神戸製鋼グループの
環境経営
小林氏顔写真
株式会社 神戸製鋼所
環境エネルギー部長
宮 川   裕


 はじめに


 皆さんこんにちは。只今ご紹介いただきました神戸製鋼所の宮川です。私は「環境」に携わって9年目になりますが、その前は加古川製鉄所で高炉関係の仕事をしていました。製鉄所の中でもいちばん環境と関わりの強いところに居たのですが、一転して逆の立場になり、社内で少し発言しにくいところはあったのですが、そこは仕事ですので、環境問題の重要性をみんなにわかって頂くべく、全社員で環境先進企業を目指してがんばっています。
 最近、マスコミでもよく取り上げられますが、公害とは別の意味で経営そのものにおいて環境問題が重要視されているということは皆さんもご承知のことと思います。最近は「環境経営」という言葉が使われていますが、環境経営がどういうことを指しているのかということは、必ずしも各社で一致しているわけではありません。私どもがどんなことを考えているかということをこの後ご紹介しますが、本来、「神戸製鋼グループ」といっているわけですから、神戸製鋼グループの主要な位置におられる神鋼環境ソリューションの皆さんには環境経営の話が通じていないといけないと思います。ただ、今まで直接お話しする機会がなかったのであまりご存知でない方もおられると思います。本日は「神戸製鋼グループの環境経営」の内容を理解していただいて、共感していただけるところは一緒に活動をしていただければと思っています。また、共感していただけないところがありましたらご指摘いただいて、大いに議論させていただきたいと思っています。活発なご意見をよろしくお願い致します。


 「環境」に対する認識と
取組姿勢


[1]神戸製鋼所のCO排出量
 最初に、神戸製鋼における「環境」に対する認識についてお話したいと思います。皆さんもご存知の地球温暖化に関する話をします。COは地球を温暖化するガスの1つと言われています。太陽から光が地球に入ってきて、それが地表で跳ね返って地球の外へ出て行くわけですが、その入りと出のバランスが保たれて今の地球の温度が維持されています。太陽から適当な距離をおいて回っていることにより、地球上の温度が維持されているのです。日本がもし火星や木星の位置にあったら、地球に存在するような生命体は生存出来ません。最近はどうも地球上のバランスが崩れだしているようで、地球温暖化の問題がクローズアップされるようになりました。
 ところで、温暖化の原因がCOであると新聞等では極当たり前のように言われていますが、実際は科学的根拠に基づいて十分に議論された話ではないそうです。地球上の温度とCO濃度が上昇しているのは間違いのない事実ですが、たまたま物理現象がそうなっているということだけだという意見の学者もいます。先ほどお話しましたが、人間が生存していくには限られた温度域でないといけないのですが、いずれにせよそれが崩れてしまうと人間は生存出来なくなってしまいます。


 この円グラフは部門別、産業別および鉄鋼業から排出されるCOの年間排出量を示しています。まず、左の図は部門別の内訳を示していますが、日本全体では年間約13億トンの排出となっています。そのうち約40%が産業部門、約30%が一般家庭や業務ビル等の民生部門、そして、約20%が運輸部門となっています。このように産業部門の排出量が最も多いのですが、産業部門を抜き出して内訳を示したのが真ん中の図です。この図を見ますと、産業部門の中では鉄鋼業が約40%と最も排出量が多いことがわかります。さらに鉄鋼部門を抜き出したのが右の図になります。もちろん新日鉄の排出量がいちばん多いのですが、神戸製鋼の割合はといいますと約9%になっています。計算しますと、日本全体の排出量に占める神戸製鋼の割合は約1%ということになります。この数字をどう見るかということですが、仮に日本に従業員1万人の企業が100社しかなければ平均的な排出量ということになりますが、実際はもっと多くの企業があるわけですから、神戸製鋼1社で1%の排出割合というのは、1企業としては非常に大きな数字だと認識する必要があります。
 また、神戸製鋼の場合は、神戸、加古川、高砂が主力の製鉄所あるいは製造所になっていますので、兵庫県下に絞ってみてみると、神戸製鋼の排出割合は約22%と高い数字になっています。事実だけを突き詰めていきますと、神戸製鋼で鉄やアルミを生産したり、機械で加工するという活動において大量にCOを排出しているということであり、それを事実として自覚する必要があります。もちろん、基幹産業を担っているわけですから仕方ない部分もあるのですが、ただ、神戸製鋼が例え1%の排出でも努力すればその効果は非常に大きいということを認識して、出来ることは全部やっていくという考えで環境保全に取り組むようにしています。

[2]地球の歴史と人類の関わり
 地球の歴史は46億年と言われていますが、これを1年の長さに置き換えて考えてみますと、人類の誕生は12月31日の14時30分、産業革命は23時59分58秒に起こったということになります。12月31日の14時30分以前の地球は人類が生存出来る環境ではなかったといえます。また、特に産業革命以降にCOの排出量が増えて地球温暖化が進んだとしますと、1年のうちわずか2秒間で地球の歴史を変えつつあるということになります。今の地球というのは台風や洪水があるとはいえ、人間にとっては住みやすい環境にあります。今のバランスが崩れたとたん、人類は生存出来なくなることを考えると、今の地球環境をいかにして守っていくかということが大事になると思います。
 以前、「地球にやさしい」という言葉が流行ったと思います。そのとき、地球を大事にしようとか、地球にやさしい行動をしようというキャッチフレーズが使われましたが、私は言葉足らずだと思っています。地球の歴史は46億年もあって、その間に温度が上がったり、下がったりしてきたわけですが、それが本来の姿だと思います。人間が地球に対してやさしいことをしようというのは、地球にとっては大きなお節介で、多少の温度変化は微小な変化でしかないのです。地球にやさしいというのは正しく言うと、「人間が生存出来る地球」というものに対してやさしいというべきだと思います。「地球にやさしい」というのはキャッチフレーズとして違和感なく聞こえますし、慈善事業や施しをしてあげている感じがしますが、どちらかというと主体的でないような感じがしてなりません。地球という第三者に施しをするのではなく、自分自身のために環境に配慮して、今の環境を維持していくことを考えるべきだと思っています。


[3]日本における企業と環境の関わり


 この図はある研究機関がまとめた環境経営の変遷を表したもので、横軸に年度を、縦軸に環境経営ツールの導入件数を示しています。環境経営のツールというのは、いわゆる環境問題を経営の中に内在化させていくためのものです。経営の方針決定や方針を受けた実際のアクション等を環境経営といってもよいと思います。そういうことを進めるためのツールとしてどんなものがあるか、そして、それがどれくらい導入されているか見ていきます。1つはISO14001の認証取得というのがあります。2001年以降かなり急激に伸びています。それ以外に、環境報告書の発行や環境会計の導入、それから第三者による公正さのレビューというのがあります。このようなものが環境経営のツールとして挙げられますが、特に2001年ごろから環境経営のツールの導入状況が第三者によって調べられて環境ランキングがつくというような時代になってきています。いちばん下の枠の中にキーワードが書いてありますが、EMSはEnvironmental Management Systemの略で、その他、環境経営、環境効率、連結環境経営があります。このようなキーワードを見ますと、社会が企業を見る目が変わってきたといえます。


 環境経営の基本方針


[1]神戸製鋼グループの環境経営方針
 ここまでお話してきました「環境」に対する認識と取り組み姿勢を受けて、神戸製鋼所グループとして環境問題をどう考えていくかということですが、環境を守る、あるいは環境を大事にするという基本的な考え方に加えて、前提として「人間のために」という1フレーズがついているという認識を持つようにしています。このような基本認識のもと、神戸製鋼グループが取り組むには、「企業のために」というキーワードで説明しないと上滑りのことになってしまう恐れがあります。そして、出来ないことまでやろうとしますと、どれも中途半端になり結局全体がぼやけてしまうことになります。やはり、企業として環境問題に取り組んでいくということは、必ず企業の収益力、利益、ステータス、ブランドや信頼につながっていくものでないといけないと思います。
 図にも書いていますが、あらゆる事業活動を行ううえで、「環境コミュニケーション」、「環境保全」、「環境イノベーション」の3本柱に気をつけてアウトプットを出していくことで、企業の信頼を得ていくというのが基本的な考え方です。少し補足しますと、環境経営というと経営者がやることで、一般の従業員は関係ないという考えは間違っていると思います。確かに経営者というのは経営の意思決定を行うのですが、意思決定したものをきっちりと運営していくのも経営だと思います。言い換えますと、環境経営に何らかの関与をしている者は、社長から製造に携わっている従業員まで全員だという考え方です。その全員が、先ほどご説明した3本柱のキーワードをもとに物事を判断し、あるいは実行に移していくということが必要であると考えています。
 冒頭でも申し上げたように、神戸製鋼は環境負荷の非常に大きな事業を行っていますので、「環境保全」を徹底していくというのが1つ目の大きな柱になります。具体的には環境負荷の低減を徹底していくということになります。もう1つの柱は「環境イノベーション」ということです。イノベーションを辞書で引きますと、「改革」とか「革新」という意味が出てきます。私どもなりに考えますと、製品・技術・サービスにおける新たな価値創造ということになります。具体的には、神鋼環境ソリューションでも行われているように、環境に配慮するための設備を世の中にどんどん出していく、あるいは神鋼環境ソリューションの設備を神戸製鋼が購入して廃棄物のリサイクルを進めていくということになれば、新たな付加価値がついてくると思います。例えば、鉄を作るという技術は昔から変わっていないわけですが、その鉄に付加価値をつける、すなわち、薄くて非常に強い鉄を作りますと、それが自動車用鋼板になったときに重量を軽く出来ます。その結果、自動車の燃費が良くなって、省エネにつながるわけです。
 これら2つの柱を両輪にするわけですが、あと必ず必要な柱が「環境コミュニケーション」ということです。コミュニケーションは「会話」や「対話」という意味がありますので、社会との共生や強調が必要ということです。最近、環境とは直接関係がないのですが、「製品の品質」という面で世間を騒がせている会社があります。事故が起きたときの対応の仕方とか、周辺の人との危機意識の共有が出来ていないと企業として生きていけなくなってきています。世間を騒がせた会社だけがバッシングを受けたわけではなくて、その企業グループ全体で大きな痛手を受けていますので、グループ全体として取り組んでいくことが重要になります。そういう意味で、神戸製鋼も現在83社を対象にしてグループ全体で活動していく重要性をいろんな機会で申し上げております。

[2]環境経営の展開
 先ほど説明しました3本柱の活動方針をもう少し詳しく説明したのがこの図になります。トップに環境経営委員会というのがありまして、この委員会の下、環境経営の展開として6つの実施項目を挙げています。それぞれ簡単に説明していきます。
 まず、1つ目は「あらゆる面での環境に配慮したモノ作りの徹底」ということで、地球温暖化防止対策、循環型社会の構築、あるいは有害物質の削減などに取り組んでいます。2つ目は「製品・技術・サービスでの環境保全への貢献」ということですが、これは先程説明した「環境イノベーション」と同じ内容になっています。3つ目は「環境関連情報の開示」ということで、環境報告書を出したり、環境PRを行って、利害関係のある方と環境コミュニケーションをとるようにしています。4つ目は「社会との共生」です。現在、NPO等の活動に資金的な支援をしています。本当は人的な点も含めて支援していかなければと思っていますが、この点については今後の課題だと考えています。5つ目は「全員参加による取り組みの展開」ということを挙げています。環境問題というのは環境管理室などの担当部署や業務上関係のある人など一部の関係者だけで取り組めばよいというものではありません。人間の生存そのものが環境に対してインパクトを与えているわけです。ましてや会社にいてデスクワークをしていても電気や紙を使っているわけで、身の回りから節約出来ることがいっぱいあります。そういう観点から「全員参加」ということを強調しているのです。そのためには、環境マネジメントシステムを取得するとか、環境教育を徹底して行う必要があると思います。最後の6つ目は「リスク管理の徹底」ということです。リスクというのは日本語で言うと「潜在的な危険」という意味で、今は良くても将来的に起こるかも知れない危険を徹底的につぶしていこうとしているわけです。どうすれば良いかというと、法・条例・協定等を遵守し、新規規制へ的確に対応したりすることが、事故を未然に防止出来る第一歩と考えています。


 ここでもう1点申し上げておきたいのですが、これらの方針を決定するのは経営者ですが、6つの実施項目を実行していくのはあくまで従業員だということです。最近、当社では社内の部署を独立させて別の会社にしたり、逆にグループを統合したりしていますが、いずれにしても環境に対する取り組みが進むか進まないかは会社のトップが環境問題をどう考えるかにかかっています。このトップダウンと同時に、ボトムアップでQC活動のような取組みを行って、下から積み上げをしていくことも重要だと考えています。また、私どものような事務局をしている人間は、如何にしてトップの人間に「環境問題はこう進めるべし」というポリシーを持ってもらうことが出来るかが1つの仕事なのですが、一方ではトップがどう言おうと環境問題は自分自身の問題だということを各自が認識して取り組んでいただきたいと思っています。現在、当社はカンパニー制をとっています。鉄鋼、アルミ、溶接、機械・エンジ、不動産の5つのカンパニーがあり、それぞれにカンパニー社長がいるわけですが、環境問題に関してはカンパニー社長ではなく全社の社長が号令をかけることになっていて、全員参加をマスト条件にして取り組んでいます。
 環境経営の推進体制を図に示していますが、まず、環境経営委員会で当社グループ全体の取り組み方針と計画を決定し、下部組織の実行委員会で具体的な対応計画の立案と推進を行うとともに、特定テーマを抽出して分科会等の推進体制で推進しています。

[3]シンボルマーク
 葉っぱの中に矢印が入っていて、その下にeco wayと書かれたこのマークは皆さんどういう意味かご存知ですか? 実は、このマークは当社の名刺に必ず印刷するようにしているものです。5年ほど前に当社が環境先進企業を目指して頑張っていこうと決めたときに、社内公募をして決めたシンボルマークなのです。葉っぱは緑、すなわち自然ということで、エコロジー(Ecology)を指しています。葉っぱの先端に向かっている矢印は一方通行を意味しているのですが、これは、「後戻りしないでエコロジーの先端に向かって進んでいく、つまり、我々は常に環境保全のことを考えながら行動していくんだ」という強い気持ちが込められています。このシンボルマークを名刺に載せることで、名刺を出すたびに従業員にエコロジーのことを思い出してもらえるようにしています。



 環境ビジネスの考え方


 環境ビジネスの考え方につきましては、先程、「環境経営の展開」のところで説明しました「あらゆる面での環境に配慮したモノ作りの徹底」に関係してくる話です。企業活動というのはあるパーツを請け負って物をつくっていく、あるいはサービスを提供するということですが、前提条件として社会全体がどちらを向いているかということを意識して取り組まないとズレが生じてきます。   
 今、社会が求めているものを考えてみますと、大きくは2つあると考えています。1点目は「持続可能な社会の構築」、2点目は「安全で、健康な社会の形成」ということです。このような社会の要求に対して当社は何が出来るかということですが、まず、自分たちの持っていない、また、ポテンシャルとして足りない技術で参入すると失敗する確率が非常に高いということです。当社に技術があり、社会ニーズに合った環境ビジネスとして取り組もうと決めた方針が3つあります。1点目は「枯渇資源の効率的使用」ということです。例えば、ダストやスラグの中に鉄が残っていれば回収して使いましょうということです。2点目は「有害物質の使用抑制」ということで、製品が市場に出た後のことまで考えるということが重要です。3点目は「環境修復・創造」ということです。製鉄所は海岸部の砂浜を埋め立てて作っています。例えば、加古川製鉄所は加古川市のほとんどの沿岸部を占有していますので、多くの加古川市民は砂浜を当社にとられたという思いもあるでしょう。こういう事実を十分認識したうえで、環境修復事業として何かやれることをやっていこうということです。例を挙げますと、「21世紀の森構想」というプロジェクトがありまして、尼崎に森を作ろうという活動が進んでいます。それに企業も積極的に参加しながら、これら3つの方針に対して目指すべき方向を決めています。例えば、省エネや省資源にかかわる事業や素材の開発、有害物質を使用しない素材の開発や土壌浄化事業などです。これらの事業は神鋼環境ソリューションが中心になって取り組まれている内容もありますが、具体的な代表製品を後ほどご紹介することにします。



 実施事項


 ここからは先程説明しました6つの実施項目につきまして、実際の成果や開発した製品をご紹介していきたいと思います。環境問題を考えたとき、地球温暖化と廃棄物の問題がいちばんウエイトが大きいので、この2点を中心に紹介していきます。

[1]地球温暖化防止対策
 まず、地球温暖化防止対策ですが、温暖化を引き起こしているガスは6つあると言われています。CO以外にも、CH、NOやフロン系のガスがそうですが、日本ではCOの寄与率が非常に高いので、化石燃料やエネルギーの使用量を削減することと考えても良いと思います。コストセーブとともにCOの排出を抑制でき、温暖化防止に貢献出来るということです。
 この図は、加古川製鉄所におけますエネルギー原単位の推移を表しています。エネルギー原単位というのは鉄1トンを作るのにどれぐらいのエネルギーが必要かということで、1973年を100とした時にどれだけエネルギー使用量を削減出来たかを表しています。図の通り、この30年間で100から70に減少、つまり、30%の削減を達成しています。しかし、よく見てみると、大きく改善されたのは最初の10年間で、1990年以降はあまり改善出来ていません。1999年から2000年にかけて5%減少しているように見えますが、これは経産省が計算に使用する石炭のカロリーを変更したためで、実際にはここ10年間は横ばい状態になっているというのが事実です。
 皆さんもご存知のとおり、京都議定書において日本は国際的な取り決めをしています。2010年に1990年と比べてCOの排出を6%削減しなければならないという取り決めですが、これを達成するために産業界ではいろいろな努力をしていますが、今後は正直言って一筋縄では行かない状態になっています。


[2]循環型社会の構築
a.廃棄物の再資源化
 この図は神戸製鋼の全事業所で発生する廃棄物量、再資源化量および再資源化率の推移を示しています。廃棄物の発生量は1990年には約500万トンありましたが、現在は約400万トンとなっていまして、10年間で約20%を削減したことになります。各事業所で廃棄物を出さない努力は継続しておこなっているわけですが、廃棄物の中にはダスト、スラグ、石炭灰という鉄を作る過程でどうしても発生する成分が含まれています。そもそも鉄の原料である鉄鉱石には鉄は60%しか含まれていませんので、残りの40%が廃棄物として発生するのは仕方ないことです。そこで、当社では発生した廃棄物を資源化するという取り組みをしています。図の中の折れ線で示していますが、再資源化率は100%近くなっています。一般に、廃棄物に関するエミッション(排出)において、資源化率を100%に出来た場合ゼロエミ(ゼロエミッション)と呼んでいます。神戸製鋼では再資源化率は99.7%になっていますから、ゼロエミをほぼ達成したといってもいい数字になっていますが、あえてそれは言っていません。それは、わずかながら100%−99.7%の0.3%の廃棄物の発生を問題にしているからです。当社は廃棄物の発生量が400万トンと多いため、わずか0.3%といっても年間約2万トン弱もの廃棄物を埋め立て処分しています。2万トンという量は世間の常識からみると、非常に多い量ということになります。ですから、2万トンの廃棄物をもっと減らすために、まだまだやることはあるんだという認識でいますので、ゼロエミに関しては世間に大きなことは言っていないわけです。とはいっても、ダスト、スラグ、石炭灰以外で特に再資源化しにくいものばかり残ってしまったので、なかなか資源化が進んでいません。用地確保の困難さや住民の反対などもあり全国的に最終処分場の新規建設は非常に難しくなっています。埋め立て処分量を減らさないと、処分費用が増加し収益力を落とすことになるかもしれません。CO削減の取り組みと同様、廃棄物の問題も各社とも待ったなしで取り組むべき問題だということです。


b.水のリサイクル
 排水量削減への取り組みですが、例えば、加古川製鉄所では水の全使用量を100とすると、97%の水はリサイクルして循環利用していまして、残りの3%だけを外から補給しています。加古川製鉄所の場合、かつて大規模な溶鉱炉を建設する計画があって、加古川上流に権現ダムを作ってもらった経緯があります。こうした水のリサイクルへの取り組みを行いますと、川から供給される工業用水が少なくてすむということになり、工業用水供給事業の運営という別の意味での問題も発生しています。

c.LCAを活用した製品開発
 次はLCAという手法を用いて新しい商品を作ったという例です。LCAはLife Cycle Assessmentの頭文字をとったもので、製品が生産されてから市場に出た後までの一生の間の環境負荷量をアセスメント(評価)する仕組みのことをいいます。この図はSEワイヤという溶接棒の事例ですが、従来のものを1としたときに、新しいワイヤのエネルギー消費量、CO排出量および固形廃棄物量がいくらになるかをLCAの手法を用いて計算したものです。繰り返しになりますが、環境への負荷をどうやって減らすかを考えた場合に、自分たちが実際に行っている作業の中で使用量を減らす、あるいは歩留まりを上げるということも大事ですが、作った製品が市場に出た後で環境に対してどんな影響を及ぼすかまで考えることが重要です。ですから、作業には若干負荷がかかるけれど、それでモノが長持ちするということであれば、トータルで考えた場合にその方がよいこともあるということです。そこまで考えて新しい製品を開発していく必要があると考えています。



[3]環境関連情報の開示
 環境関連情報の開示がどんな目的で行われるかということですが、当社の環境報告書をビジョンづくり委員の皆さんに事前に読んでもらったところ、「誰を対象に作られたものかよく分からない」というご意見をいただきました。企業が何をしているか分からないということは、特に地域の住民の方から言われることがあります。私が加古川製鉄所で環境防災管理室長をしていたときには住民の方と直接お話させていただいたのですが、未だに企業というのは夜になると黙って悪いことをしていると思っている方がおられました。住民の中には企業に対して何か不信感をもっている人がいるというのは事実だと思います。そうではないということをはっきりさせるためには、企業活動を全て見てもらって、理解してもらうしかないのです。企業に対して不信感を持っている人は地域の方以外にもおられるので、それぞれ違う立場にいる方に要求に合った形で情報の開示が必要になります。


 この図で、開示要求者の欄を見てみると、ユーザー、メディア、NPO、NGO、金融機関、株主、投資家、地域住民、行政、納入先などが挙げられますが、このような方々がそれぞれ違う観点で私どもに対して情報開示を要求してきます。ですから、例えば環境報告書など1つの手段で全ての方に神戸製鋼の環境活動を理解してもらうことは難しいのです。このようなことを念頭においた上でニーズに合った環境関連情報の開示を積極的に行って、コミュニケーションを図っていくよう努力しています。

[4]社会との共生
a.国際協力
 国際協力については、当社の事業において大量のCOを発生しているという認識と、作った製品や当社が所有している技術を世間に提供しながら、世の中の環境保全に役立ててもらうという2つの観点で取り組んでいます。これまでに、鉄鋼業界として省エネルギー関連で548件、環境関連で355件の国際協力を実施しています。神戸製鋼としても年間1〜2件の国際協力を行っています。皆さん方の組合でもモンゴルへの支援をされていますが、神戸製鋼でもモンゴルへの植林活動支援を行っています。そのほか、タイへの鋼材加熱炉の省エネ普及支援等も実施しています。こういった取り組みというのは必ずしも短期的に収益につながるというものではありません。昔のように公害防止設備を仕方なくつけさせられて、何億もの出費になったという考え方ですと、植林活動を行ってもすぐに「そんなことをして儲かるのか」という発想になってしまいます。そうではなく、環境経営というのは最終的に企業の信頼とかブランド、あるいは存在感を上げていかないと持続出来ないとの考え方です。社会がどういうことを求めているか、あるいは当社ではどんなことが出来るかということを考えると同時に、こうした国際協力も行って社会のニーズに応えていく必要があります。神鋼環境ソリューション労働組合でもいろんな活動をされていますが、是非、今後も継続してほしいと思います。

b.支援制度
 外部への支援基金ということで、神戸製鋼には2つの環境基金があります。1つはコベルコ自然環境保全基金というもので、NPO等の活動に対して1件年間20万円を限度に支援しています。もう1つはコベルコ環境創造基金というもので、もう少し大きな活動に対して支援を行い、自治体等と連携をとりながら実施しています。例えば、神戸市役所の北側に花時計があるのをご存知だと思いますが、2002年11月に当社の太陽光発電を設置して花時計に電力供給を行っています。

c.環境家計簿
 関係会社や協力会社の方も含めて環境家計簿を年間5万部配布して、エコライフ度のチェックをお願いしています。環境家計簿をつけることで一人でも多くの方に環境配慮人間になってほしいと思っているわけです。後ほど、環境価値観・環境意識の醸成のところで詳しく説明することにします。


[5]環境管理システム
a.ISO14001認証取得の状況
 日本人は生真面目なので、環境管理システム(ISO14001)という決まりが出来て、決まり通りにやっていればほめられるとなると、どの企業も率先して取り組むことになります。ISO14001はもともと欧州から取得が始まりましたが、4年経過した時点で認証取得の数は図が示すように日本が追い抜いてしまいました。ISO14001は、1つのルールに基づいてもれなく活動していくには評価出来るシステムだと思います。


b.環境管理システムによる経営効率化
 環境管理システムというのは、環境に関していろんな活動をするルールを作りそれに基づいて事業活動を行っていくというシステムです。そのルールを誰が守るのかというと、社長から担当者までの全員です。品質管理システムにISO9001や9002がありますが、このシステムでは品質を守るために関与している人以外は活動に関係しないという仕組みになっています。一方、環境管理システムでは、誰もが電気や紙を使って、廃棄物も出すということから、全員参加のシステムといえます。ですから、全員参加のシステムの中でうまく運用していくと、業務そのものの改善につながっていくということです。
 我々企業はシステム的に活動していくということは重要なことですが、最低限達成すべきこととして、環境関連の法律を遵守するということが挙げられます。ISO14001を取得しようとしますと、自分の会社にどんな規制が適用されているのかをまず調べるのですが、事業所には図に示すように30以上の規制が適用されています。もちろん、全ての規制がどの企業にもかかることはないのですが、自分の会社に該当する規制がどれかということをはっきりさせる必要があります。これが分かっていないと、法律違反をしても自分たちが違反していることに気が付きません。非常に大きな事態にならないと発覚しないということになります。そこで、環境管理室のような専門の方と製造等の担当者が法律の内容をよく吟味しておく必要があります。最近よく耳にするコンプライアンス上、法律遵守というのは企業活動において絶対の条件ですので、ここを確実に行うことが継続的な経営にとって重要なポイントになります。


[6]環境調和型製品・環境事業サービス
a.クロムフリー鋼板
 6価のクロムは人体に有害ですが、当社ではクロムを使用しないで同じ性能を持った鋼板を開発しました。この製品は開発したときは当社が一番でしたが、今では他社も類似の製品を上市しています。クロムを使わないということは自分たちにはさほど影響ないのですが、製品が市場に出てから大きな影響を及ぼすということで、開発を行いました。


b.高張力鋼板
 これは自動車用鋼板ですが、自動車分野ではエンジンの燃料改善、ハイブリッド車あるいは燃料電池車の開発が進む一方、自動車の軽量化が強く求められています。一般に、高張力鋼板は70〜80キロ級ですが、その2倍にあたる150キロ級の超高張力鋼板を実現しました。単純に言うとこのことにより車体のボディーフレーム重量が約1/2に削減でき、燃費がよくなります。超高張力鋼板を作るためには、当然、温度や加熱速度を変えたりするわけですが、そういう苦労をしても市場に出てからの効果が大きいということです。


c.放熱性鋼板(コーベホーネツ)
 近年、電気・電子機器の高性能化に伴って、IC、半導体、モーター等からの発熱量が多く、精密部品の短命化や性能低下を招く恐れがあるために、より高度な放熱技術が必要となっています。当社では従来の電気亜鉛メッキ鋼板に比べて7倍以上、地球上で最も熱放射率が高いといわれる炭と同等の放熱性を有する鋼板を世界ではじめて素材レベルで開発・製品化することに成功しました。


d.アルミ材
 新幹線の車体がアルミで出来ていることは皆さんご存知だと思いますが、アルミは鉄より軽いのは分かっていますが、強度が小さいためにどうやって強度を持たせるかが課題でしたが、これを克服し、アルミが使われるようになりました。


e.スクリュー型コンプレッサー
 永久磁石内蔵端子回転子による起電力不要型IPM高速モータと新開発スクリューロータの直結構造の採用、かつメカニカルシール不要とした完全密閉構造の採用により、使用条件に応じて最適圧力、最大風量を提供するワイドレンジ制御を可能にしました。


f.空気圧縮機省エネ診断サービス
 コンプレッサの開発で培われた技術を生かして省エネ診断も実施しています。工場内に改善提案を行うなど、生産工程の省エネにも貢献しています。


g.超高能率ヒートポンプ
 オゾン破壊係数ゼロのHFC非共沸混合冷媒と新開発の超高性能プレート式熱交換機を組み合わせ、高性能冷凍サイクルであるローレンツサイクルをはじめて実現しました。


h.スチールハウス
 なぜスチールハウスが環境にやさしいかということですが、1つは木を使わないので森林資源の保護になります。もう1つは鉄のフレームで作った家は木で作るより長持ちするので、長い目で見てエネルギー消費や木材の使用量の面で環境配慮型ということになります。


i.風力発電装置(神鋼電機)
 自然エネルギーというと太陽光発電が主流になっていますが、この風力発電は微風でも発電出来ることが特徴になっています。


j.廃自動車リサイクル機械(コベルコ建機)
 1979年に日本発の固定式ニブラー装着の使用済み自動車解体機を開発し、その後も一貫して作業性と素材分別性能の向上から新たな機械を提供し、使用済み自動車のリサイクルに貢献しています。


k.省エネ型新還元溶解製鉄法
 ITmk3という商品名ですが、このプロセスは当社が開発を進めてきた次世代の新製鉄法で、従来の高炉法による製鉄(第1世代)、天然ガスをベースとしたミドレックス法等の直接還元製鉄(第2世代)に続く第3世代の製鉄法に位置づけられます。もともとの発想はアメリカのような条件で製鉄を行うための技術でしたが、ダストの選別や還元に使えるということで、新日鉄にも2基納入しています。


l.廃プラスチックの利用システム
 廃プラスチックを高炉における鉄鉱石の還元用に利用するもので、これまで焼却処理されていた廃プラスチックがケミカルリサイクルされ、COの削減に貢献します。



m.エステプロセス(神鋼環境ソリューション)
 好熱菌の分泌する酵素の働きで活性汚泥から発生する余剰汚泥を大幅に削減出来る画期的な技術です。埋立処分場の建設が難しくなってきていますので、発生元から汚泥を減量出来る技術として注目を集めています。民間工場や公共下水道、コミプラ、農業集落排水等への導入が可能です。



n.熱分解ガス化溶融システム
  (神鋼環境ソリューション)

 焼却処理だけでは灰の中に含まれる重金属が埋立処分場から溶出する恐れがあるので、いったんガス化して溶融することにより、スラグ状にして固めてしまおうという技術です。




 環境価値観・環境意識の醸成
(環境配慮人間へ)


 全員参加で環境活動をしていくには、これまで以上に環境の価値観や意識を従業員に醸成させていく必要があります。どうしたら良いか、いろいろと考えた結果、まず私どもが取り組んだのは「環境家計簿をつける」ということでした。関係会社はもちろんのこと、協力会社の方も含めて年間5万部配布してお願いしています。家庭のことを公表するということでプライベートの話になりますので、強制的ではなくて、神戸製鋼がこんな活動をしているのでよかったらエコライフ度をチェックしませんかとよびかけるようにしています。環境問題が重要であることを分かってもらえれば、私生活の中でも何らかのことは協力してもらえると思っていますし、逆に私生活の中で環境のことを少しでも考えてもらえると、会社に居てもそういった目で見てもらえるのではないかと思っています。例えば、タクシーを使わないで電車を使うといった些細なことでもいいので、どうしようかなと思ったときに環境配慮の選択肢を選ぶような環境配慮人間になってほしいと思います。

 本日は「環境経営」がテーマですので「環境」ということを言い続けていますが、あまりに騒ぎ立て過ぎて、何でもかんでも環境が悪化するからそれをしてはダメだという一方向性の見識を持ってほしくはありません。環境経営といっても企業活動ですので、何が企業の価値を上げていくのかということをよく考えてください。それは収益力でもあるし、ブランド力でもあります。繰り返しになりますが、環境に悪いから止めるべきだという短絡的な考えは通用しません。どうしても経営者は環境より収益を重視しがちになるのはある意味で仕方がありません。ただ、意思決定する際には環境面でどう変わるかということも考えてくださいということを申し上げております。今、経済産業省は経済と環境の両立ということを言っていますが、国が衰退してまでも環境を守るという考えは正しいとは言えないと思います。両立させるということは難しいかもしれませんが、常に両面を考えたうえで企業活動を行うということが重要になります。そのためには、会社に居るときだけではなく、「人間として環境保全のことを常に考えるようになる」ことが大切です。皆さんも神鋼環境ソリューションを引っ張る若手社員として、環境配慮人間になってほしいと思います。


環境家計簿をつけて家庭でのエコライフ度をチェック。エコライフノートは関係会社や協力会社の方も含めて5万部配布しています。

地球温暖化対策と環境税
 最後に環境税のことについて若干ご説明させていただきます。今、地球の温暖化を防止するために環境税を新設し約1兆円もの税金を集めようという制度が提案されています。誰が払うかというと、COを排出している者が払うという考え方で、製鉄業である当社は非常に大きな排出をしていますから、もし導入されたら百億円以上もの環境税を毎年払うことになります。
 そもそもCO排出量の削減を約束した京都議定書には問題点がいくつかあります。約束を交わしたのは限られた国でだけで、一番の排出国であるアメリカは入っていないという理にかなっていない事実があります。それと、日本はオイルショックの時に大幅な省エネを達成しているので、1990年を基準にCO排出量を下げるということはかなり無理があります。アメリカも同じような状況なので、早々とそれを見越して逃げていったわけです。ドイツは東西の統合により、イギリスは燃料転換により目途が立っているので、達成可能な数字を目標にしています。


 また日本でのCO排出量は民生部門が増加していて、産業部門は減少しているという事実があります。それなのに産業部門が環境税を支払うというのはおかしいと思います。鉄鋼業界ではすでにこれまで4.4兆円を投資して環境対策に取り組んできたのに更に負担を強いられるようになっています。しかも、経常利益が消えてしまうような環境税を要求されるとなれば、競争力がなくなって、海外進出しないと経営出来なくなります。安易な海外移転が進むと、新たな問題がでてきます。どういうことかといいますと、今の海外の技術力では同じ量の鉄を作るのに、日本で作った場合に比べて約1.3倍のエネルギーを消費しますので、地球規模で考えると逆にCOの排出量が増えることになってしまいます。
 このように地球温暖化は深刻な問題なので、アプローチの仕方をいろいろ考えないといけません。単に税金をかけたからといってCOの排出量が下がるという単純な話ではありません。例えば、ガソリンの値段が1リッターあたり2円上がったとしても、自動車を使用するのを止めようとは誰も思いません。実際にアクションを変えるような動機付けを考えないと、ライフスタイルは変わらないということです。このような議論を今、経団連の中でしていますので、ご紹介させていただきました。


キーワードはSUSTAINABILITY(持続可能な社会)。
神戸製鋼の環境報告書には、グループ会社の環境活動も紹介されています。



 最後に


 本日は、「神戸製鋼グループの環境経営」と題して、具体的な事例も交えたお話をさせていただきましたが、この後、質疑の時間もありますので、ぜひ忌憚のないご意見を聞かせて頂きたいと思います。みなさん方がグループの一員として、これからも積極的な環境活動に取り組まれることを期待して話を終えさせていただきます。長時間のご静聴ありがとうございました。
(文責:桂 健治)

●宮川 裕氏プロフィール
現職:(株)神戸製鋼所 本社
環境エネルギー部長
略歴:
(学歴)
 1979年 京都大学工学部金属加工学科卒業
 1981年 京都大学大学院工学研究科金属加工学修士課程修了
(職歴)
 1981年 (株)神戸製鋼所入社
 1995年 加古川製鉄所環境防災管理室長
 1999年 本社環境エネルギーグループ次長
 2003年 本社環境エネルギー部長
社外委員等:
 兵庫県環境保全管理者協会
副会長兼企画委員会委員長
 神戸商工会議所環境対策
専門委員会 委員長
 神戸地区環境保全連絡協議会 会長
 (社)日本鉄鋼連盟環境エネルギー政策
委員会国際協力・規格委員会 委員長
 兵庫県環境審議会 委員
 神戸市環境保全審議会 委員
 兵庫県リサイクル拠点整備協議会
検討委員会 委員
 (財)ひょうご環境創造協会
環境創造推進委員会 委員
 兵庫県瀬戸内海環境保全連絡会 理事 等