生涯青春は
心と身体の健康から







看護師・ケアライフマネージャー
日本モンゴル白樺協会 会長
笠 原 千津子


秋を彩る紅葉のような人生の時を

 あいゆう会のみなさん、こんにちは。ただいま紹介にあずかりました笠原です。よろしくお願いします。先ほど井上会長の方からタバコやストレスなど健康についての詳しい説明があり、私の講演は必要ないような気がしております。
 それでははじめに簡単な自己紹介をさせていただきます。私自身、様々なところで講演をさせていただいておりますが、あまり自分の年齢のことには触れないようにしているのですが、本日みなさんのお顔を拝見してあまり年齢に差がないように感じております。同世代の話として気軽に聞いていただきたいと思います。
 私は中学を卒業後、准看護婦学校へ進むことになりました。准看護婦学校を卒業後、定時制高校を受験し、2年生からの3年間通うことになり卒業後は高等看護学校へ進む予定でしたが、縁があって結婚しました。結婚してからも正看護婦になる夢を諦めた訳ではなく、3人の子どもに恵まれ、子育てと仕事を両立する中で、「正看護婦の勉強をもっとしたい」という思いが、ずっと心の中にありました。今では4人目の子どもまでいます。とはいっても私自身が産んだ子どもは3人目までで、4人目は本日会場に来ているモンゴルからの留学生スーホさんです。別に主人が内緒で作った訳ではないですよ(笑)。


講師の話を熱心に聴き入る参加者のみなさん


交通事故で九死に一生を得る

 その後、娘が正看護師になり、息子が大学生、末っ子が高校受験の時一度は諦めかけていた正看護師への道に挑戦しようと決意し、47歳にして勤務先である県立光風病院を2年間休職し、高等看護学校へ行くことになりました。
 2年後、国家試験に合格し正看護師になり、職場復帰も果たしこれ以上ない夢が叶い、「もう思い残すことはない」といった幸せな気持ちでいっぱいでした。そんなある日、大きな事故にあってしまいます。運転中、後続のトラックに追突され、前を走行していたトラックの下に潜り込むような形で衝突し、車のボンネットは紙切れのように折れ曲がり、生きているのが不思議なくらいの大事故に遭いました。その時、父が「人間、使命あるうちは死なない」と言ったことばが思い出されます。こうしてみなさんと会えたのも、いろんな方との出会いも、寿命があったからこそだと思い嬉しく感じております。
「使命があるうちは死なない」を実感した大事故

 昔の諺(ことわざ)の中に「袖摺り合わすも多少の縁」という言葉がありますが、父が言うには「タショウ」とは「他生」と書き、人との出会いというのは、仏教で説く三世の生命観による過去世においても縁があり、生まれ変わった現世においても出会うことであり、本日お会いしたみなさんともどこかで出会っていたのかも知れませんね。
 これまで私が講演した健康セミナーはどちらかというと女性の参加者が多かったのですが、本日は男性ばかりのセミナーということもあり嬉しい反面、とまどってしまいそうな感じがしています。でも、セミナーというよりもみなさんと一緒に考える機会になれば良いなと思っています。

 本日のテーマは「生涯青春は心と身体の健康から」ということですが、今とても重要なテーマだと感じています。先ほど井上会長のご挨拶の中で「青春とは人生の期間を言うのではなく、心の持ち方をいう。歳を重ねるだけで人は老いない。理想を失う時に初めて老いる。人は自信とともに若く、恐怖と共に老いる。希望ある限り若く、失望と共に老い朽ちる」という詩の一節を引用されていました。私もこの詩がたいへん好きで、興味を持って聞かせていただきました。
 私は「心」と「身体」は別々にあるものではなく、「心」の健康によって「身体」を支え、また「身体」の健康によって「心」を支えるといった表裏一体となるもので、「心」と「身体」はその二つがなくてはならない存在というテーマだと思っています。
 このセミナーに参加されてるみなさんは、最近、朝晩の急激な冷え込みも関係なく、お顔を拝見する限りとても健康そうな感じがしています。私も含めみなさんの年代は、今の季節のように「秋」ではないかと思っています。この季節、山々を飾る紅葉がありますが、朝晩の冷え込みが厳しい中でこそ艶やかな色になります。みなさんの人生においてもたいへんな苦労や試練があり、それらを乗り越えられたからこそ、山々の紅葉のようにみなさんは輝いているのではないでしょうか。



「生活習慣」の改善が健康の秘訣

 それでは健康についてのお話に入りたいと思いますが、いくつか質問をさせていただきたいと思います。みなさんは現役で働いている間は会社で定期的な健康診断があったと思いますが、現役を引退された今でも健康診断を受けておられるでしょうか。(数人が手を挙げる)では、かかりつけの病院に行っている方はいらっしゃいますか。(数人が手を挙げる)最後に元気だから大丈夫と思って会社を退職後、一度も健康診断を受けてないという方はおられますか。(2人が手を挙げる)
 ありがとうございます。大半の方が何らかの形で病院に行かれていることがわかりました。お二人の方はたぶん健康に自信があるから病院に行かれないのだと思いますが、病院が嫌いだからということはないですよね(笑)。
 昔、病院では「内科」「外科」というくくりでありましたが、現在は内科の中にも「呼吸器」「循環器」「消化器」など細かく別れており、患者さんにとっては分かり易くなっています。しかし最近では「肝臓は治りました」と言われながら本来の調子が戻らなかったり、「手術は成功です」と言われながらも亡くなるという医療ミスによる事故が見受けられるように、個々の部分についてはスペシャリストの医師はいますが、総合の診療というか、人の全体を見られる医師が少なくなっているような気がします。
 それでは、「心の健康」、「身体の健康」と分けてお話はしませんが、全体的な健康について考えながら聞いていただきたいと思います。


講師の質問に元気よく手を挙げる

 みなさんは「生活習慣病」をご存じですね。「生活習慣病」は以前は「成人病」と呼ばれていましたが、日常生活における食事のアンバランス、運動不足、喫煙、飲酒習慣、睡眠不足、ストレスなどによって起きる病気ということで「生活習慣病」と改められました。今では「生活習慣病」に関する本も数々出版されテレビなどでも取り上げられることから、みなさんも良くご存じかと思います。
 では、みなさんは日本国内において死因のトップは何かご存じでしょうか。(ガンとの声)その通りガンですね。では2位はどうですか。(心臓、脳卒中との声)ありがとうございます。2位が「心疾患」で3位が「脳血管障害」です。これらは全て、「生活習慣病」に関係しています。では、男性ではガンの中で死因のトップは何でしょうか。(胃ガン、肺ガンとの声)これまでは「胃ガン」が1位でしたが、現在では「肺ガン」が1位になっており、3位が「肝臓ガン」、そして次に「大腸ガン」です。女性の場合も以前までは「胃ガン」がトップでしたが、今は「大腸ガン」「肺ガン」「乳ガン」の順位となっています。最近は「肺ガン」で亡くなられる方が多くなっていますが、肺ガンの一番大きい原因は喫煙ですね。人によって違いはありますが、20歳ぐらいから喫煙し初め、平均約40年で発病すると言われています。みなさんの中で喫煙される方はおられますか。(少数が手を挙げる)少ないですね。では、喫煙していたが禁煙された方はおられますか。(多数手を挙げる)禁煙された理由は何ですか。(ドクターストップなどの声が)ありがとうございます。タバコにはニコチンやタールなどの他に4000種類以上の化学物質、200種類以上の発ガン性物質が含まれています。
 私は以前スウェーデンに行ったことがありますが、スウェーデンのタバコのパッケージには「吸い続けると死にます。心筋梗塞になります。」などの具体的な警告が記されていましたが、日本のタバコには「健康を損なうおそれがありますので吸い過ぎに注意しましょう。」などと書かれているだけでかなり緩いような気がしています。みなさんの大半がタバコを吸われないので少し安心しています。では、タバコを吸われる方で1日どのくらい吸われますか。(20本程度との声)20本ですか。そのうち美味しいと思われるのは何本ですか。たぶん目が覚めた時、食後、会議等でイライラしている時などだと思います。ですから、その美味しい時だけ吸ってあとはやめてください(笑)。タバコは吸っている人はもちろんですが、その近くにいる人にも影響がありますので出来ればやめていただきたいと思っています。タバコは「肺ガン」だけでなく「食道ガン」や「大腸ガン」などの原因にもなり、他に発ガン性物質は弱っている臓器にも影響を与えることも覚えておいていただきたいと思います。あまりタバコに関する悪いことばかりを言うと、喫煙されている方の耳が痛いようなので次の話題に入りたいと思います(笑)。



会場には和やかな雰囲気が


塩分控えめの食生活を

 「脳血管障害」について少し触れたいのですが、脳の血管が詰まるのが「脳梗塞」、血管が破れるのが「脳出血」、それら両方脳の異常事態を「脳溢血(のういっけつ)」と言います。これまでは「脳出血」が多かったのですが、最近は「脳梗塞」が多く見受けられます。原因は先ほども言いましたが食生活が欧米化され、血管内にコレステロールがたまり、血管内を圧迫し血液の循環を妨げることが原因となっています。また、ストレスも誘因となっています。
 あと、「生活習慣病」のなかで代表的な「糖尿病」はご存じと思います。食事制限を言い渡されるなど、かなりつらい病気です。「糖尿病」は単に甘い物の摂りすぎで尿の中に糖分が降りるのではなく、「眼障害」「神経障害」「腎障害」の3大障害にも繋がってきます。これは血管がボロボロになり、恐ろしい病気といわれる「眼底出血」や血液の循環が悪くなり末梢血管が詰まったり、細くなる「代謝障害」を併発したりします。「代謝障害」では、例えば足先の血管が詰まり壊疽(えそ)となり足が腐り切断せざるを得ない状態になることもあります。私の知り合いで発病された方がいますが、「眼底出血」は出血を止めるため血管を細くする治療をしますが、「代謝障害」となる壊疽(えそ)は血管を広げる治療を施すので「眼」を残すか「足」を残すかの選択を強いられます。その方は眼が見えなくなると家族にも迷惑が掛かりつらいことから、足の切断を選択されました。このような病気も日常における食生活の工夫により進行を防ぐことが出来ますので、食事療法をしっかりとしてもらいたいと思います。また、糖尿病外来にも是非行っていただきたいと思います。
 
 続いて「胃ガン」についてですが、これまで死因のトップであった「胃ガン」が何故減ったのかご存じでしょうか。集団検診での早期発見、早期治療の効果が大きいと言われています。また「胃ガン」は塩分の高摂取が大きな原因になっていると言われています。例えばマウスに塩分を与え続けることによって発ガンすることが実証されており、また塩分の摂りすぎが高血圧や死因の2位、3位の「心疾患」や「脳血管障害」にも繋がります。現在においては食生活が朝のご飯とみそ汁に代わってパンとコーヒー、昼のそばやうどんに代わり焼き肉定食やハンバーガー、夜は野菜の煮物がグラタンなどに代わり、欧米化された食事になってきています。少し減塩した食生活に変化していったので「胃ガン」を発病する人が減少したのではないのかなと感じています。
 ところが食生活の欧米化によって発病が増加しているのが「大腸ガン」です。最初にお聞きしましたが、健康診断を受けているなど病院へ行かれている方がほとんどでしたので安心はしていますが、みなさんの中で胃カメラを年一回受けておられる方はいらっしゃいますか。あと、胃の透視をされている方はどうですか?(少数が手を挙げる)病院に行かれる方は多いですが、胃カメラや胃の透視は非常に少ないですね。会社勤めの時は年に一回必ず受診していたはずですよね。胃の透視はバリウムを飲み外部から透視して見ます。胃カメラは胃の中を直接見ることが出来るので早期発見には胃カメラがお勧めです。みなさんの年代では食事やストレスなどで、病気に掛かりやすい状態だと思います。例えば「胃ガン」や「子宮ガン」など早期発見していれば治る病気も、末期になってからの発見で亡くなる人のことを医者は「自殺行為」と言っています。昔は胃カメラを飲むのが非常につらいと言われていましたが、最近では軽い麻酔をかけて行うところもありますので、一年に一回は胃カメラか胃の検査をしていただきたいと思います。


定期的な検診を受けることが大切

 「大腸ガン」の話に戻りますが、大腸の透視や大腸ファイバーをご存じの方はおられますか? 胃の方では、胃の透視や胃カメラはみなさんもよくご存じですし、胃の場合は食後など痛かったり、ムカムカしたりと症状として現れやすいのですが、腸は下痢や便秘などの症状はありますが、なかなか自覚症状としてわかりにくい臓器ですのでかなり症状が悪化しないと表に現れません。胃の中に出来るポリープは悪性化しない物もありますが、腸の中に出来るポリープは何年かすると必ず悪性化します。実は私の父も「大腸ガン」が発病し、手術を受けたことがあります。父は妻も看護婦、娘も看護婦、孫も看護婦ということもあり、家の中で3人もの看護婦に囲まれていましたので、何かあるとすぐに「病院に行くように」という私たちをうるさく思っていました。ある時、母が私に「お父さんを大腸検診に連れて行って」と言うのです。母から内容を聞くと、父はその時すでに血便が出ていると言うのです。急いで病院に連れて行き大腸ファイバーを受けましたが、すでに「大腸ガン」が進行していて、医者は首を横に振るだけでした。私は父のことがとても心配でいろんな病院にかけあい、大手術を受けることになったのです。大腸はガンに侵されボロボロでしたが、腹部内は影響を受けていませんでしたのでなんとか一命は取り留めることができました。のちに膀胱ガンにもなりましたが、早期発見が功を奏し、その後回復しとても元気になりました。私も一親等ということもあり、しっかりとDNAを受け継いでいるのでガンになりやすい体質ですから、一年に一回は胃カメラと大腸ファイバーには行きます。大腸ファイバーも一般的にはかなり苦しくつらい検査ですが、これもまた胃カメラと同じように病院によっては軽い麻酔をかけて検査を行うところもあります。私の通っている病院では軽い麻酔をかけて検査を行います。つらい検査であれば二度と検査を受けなくなることは医者も分かっていますので、「大腸ファイバーはつらい検査ではないということを医者として知らせていかなければ」と言われています。大腸ガンの検査には便の潜血反応を見る検査があります。しかし、潜血反応だけでは、その日の便の状況によっては潜血反応が出ずに発見できないことや、他の原因で出血していることもあり完全な検査とはいえません。一番正確な検査は大腸の中を直接カメラで見る大腸ファイバーだと思います。また大腸内のくびれたヒダの奥の部分にポリープが発症していることもあり、怪しい部分には試薬をかけて色素の変化で診断します。早期発見であればその場でポリープを取り除くことも可能ですので、大腸に出来たポリープを悪性化させないように、大腸ファイバーを年一回は受診していただきたいと思います。

きちんと受けていない定期検診の必要性に少しぎくっと

 みなさんの中でよくおならの出る人はいらっしゃいますか。では、毎日便が出る人はどうでしょうか。2日に一回の方は? 2日以上の方は? ここでお願いですが、いくら食事の量が少なくても毎日便をするように心がけてください。例えば朝起きてすぐコップ一杯以上の水を飲む、にんじんやゴボウなどの根菜類をたくさん摂るとか、お腹のマッサージをするなどして便通を良くする工夫も大切です。それでは自分の便がくさいなぁと感じる方はいらっしゃいますか。逆にあんまりくさくないと思われる方はどうでしょうか。(数人が手を挙げる)単に自分だけがくさくないと思っていて奥さんや子どもさんに「くさいなぁ」と言われてませんか(笑)。失礼しました。くさいのはお腹の中のタンパク質や脂肪が材料になってガスが発生してくさくなるのですが、実はこの便のくさい、くさくないは腸内細菌によって変わってきます。テレビドラマなどでもヒーローと悪役があるように、腸の中にも善玉菌と悪玉菌がいます。一般に善玉菌と呼ばれているのは、みなさんよくご存じのビフィズス菌や乳酸菌で、悪玉菌は大腸菌やウェルニス菌と呼ばれているものです。肉食系の人や何日も便が出ない方はお腹の中にガンが出来やすいタイプの人です。悪玉菌を増加させないためにも、特にキノコ類やひじき、ワカメ、昆布などの海藻類やヨーグルトなどを摂ることによって善玉菌を増幅させましょう。ちなみにキムチもいいそうです。善と悪の話が出ましたが、コレステロールにも良い物(HDL:高比重リボ蛋白)と悪い物(LDL:低比重リボ蛋白)があります。通常コレステロールとは動脈硬化を促進することから悪い物の代表みたいに世間では言われていますが、コレステロールは身体にとっては必要な物で、リボ蛋白という粒子の中で血液中を移動し、人体の細胞やホルモンの材料になったり、食物の消化や吸収に必要な胆汁酸の原料となるなど生命を維持するための重要なものです。しかし、コレステロール値があまりにも高いと動脈硬化が起こり、血管内が細くなり血栓などで詰まりやすくなります。そうなると臓器に十分な酸素や栄養分が行き渡りにくくなり、細胞に障害が起き、狭心症や心筋梗塞、脳梗塞などの大きな病気を発病する可能性があります。みなさんの中でコレステロール値が高いと言われている方はおられますか。中性脂肪(トリグリセライド)が高い方はどうでしょうか。善玉コレステロールを増加させるための食事療法としては、先ほども言いましたように根菜類や海藻類などをたくさん摂るようにして動物性脂肪分(肉の脂身、ラード、生クリームなど)はなるべく控えるようにしてください。また、適度な運動を習慣づけるように心がけてください。適度な運動は中性脂肪を減らし、善玉コレステロールを増幅させる働きがあります。
 善玉、悪玉について二点お話ししましたが、これにプラスして人が生きていく上で非常に役立っている物があります。人間の体には60兆以上の細胞があり、その中でも非常に大事な細胞があります。本や新聞などでみなさんも知っておられるかも知れませんがご存じの方おられますか。免疫力を高める細胞です。(NK細胞との声が) ありがとうございます。みなさんほんと良くご存じですね。ナチュラルキラー(NK)細胞と言います。白血球やマクロファージ、リンパ球などの一種で体外から進入した風邪のウィルスやガン細胞や膠原病(こうげんびょう)などを撃退する細胞です。この細胞を活性化させることがすごく大事なことです。活性化させるためには良く笑い、どんな大きな病気にかかっても絶対に治してみせるという本人の気持ちの持ちようが重要となってきます。

資料を見る目も真剣に 健康がやはり一番です


病魔を打ち破る勇気と力を

 気持ちの持ちようが重要と言いましたが、みなさんはガンの告知をどう思われますか。告知された方が良いと思う方はおられますか。では、告知されたくないと思う方はどうでしょうか。(少数が手を挙げる)ありがとうございます。正直な回答をいただきました。私も告知されたくない方です。しかし私は職業柄、どんな検査や治療をしているかによってガンであるかどうかは見当がつきますので複雑な気持ちです。大半の人はどこかで自分はガンではないと思っているため、いざ告知されるとかなりのショックを受ける方が多いように思います。人間は生まれてきた瞬間から亡くなる時点へのカウントダウンが始まっていると言いますが、私の長い看護師経験の中で不思議な経験があります。それは、もうダメだと思っていた患者さんが病気を乗り越える勇気と力で死の淵から舞い戻ることがありました。こういった経験を持った方にどのようにして病魔と立ち向かったのか是非、伺ってもらいたいと思います。みなさんもこのように勇気と力を振り絞り、病気に立ち向かう気持ちを持ってこれからの人生を謳歌していただきたいと思います。
 あと、病気に大きく影響を与えるものに「ストレス」があります。「ストレス」という言葉の始まりですが、1936年カナダの生理学者ハンス・セリエ博士がイギリスの雑誌「ネイチャー」誌に「ストレス学説(ストレスは人生のスパイスだ)」を発表したことから使われ始めた言葉でしたが、「どんな病気でも同じ治療法で治る」というような学説を唱えたことから、当時の医学界では受け入れられなかったようです。しかし、「ストレス」という言葉はここ10年ぐらいで頻繁に耳にするようになったと思います。「ストレス」には交感神経系を目覚めさせ、判断力、行動力を高める適度なストレスである「快ストレス(eustress)」と過剰なストレスによる「不快ストレス(distress)」に分かれます。例えば「不快ストレス」の最高を100点としますと、両親、配偶者、子女の死、離婚などが最高の100点、病気が53点、夫婦げんかは35点、子どもの自立が29点と配点できます。その点数が一年間に300点以上になるとそのうちの80%の方が精神的な心身症や鬱(うつ)病を発病することが報告されています。「ストレス」とは心で感じたことが脳の方へ伝達され、大脳皮質という神経細胞体が集まっている、生命を維持する一番大事なところへ伝達されます。その「ストレス」が私たちを襲うと、視床下部(自律神経中枢)という体温、食欲、睡眠、全体的な代謝や血圧などをコントロールする神経に刺激を与え、刺激ホルモンを分泌させ続け、強い感情を引き起こすと病気になったり心が鬱(うつ)になったり、免疫力が低下したり、自然治癒力を低下させたり発ガン率が高くなったりします。ストレスをためやすい人は一般的にまじめで几帳面な方や生活が不規則な方、人間関係に対し一生懸命になる方に多く見られます。ストレスによる心の病気はいくら医学の進むこの時代においても、その病を治す特効薬などはありません。ストレスを解消するためには、適度なスポーツや歩くこと、笑うことなど、「快ストレス」を自らが生み出し、自分を変える、鍛える、前向きに生きるというストレスを良い方向に変えるというのが非常に大事なこととなります。例えば骨粗鬆症もそうですが、女性の場合、閉経と同時に女性ホルモンが減少し、エストロゲンが減り、コレステロールや中性脂肪をストップしていた役割をしなくなって骨粗鬆症になってしまいます。それを防止するには、骨に適度なストレスを与える、つまり、立ったり歩いたりして骨に適度のストレスを与えることによって骨粗鬆症を防ぐことになるのです。先ほども井上会長から「夢を失うと人は老いる」と言われていましたが、「希望、信念、意欲、信頼、愛情、前向き」などの明るい感情を持つことが、いつまでも若く生涯青春でいられる秘訣ではないかと思います。みなさんのように人生の総仕上げのこの時期に、精神的にも肉体的にも元気でいるためには、いろんな趣味を持って気の合う人とつきあい、「快ストレス」を取り入れてもらいたいと思います。


大震災の時に一番早く
援助物資を届けてくれたモンゴル

 冒頭のご紹介にもありましたが、私は現在、看護師の仕事をしながら、日本モンゴル白樺協会というNGOの活動も行ってます。少しお時間をいただき私とモンゴルとの出会いや現在の活動についてお話しさせていただきたいと思います。

 みなさんは「モンゴル」と聞けば何を想像されますか。きっと「旭鷲山」「朝青龍」などの関取や「大草原の国」といった景観の美しい国という印象でしょうか。一方、モンゴルでは冬になると零下30℃にもなります。そんな環境下に加えてロシア政権が崩壊した後は経済状況は極めて悪く、首都ウランバートルには、生計上、子どもが育てられなくなる親などが多く発生し、やむなく子どもたちは唯一暖をとれる火力発電所から出ているスチーム配管が這うマンホールの中で暮らすことが余儀なくされています。
 私とモンゴルとの出会いは私が住んでいる神戸市北区の有志により、毎年ダンボール箱に衣類や子どもの靴、文房具などを詰めてマンホールの下で暮らす子どもたち(マンホールチルドレン)に支援物資を送り始めたのがきっかけです。
 送り始めてから早10年にもなりました。支援物資を送り始めてから3年後にはモンゴルから支援のお礼にと「恐竜の化石」をいただきました。これを持ってこられた初老の男性は、日に焼けた黒い顔にしわが深く刻まれ、モンゴルでの厳しい生活を垣間見るようでした。けれどもその男性の笑顔はとても輝いて見え、何故か懐かしささえこみ上げてくるほどでした。

友人の看護師とモンゴルでのボランティア検診を
 私が本気でモンゴルへ行ってみたいと感じたのは、今から9年前の阪神淡路大震災の時でした。当時、看護学校の2年生として実習中でしたが、震災が発生し当然のごとく学校は休校となり各避難所への応援へ出ることになったのです。各避難所では電気も暖房器具も足りない状況でした。そんな中、どこの国よりも早く被災地にモンゴルから暖かい毛布が届けられたと聞きました。この時、嬉しさと同時にいつかきっとモンゴルに行きたいと強く感じたものでした。


キラキラと目の輝くモンゴルの子どもたち 訪問した施設で


初めてのモンゴル訪問で
医療事情の厳しさを

 震災から3年後の1998年8月、初めてモンゴルに行くことになりました。首都ウランバートルに着いたのは午後11時でしたが、まだ空は明るく雨上がりだった空には虹が2本もかかり、まるで私たちの訪問を歓迎してくれているようでした。
 モンゴルの大草原には派手さはありませんが、野の花が咲き誇り、ゴビ沙漠の空には大きな雲が流れ、見渡す限り360°何も障害物はなく地平線が見渡せます。夕方になると地平線は水色やピンク、オレンジ、紫とまるで大きな筆で絵の具を用いて塗ったように美しく変化していきます。夜には満天の星が輝き、天の川(ミルキーウェイ)が見渡せ、モンゴルでの自然を語ればキリがありません。
 その反面、マンホールチルドレンが収容されている施設や貧しい人たちの村を訪問すれば、胸が締め付けられるような思いがしました。看護師である私は、この施設に暮らす子どもたちや貧しい人たちを診察してくれる病院はあるのだろうかと思い、翌年にはウランバートルにある大きな国立病院や町はずれにある小さな病院を訪問させていただきました。そこで言われたのが「こんな医療器が欲しい」とあるものを見せられました。それは、四角いラジオのような鉄製の箱から2本のコードが出ており、その先端には10平方センチぐらいの鉄板がついてあるもので、見る限りでは温熱治療器のようなものでした。小さな病院では看護師さんの着ている服も日本のように統一されておらず、各々が買ってきたもので形も様々でした。
 次の年にはモンゴルの看護協会を訪れました。そこでは看護師になりたくても学費が生活費と同じくらいかかるため看護師になれない人がたくさんいることを聞きました。そこで私はモンゴル白樺ナース協会を設立し、貧しくて学費が払えない看護学生への資金援助をすることにしました。
 モンゴルの大自然と人々の素朴さ、子どもたちの輝く瞳に惹かれてモンゴルを毎年訪問するようになったのです。そして、貧しくて教育を受けることの出来ない子どもたちへの支援、不足している医療機器類の物資援助、自然環境問題や植林事業への参加と、多方面にわたり支援出来るようにと昨年1月「NGO日本モンゴル白樺協会」を設立しました。


モンゴル看護学校を訪問し看護学生と交流を


日赤病院の協力でモンゴルへ
医療機器を

 毎年モンゴルを訪問し、病院を訪れて医療器具類が不足している現場を見ては「どうにかして、医療器具をおくりたい」との思いが募り様々なところへ援助要請をしましたが、なかなか業者や個人的にお願いした病院からも良い返事は返ってきませんでした。そんなジレンマを感じていた昨年の春、日本赤十字病院の事務局長から電話が入り、「須磨と神戸の赤十字病院が統合することになり、新しくHAT神戸(神戸市中央区内)に医療防災センター日本赤十字病院として開院することとなったので、現在使用している医療機器を贈呈しましょう。」との話をいただきました。その時は嬉しい限りでした。床頭台、ベッド83台や車椅子、ポータブルのレントゲン撮影器など40フィートコンテナ3本と20フィートコンテナ1本分にも上る大量の医療機器が贈呈されました。またマスコミからの取材も反響を呼び、兵庫病院から心電図計他数点の医療機器や一般の方からも介護用のベッド、吸引器や車椅子など真心のこもった品々もいただきました。
 しかしながらモンゴルへこの機器類を輸送する費用の捻出にかなり苦労をしました。馬頭琴の演奏によるチャリティーコンサートや募金活動を行い、たくさんの方々から温かいご支援をいただき、ようやく昨年の10月27日にモンゴルへ搬入することが出来たのです。私たちスタッフ一同もモンゴルへ直接届けたい一心で、零下20℃にもなるモンゴルを訪問し、モンゴル赤十字、国会議員や日本大使館など多数の方々の見守る中で贈呈式が行われました。
 医療器具類が搬入された体育館には十数カ所の病院関係者が押しかけ、必死の形相で医療器具を見つめ欲しがっていた医療器具を車に積み込み、喜び勇んで帰っていく姿を見て感慨無量でした。
 もう一つ嬉しいことがあります。今回、医療器具の寄贈に併せてモンゴルの友人であるヘルレンライオンズクラブ会長ヤンジン氏から「日本モンゴル白樺病院」の開院式をしていただきました。念願の貧しい人たちも診てもらうことが出来る病院です。病院の入り口にはゲル(移動式住居)があり、病院の手伝いをしていただく方の住居だそうです。日本語の出来る看護師の方もおり、これからはこの病院が地域に密着した医療活動を行い、多くの人たちの助けになるように支援していきたいと思います。
 今回の医療器具はほんの一部の病院などにしか渡せていません。来年の夏には聴診器や血圧計、ポータブル心電図計などを欲しがっている村はずれの病院など遙か草原の彼方にある病院まで、ロシア製の払い下げのジープに乗って訪問したいと思っています。私たちは品物での支援を行っていますが、モンゴルに行けばマンホールチルドレンや貧しく素朴な人々の輝く瞳、温かい人柄に癒されて帰ってきます。みなさんも是非ご一緒モンゴルへ行きましょう。


新聞各紙に紹介された日本白樺協会の活動


モンゴルウランバートル赤十字から感謝状をいただく

ウランバートルの体育館に並べられ贈呈式を待つ医療機器

医療機器の受け取りに体育館の前に並んだ病院関係者の車


「残りの人生」ではなく
「これからの人生」として

 最後にみなさんは、これまでの人生を大きなキャンバスに綺麗な絵として描いて来られて、あともう少しここに絵をたしたいな、ここをこんな風に描きたいなと思ったりするのが今からの時期ではないかなと思います。「残りの人生」ではなく、「これからの人生」を健康で楽しく過ごしていただきたいと思います。私の好きな本の中に、「人生の最後が雨の降る暗い夜でなく、西の空に燃えるような真っ赤な太陽が山に沈むような人生を」と書いていました。みなさんにはこのような充実した日々を送っていただき、これから先の人生がほんとうに素晴らしい人生でありますようにお祈りしています。本日は長い時間、本当にありがとうございました。

(文責:松原義昭)


オープンした日本モンゴル白樺病院

白樺病院の院長先生と固い握手を

次回はこの道をずーっと田舎まで走り医療機器を届けたい


スーホーさんの馬頭琴の演奏
笠原 千津子
● PROFILE ●

社会保険中央病院で7年間、その後、精神科看護を希望し、現在の兵庫県立光風病院に移り31年、看護歴38年のベテラン看護師として現在も活躍中。
その間、思春期から更年期障害、生活習慣病など幅広いテーマで健康セミナーの講師を務め好評を得る。
数年前からはモンゴルへのボランティアにも取り組み、将来、看護師を目指す子どもの里親として支援も行っている。
また、介護保険のスタート時からケアマネージャーとしてお年寄りとの関わりも深めている。
2003年には日赤病院から提供を受けた医療機器の数々をモンゴルへ寄贈しモンゴル赤十字などから高い評価を得る。また現地の関係者と協力し、貧しい人たちが受診出来る「日本モンゴル白樺病院」を設立する。


楽しい秋の一日となりました