そして自分の仕事の結果に対する正しい人事処遇が出来るかどうか。この4つが、「私」が会社に求めるものです。会社と自分は別のものと区別することが大切です。
 このような関係ですから、「会社」と「私」とは非常に崩れ易く危うい関係であると思います。その微妙な関係をガッチリと繋ぐのが「人」ではないでしょうか。
 私はよく後輩に「仕事には誇りと忠誠心を持て」と言っていますが「会社に忠誠心を持て」と言ったことはありません。仕事に誇りと忠誠心を持つことと会社に忠誠心を持つことは違うからです。会社や上司についての相談を受けたときは、「会社を見たら腹がたつ。だから会社を見ずに仕事を見なさい。仕事は君を裏切らない」、「上司の顔を見たらもっと腹がたつ。だから上司を見ずにお客様を見なさい。お客様は裏切らないから」と言います。
 すると不思議なもので言われた本人はスッと肩の力が抜けて、また仕事への意欲が出てくるんです。でもそこで気付いてほしいのは、「会社がどうの上司がどうの」と言っている間は、まだまだアマチュアでしかないことを。それを越えてこそプロであることを。

図−5
  次に会社の中だけにある悩みについて考えてみましょう。図−5は年齢・経験が進むに連れて組織に求められる仕事の内容を表したものです。35才から40才までは「適職での成果」が求められる訳ですが、ちょうどその頃は「昇進」についての悩みが出てくる頃ではないでしょうか?
 企業組織人にとって「昇進」は最大関心事の1つであることは、いつの時代も変わらないもので、それは「収入という生活保障」と「肩書きという世間評価」と「処遇という自己満足」が同時に得られるからではないでしょうか。しかし「昇進」には個人の力、例えば過去の実績、今後の期待能力、部門間を調整出来る力・部下を育成出来る力などの現在の人間力は当然のことですが、それだけで決まっていくものではないということを認識しておきましょう。例えば、利益が出ているときか否かといったタイミングや、他部署とのバランスなどといった「組織の都合」も作用しますし、上部からの引きやコンセンサスといった「関係者の都合」といったものも作用するわけです。

【昇進の心得5ヶ条】
早からず遅からず身の丈に合った昇進に感謝し、第一と考えること。
昇進は目的でもなく手段でもなく自己が成長する人生プロセスと考えること。
“フォアザチーム・フォアザワン”の精神で、誰かの犠牲のもとの昇進は無きものと考えること。
家族を愛し、友人を大切にし、仕事に誇りを持つことを忘れて昇進なきものと考えること。
他人との相対比較は己の心を貧しくし、正々堂々と昇進することを喜びと考えること。

 そして絶対に忘れてならないことは、昇進者はより高い組織責任(成果・部下育成)と個人責任(失敗・倫理)が課せられるということです。昇進すれば、部下育成とリーダーシップについて悩むのです。
 まず前提に仕事の与え方ですが、[1]何をするのかという使命を与え、[2]構想を示し、[3]熱情・情熱を引き出し、[4]戦略を提示し、[5]具体的な実行計画を指示すること、が部下への仕事の与え方です。
 そして「善い事」をしたら褒めてあげてください。誰でも褒められれば嬉しいものです。そうすると部下は「ありがとう」となります。逆に「悪いこと」をしたら、ちゃんと叱ってください。次に失敗をしたときは励ましてあげてください。絶対に怒らないことです。仕事は失敗することが多いのです。「励」という字は病人に万の力を与えると書きます。「失敗」と「悪いこと」は違うということをしっかり認識しておいてください。最後に「成功」したときは褒めるのではなく、労ってあげてください。褒めると調子に乗ってしまいますので、そのあたりは勘違いのないように。そして管理職には次の3つの役割があると思います。


 一つ目は、職場風土を常にクリーンにしてあげる、風通し良くしてあげる、働きやすくしてあげるクリーナーであること。つまり雑巾ですね。二つ目は、仕事の方向付けや優先順位をつけてあげるナビゲーターであること。三つ目は、夢や働き甲斐を与え続けてあげるプレゼンテーターであること。難しいことばかりですので、常々意識しておく必要があります。これがちゃんと出来ていれば人は必ず育ちます。以上が部下育成の心得ですが部下育成には教訓もあります。

部下は人間故に“アメ”と“ムチ”、
“無関心”と“放任”は厳禁!

 アメとムチは凶暴な動物の調教に使うもので、ヒトは調教するものでは有りません。昇進や報酬をちらつかせて動かし、失敗したら突き放す様な扱いは絶対してはいけません。
 次にリーダーとはどうあるべきなのでしょう? 私は「夢と希望を与え方向を定め導き人を育てる事を忘れず“信義で動き知徳で治める者”をリーダーというなり」と考えています。ですからリーダーには、より一層厳しい心得が必要です。

志高く夢持てど、腰高く戦略なき者、上に立つべからず。
権力とハードパワー発揮すれど、哲学とソフトパワー無き者、上に立つべからず。
多大なる功有りても後継者育てざる者、上に立つべからず。
時と機を観じ出処進退をわきまえざる者、上に立つべからず。

 では地位と人との関係はどうなっているのでしょうか。私は以下の原理・原則があると考えています。

地位には権力が与えられるが、行使する人の責任が伴うものである。
地位には権威が認められるが、行使する人の使命感がその条件となる。
地位はリーダーを生むが、リーダーとして認められるのはリーダーシップの発揮による。

 つまり「責任無くして権力使うなかれ、使命なくして権力認められず、リーダーシップなくしてリーダーに非ず」ということです。
 50代半ばあたりから「後継者の育成」という悩みを持つことになります。では部下育成と後継者育成の違いとは何なのでしょうか。私は次の様に考えます。

 
後継者づくり
部下育成
1.対  象
単独
複数
2.目  的
リーダー継承
組織ボトム(レベル)アップ
3.育成内容
哲学・マネジメント
個別スキル
4.育成手法
マンツーマンの手造り
マニュアル・OJT・チャンス&トライ
 
師弟関係
能力開発

 みなさんもいつかは後継者の育成をしなければならないときが来ることになります。そのときにはこの話を思い出してください。しかし世の中には「部下育成」も「後継者育成」もしない人がいることも事実です。そういう人は組織においては経営資源を食い散らし害になる者とみなされます。専門性があるなら人間性の関与しにくい場所で活用出来ますが、それが無ければ追放するしかないと思います。


仕事に負けないためのメンタルスタンス


 このように会社・仕事では様々な悩みに出会います。寝ても覚めても頭から離れない。泣きたくなることなんて何度でもあるでしょう。そんなとき、負けないためにはどうすれば良いのでしょう。『負けないためには戦うしかない!』と腹をくくって下さい。逃げても仕方ありません。後から追いかけられるか、逃げた自分が嫌になるだけです。戦ってください。逃げるな!諦めるな!! 負けるな!!! ただ、戦い方だけは伝授しておきましょう。戦い方は2つだけ。「楽観主義で戦うこと」と「自然体で戦うこと」です。
 米国心理学協会元会長で現在、世界最高の心理学者と云われているマーチン・セリグマン博士が次のような楽観主義に関する研究を行いました。それはハーバード大学出身の超エリート達を20年〜30年かけて定点観測をし、彼らが卒業後どのような人生を歩むのかを調査するというものでした。ハーバート出身ですから社会的ステータスは当然得られていますのでみな一様に恵まれた人生を送るものと想定されていました。しかし現実はそうではありませんでした。30代ではみな、成功者として活躍していますが、40代になると会社が倒産し自殺した者、家庭がうまく行かず離婚、それが原因でアルコール中毒になる者などが現れ、そのあたりから人生の成功者と敗北者に分かれ始めるそうです。
 両者を分けたものは一体何だったのでしょう? 心理学的に云えば成功者の共通項は「楽観主義者であった」ことに対し、敗北者のそれは「悲観主義であった」ことでした。楽観主義とは、例えば「辛く寒い冬もいつか必ず終わり温かい春がやってくる」、「明けない夜なはい」と思えること、即ち「今の悩みやこの苦しい状態がいつまでも続くことはない。必ず打開出来る。打開してやる。」と思えることです。一方、悲観主義とは「この悪い状態がいつまでも続く」と思い込んだり、たったひとつの失敗で「あぁ自分は駄目だ」と自信喪失に陥ったりすることです。
 私も数々の失敗をしてきましたが、その度めげない、諦めない、「必ずこの失敗は取り返してやる」と前向きに取り組んできました。私も楽観主義者なのです。
 でも「楽観」主義と「楽天」主義は違います。楽天主義というのは“何とかなる”で、能天気に何もしない何も考えないことです。これでは絶対、何ともなりませんので履き違えないようにして下さい。しっかりと勇気ある楽観主義を持ってください。
 プロのスポーツ選手を見ても良い選手というのは肩の力が抜けて良い感じですね。自分が今やらなければならないこと、つまり使命がハッキリと判っているので無駄な力が抜けて自然体に近づいているのですね。妙に肩肘張らないことです。自然体で行きましょう。
 仕事に負けないためには、自分の人生哲学をハッキリと持ち、気力・体力・知力を充満させて成果を出していく。そして勇気ある楽観主義と自らの使命を明確にした自然体で戦うことが必要です。こうでないと勝てません。負けてしまいます。


「働く」目的


 最後になりましたが「働く」ことの目的とは何なのでしょう。何のために働くのでしょう。私はこう考えます。「自分の人生をハッピーにするために働いているのだ」と。では私の人生はどうあればハッピーなのでしょう。それは、家族・友人を大切にし、仕事に誇りをもって生きること。そしてその仕事を通して社会にお役立ち出来ることが私の人生のハッピーなのです。ですから、仕事に誇りを持つためには明確な使命がないといけません。その使命とは年齢や経験、または環境によって変化していくものです。
 あなたにとってハッピーとは何ですか? より明確に、より具体的に描いてみてください。そこにあなたにとっての働くことの目的が見えてくるはずです。「働く」の意味と心得をしっかり理解し、目的を持ち、あなたの人生をハッピーにしていってください。
(文責:中村隆昭、吉本真由美)


● 桃田雅好氏 プロフィール ●
1951年1月23日生まれ 54歳
1974年神戸商科大学経営学科卒業。
卒論「マンダムにみる経営戦略の変遷」の縁から、
1974年株式会社マンダム入社。
1981年西日本営業本部量販店統括マネジャー。
1991年商品開発部長。
1995年取締役商品開発部長。
2001年取締役執行役員商品開発部担当。
2003年4月取締役執行役員R&D統括。
2003年6月常務取締役〜現在に至る。
専門分野は「マーケティング戦略」「ブランド戦略ブランドマネジメント」「商品開発全般」。得意領域業種は「一般消費財のマスマーケティング(特に化粧品・トイレタリー市場)」寄稿論文に、ダイヤモンド社「月刊中小企業6月〜経営講座『失敗しない製品開発』連載」他がある。
(社)日本マーケティング協会理事、(社)関西マーケティング協会「マーケティングマスターコース」委員長兼代表マイスター、(社)日本能率協会マーケティング総合会議副委員長、京都大学経済学部大学院非常勤講師を務める。