「全神労協・神鋼グループ
海外企業視察団に参加して」







本社ブロック ユニオン委員
安 藤   誠


 こんにちは、本社ブロック・ユニオン委員の安藤と申します。去年11月13日から21日にかけて「全神労協・神鋼グループ海外企業視察団」に参加し、タイとベトナムの主に神戸製鋼所グループの関連企業を視察しましたので、その内容を報告させて頂きます。今回の視察団には、神戸製鋼所労働組合をはじめ、全神労協(全神鋼労働組合協議会)加盟の12組合から私を含めて22名の方が参加しました。


視察団の目的と自分の目的

 今回の視察団には、しっかりとした目的が定義されていましたのでまずは、視察の結果を報告する前に紹介しておきたいと思います。
 今回の視察では、経済や社会がグローバル化していく中で、日本の様々な業種の企業が海外への進出を行うなど、好むと好まざるとに関わらず、海外の国々とその人々と接点を持たなければならなくなっています。当然ながら、その企業で働く従業員から構成される労働組合についても例外なくグローバル化の波にさらされることとなっています。このような状況の中で、労働組合としては、問題点の把握や国際的視野の拡大、また、国際社会の認識を深めることと、加盟組合の企業が抱える海外拠点の中でも今後発展が大きく期待されるタイ、ベトナムを訪問し、企業活動の実態把握とそこで働く出張者や出向者との懇談会を実施し、現地における労働条件の把握を行ない、今後の活動に役立てるということが目的として掲げられていました。しかし、一方で私自身は視察団としての目的とは別に、貴重な海外への渡航機会を得て、「タイとはどんな国か」、「タイ人はどんな人か」、「ベトナムの工場はどんなものなのか」、「ベトナムの街はどうか」など、訪問先の状況について抱いた疑問の答えを探したいと考えました。


視察団の軌跡

 我々は、11月24日(金)に関空を出発し、タイの首都バンコクに到着し、Kobe CH Wire(Thailand)及びュThai Parts Feederュを訪問し、26日(日)にアユタヤへ移動し、27日(月)にはュKobe Electronics Materialュを見学し、その足で再びバンコクへ移動し、28日(火)にュKobe Mig Wire & Thai-Kobe Weldingを訪問、その後、29日(水)にかけてパタヤからラヨーンに移動し、Thai Kobelco Construction Machineryュを訪問、以上タイで5社の工場を視察した後、ベトナムに移動し最後にュISUZU Vietnamを訪問しました。
 訪問した両国と日本の地理的位置関係は地図を見てもらえればわかりますが、日本からタイ、ベトナムまでどちらも飛行機で6時間程度です。緯度で言えば、タイのバンコクで北緯13度、ベトナムのホーチミンで北緯10度です。ちなみに前執行部で現在は青年海外協力隊として柔道を教えている高野君の暮らすパラオは北緯7度付近に位置します。
 今回の視察ではタイについては、バンコク、アユタヤ、ラヨーンの三つの都市を回り、ベトナムではホーチミンを視察しました。


視察した企業について

 タイでは、神戸製鋼関連の会社5社を訪問しました。

1.Kobe CH Wire(Thailand)
  (神鋼関係会社)

 バンコク市内の工業団地にあり、現地従業員が130名程度で労使間の交渉も熱心に取り組み、待遇もよいことから従業員の定着率はかなり高い方であるとのことであった。

2.Thai Parts Feeder
  (神鋼電機関係会社)

 現地従業員が42名で今回の視察した企業の中では最も小規模の会社で、下町の町工場をイメージさせられた。取り扱っている製品は電気製品の部品を供給する機器で、その製品の特徴にも関係するのかもしれませんが、私には非効率的な作業を行っているように感じられました。人件費が安いタイであればこそ成り立っているのだろうと納得をしました。ここでは日本人スタッフが4名で、その内のお一人は16年以上の長期で滞在されており、現在所長役を勤められていました。その長期赴任の結果、タイ人の国民性を十分熟知されることとなり、職場の雰囲気についてもアットホームな印象を受けました。

3.Kobe Electronics Material(Thailand)
  (神鋼関係会社)

 この会社は遺跡で有名なアユタヤにあるハイテクパーク内に拠点をおき、主に電子部品材料に使用する銅板状製品のスリット加工を行っています。建物が大変綺麗で工場と言うよりは、研究施設といった方が相応しい外観でした。
 現地従業員は32名で半数以上が女性が占めていました。タイでは男性に比べて女性の方がまじめで忍耐強く、また、手先が器用なこともあり、職場における女性の割合が高くなっているとのことでした。

Kobe Electoronics Material(Thailand) の全景

4.Kobe Mig Wire & Thai-Kobe Welding
  (神鋼関係会社)

 ここは、溶接棒を製造している工場で294名の現地従業員が働いています。ここでも、勤勉で忍耐強い等の理由で女性従業員が多く、2割程度を占めているとのことで、特に製造工程の重要ポジションには女性を配置しているとのことでした。ここの工場では、製造ラインがしっかりしていて無駄がないのですが、かといって設備を全自動にしているわけではなく、人海戦術により製品づくりが行われていました。これは、自動化のために要する設備費よりもそれに対応する仕事量をこなす従業員の総人件費の方が圧倒的に安いことを示しています。また、作業スピードも人間の方が早いそうです。現在、この会社が製造している製品はタイ国内及び周辺諸国でシェアNo.1の実績で、工場は昼夜2交代のフル稼働を続けており、活気がこちらに伝わってきました。

5.Thai Kobelco Construction Machinery
  (コベルコ建機関係会社)

 この会社がタイでの最後の訪問先でした。
 ここでは建設機械用の油圧ショベルやアタッチメントの製造をしており、生産ラインは自動化こそされていないが、設備は整備が十分に行き届いていおり、無駄がないように感じました。しかし、溶接工程をおえた半製品を見る限り、溶接技術はまだ、発展途上といったところで、日本で検査を受ければ手直しを指示されるのではないかと思います。しかし、工作物が圧力容器ではないためか、タイ国内では十分通用すると現地の方はおっしゃってました。タイでは、日本のように溶接技能に関する公的機関の免許制度がないので自社で基準をつくり、作業員の育成やトレーニングに役立てているとのことでした。

Thai Kobelco Construction Machinery の正門からの風景

6.ISUZU Vietnam
  (いすゞ自動車関係会社)

 ベトナムで訪問しましたのはこの会社で、工場で勤務する現地従業員は266名で内、女性は事務職の14名のみでした。主に、小型商用車、RV車を製造しているのですが、エンジンについて日本からの供給を受けており、工場ではボディーの製造と本体の組み立てを主に行っています。
 ベトナムでは、各社のシェアよりも車の普及率をあげることに重点がおかれおり、ここの工場の場合、高負荷で生産が追いつかないときには、隣接するダイムラー=ベンツ系列の工場に、生産を委託する形をとっているとのことでした。また、逆の場合にも同じように生産の委託を受け、2社で能力を補完しあうシステムをとっていました。
ボディーの溶接から塗装、部品取付の状況


タイという国について

 現在、タイの人口は約6,500万で、そのうち、約800万人が首都バンコクに住んでおり、日本の都市と比較すると、神戸市が150万人でその約5倍強、大阪市が260万人なのでその約3倍強となっています。また、国土の面積は513,115平方キロメートルで、日本の約1.4倍、フランスとほぼ同じ大きさです。
 タイ人の90%以上が仏教を信仰しており、その他はキリスト教、ヒンズー教、イスラム教徒で、仏教寺院をよく見つけることができます。今回の視察の合間にも「エメラルド寺院」と呼ばれているお寺も訪問しています。

仏教の盛んさを示すきらびやかな寺院

 また、気候は熱帯性気候で、その中でも暑季(3月〜5月)、雨季(6月〜10月)、乾期(涼季)(11月〜2月)の3シーズンに区分けされており、我々が訪問した11月はちょうど乾期の始まったころで、比較的過ごしやすい気候でした。そうはいってもバンコクでは、4月が平均30℃で、12月でも平均25℃であることから、神戸や東京と比べれば一年中夏のようなものです。
 タイ人の多くは、タイ族(85%)ですが、ほかに中国系やマレー系・インド系・カンボジア系を中心とした様々な民族で構成されています。しかし、混血が進んでいて基本的にはみなさんタイ語をしゃべっています。英語や日本語が通じるのは土産物屋くらいなものです。


ひどい渋滞

 街中を走っている車は、ほとんどがトヨタ、ニッサンでたまにベンツなども見かけました。しかし、そんなことよりも目立ったのがひどい渋滞で、朝夕の通勤時間帯だけでなく一日中慢性的に渋滞していました。バンコクの渋滞は世界でも有名であることは色々なメディアで報道されており、知っているつもりでしたが、実際に目の当たりにしてみると遙かに想像を超えるものでした。この原因について、その風景を見ながら自分なりに考えてみましたが、たぶん、異常に多いバスとタクシーの乗り降りや客待ちが道路の一部を塞いでいるためだろうと思います。その結果、車の流れが悪くなり渋滞を引き起こしているです。(推測の域を出ませんが。)いずれにしても、交通に関しては改善の余地はありそうです。


水の都バンコクの面影を残すチャオプラヤー河の風景


パクチーに閉口する

 訪問した先々ではいつも食べきれないほどのご馳走が食卓をにぎわしていたのですが、タイの料理には必ずといっていいほど「パクチー」(香草の一種で東南アジアの料理にはよく使われる)という香草が含まれており、独特の香りを放っています。最初はタイ料理の物珍しさも手伝って特に気にすることなく食事を頬張ることができたのですが、メニューになれてくると、パクチー独特の香りに嫌気がさして食事が進まなくなりました。やはり、慣れた日本食が一番です。
食卓に上る豪華な食事、パクチーがたまに傷


食うには困らないが…

 タイは日本のような先進国ではないのですが、我々が立ち寄ったバンコク市内の超高層ビルの最上階で目に飛び込んできた風景は、少なくとも「発展途上国」という文字が持つ若干ネガティブなイメージを払拭させます。林立する高層ビル群は堂々たる大都会のあかしであり、そう遠くはない将来に先進国に仲間入りすることを予感させます。しかし、よく見ると、その高層ビル群の手前には下町の面影を残す低層住宅が残っており、貧富の差が大きいことも想像されました。

バンコク市内の風景、手前には低層の建物が密集している

 一般にバンコクにおける平均月収は3,300〜4,400バーツ(日本円で10,000〜13,000円程度)で、地方に行くほど低くなく傾向にあり、今回訪問地の中で北部に位置するアユタヤでは2800〜3500バーツ程度になります。ですから、バンコクで3ヶ月働けば、最北の町チェンマイでは1年以上の収入にあたるため、バンコクで働く労働者には地方の出身の人が多く、国民の20%(約1300万人)近くがバンコクに集まると言われています。
 この平均月収を考えると、日本人の感覚では賃金水準が低いようにも思えますが、実際に生活をする場合、生活必需品、特に食料については非常に安く手に入り、かつ豊富です。また、10バーツ(30円)も払えば、屋台や安いレストランで1食分は十分にまかなえます。つまり、食べるのには事欠かないというのが現実です。ですから、既婚の男性の中には奥さんを働かして、自分は何もしないでぶらぶらして食生活だけで満足し、生活レベルの向上を図ろうとしない人も多いようで、そういった家庭は当然ながら、収入は伸びませんので貧しい状態を抜け出すことはできません。タイでは女性がまじめで働き者と言われますが、これはまさしく、こういった家庭が少なからずあることを違う面から示しているのです。
 しかし、一方で、生活レベルの向上を考えている家庭では、日本とあまり違わない価格の電器製品やおしゃれな服、また自動車や家など当地での贅沢品を買うために夫婦共働きで収入を増やしており、貧富の差が拡大する原因の一つを知ることができたように思います。


ベトナムという国について

概  要
 面積は日本より少し小さいくらい(0.9倍)で、緯度はタイとほぼ同じ程度ですが、湿度が高いせいかより蒸し暑く感じました。人口は約7520万人で国民の70%が仏教を信仰し、残りの大半は、過去のフランス統治時代の名残でキリスト教徒となっています。言語は基本的に自国語であるベトナム語しか通じないのですが、タイと同じで土産物屋などでは英語や日本語も通じました。
 首都ホーチミンにおける平均月収は副業や残業を加味して14,000円〜15,000円程度です。ベトナムは今では数少ない共産国であり、職種により違いはあるものの基本俸給が受け取れるのであまり貧富の差はないようですが、基本俸給の水準が低いので、ほとんどの人が残業や副業で収入を増やしているのが実情のようです。

ベトナムの交通事情
 ベトナムの人々にとって車は、まだ、非常に高価なもので最近5年程で台数は急増しているもののその絶対数はまだまだ少なく、市民の移動手段はもっぱら小型のバイク(日本で言う原付程度)です。想像を絶する数のバイクが一日中ホーチミン市街を徘徊しており、その異常に多いバイクには圧倒されました。これだけバイクが多いのは市内を移動するのに適当な電車やバスなどの公共交通機関がほとんどないことや、暑気払いに目的地なしに夜の街を走り回っている人々がいるためだそうです。ベトナムの人々にとっては、バイクは移動できるエアコンなのです。
 

嵐のようにやってくるバイクの集団

ベトナム人気質
 ベトナム人は男女ともまじめで、一般的には手先が器用といわれています。また、非常に勉強熱心なため高い学歴を得る人も多いようですが、国内では彼らが満足する所得を得る就職先を探すことは難しく、特に高い学歴の人は国外に所在地を置く企業に就職し、国内に残らないことが問題視されています。

ベトナム戦争について
 ベトナムでは戦争資料館を訪問しました。ベトナム戦争というと日本はあまり関係がなかったので、実際どんなものであったかは知識としてあまり持ち合わせていなかったのですが、実際現地に行ってみて、その資料館にあるいろいろな写真を見ると、大変残酷な場面が写し出されており、改めて現在の平和な日本に感謝の気持ちを持つとともに、戦争の悲惨さにショックを受けました。


我々にとってのビジネスチャンス

 今回の視察した企業はすべて現地の国内需要及び近隣国をターゲットにしていて、商品を日本へ逆輸入しているところはありませんでした。その理由の一つとして、素材や部品を現地調達するのが非常に困難で、現地の生産はほとんど日本からの輸入によって支えられています。安価な労務費を武器にして製作・組立された製品であっても、現地と日本を往復する輸送費を考えた場合、逆輸入するメリットはないというのが現地法人の方の発言でした。つまり、これは、素材や部品の現地調達が出来ない製品の場合が、生産拠点もしくはその近隣諸国で十分な需要が見込めなければ、海外への工場進出は難しいことを示しています。もし、素材や部品の現地調達が可能となれば、安い労務費の効果などが製作コストに大きく影響し、低価格の製品を市場に供給できるはずであり、有望な事業展開が期待できると思います。また、日本への製品輸出もかなり可能になると思います。現に食品産業や衣料産業界ではこれが当たり前となっています。
 当社の事業メニューで考えて見た場合、私が関係している冷却塔の事業や播磨製作所のプロセス機器事業において海外への専有工場設置の可能性もあるかと思いますが、先ほど述べました課題もあり、充分な調査が必要だと思います。工場進出ではなく、あくまで商品のマーケットとして考えた場合、上・下水道を含めた水処理事業や冷却塔事業では、タイやベトナムは将来的に非常に魅力的であると感じました。特にベトナムについては何らかのきっかけさえあれば水処理・空調設備が一気に整備されていくように感じられました。というのも、驚いたことにホーチミン市で宿泊したカラベルホテル(ごく最近の建物なのですが)、なんと隣のホテル、デパートとで地域冷暖房システムを採用しているとのことでした。若干専門的にはなりますが、小型の汎用タイプで、能力が10セルで2,000T/Hぐらいの冷却塔が設置されていました。
 近代化が進んでいる市街地には、まだまだ未開発地域は多く残っており、同規模の施設が近い将来に増えていくのは間違いないと確信しました。



行ってはじめて気づく

 私は今回の海外視察で公私含めて3度目の海外渡航となりました。
 海外に行くと、普段気づいていなかったことに気づきます。違う文化と実際に触れて初めて普段何でもないことに対しても敏感に感じることができます。日本で生活しているときの常識が世界の常識ではないことを感じることができます。海外への渡航経験は、仕事をする上でも、生活をする上でも、違った切り口で取り組むきっかけをつくってくれます。
 是非、皆さんも機会があれば積極的に海外へ行ってみてはいかがでしょうか。



最後に

 私は今回の視察団に参加するにあたって、冒頭にも述べました通り視察団としての目的以外に、自分としても目的を持って参加することができました。海外視察が組合活動の本来の目的とどう関係するか、ということに関しては議論の分かれるところだとは思いますが、実際に自分なりに目的を持って参加したことで色々と感じることができ、有意義な時間を過ごせたのではないかと思っています。
 最後に今回このような視察に参加させていただことに対し、会員の皆さんにこの場を借りてお礼を申し上げたいと思います。ありがとうございました。
(文責:岩本益幸)