環境活動事例紹介A
岐阜蝶(ギフチョウ)の舞う里山づくり
img1_1.jpg
NPO法人野生生物を調査研究する会   
理事 今 西 将 行


 みなさんこんにちは。NPO法人野生生物を調査研究する会の今西です。私たちは、その名の通り野生生物の生息地や生態について調査し、研究をしている団体です。フィールドワークを基本にターゲットに定めた地域で生息する野生生物の種類や数を調査し、そのデータを分析して学術的にまとめ活用しています。そうした成果は国内外への情報発信や、国内外での取り組みとの情報交換にも使われています。あわせて、調査結果を冊子にまとめ、小中学校の野外学習の副読本として寄贈したり、講演会などで環境学習活動に役立てています。
 これまで、武庫川流域の野生生物を調査し、昆虫や動植物の生態を整理し「生きている武庫川」と題した冊子を発行してきました。武庫川の他にも、猪名川、揖保川、大和川、由良川そして、鶴見川流域やその他の地域の調査についても取り組み、各流域の小中学校に3万5千冊を寄贈し、野外学習等に活用して頂いています。
 今日は、野生生物の生態系を守ることに欠かすことのできない「里山づくり」について、コベルコ自然環境保全基金を活用した取り組み事例から紹介していきたいと思います。


【里山づくり】
 具体的な事例紹介の前に、少しだけ里山についての話をさせてもらいます。日本は国土の多くを森林に覆われ、緑豊かな国だと言えるでしょう。しかしながら、その森林の中で太古から変わることの無い原生林というのは殆どなく、現在では縄文杉のある屋久島などの離島しかその姿を見ることは出来ません。
 では、私たちが普段目にしている森林は何なのかというと、いったん人の手が入った里山なのです。森は食料や燃料といった有機資源の宝庫なので、人間は遠い昔から森の恵みを分けてもらいながら生活をしてきたのです。そうした、森と人間との共生の姿が、里山という仕組みなのです。
 ところが、一度、人の手が入った森は簡単には原生林には戻ることができません。それは、人間が利用することによって、元々あった生態系が崩され、人の手が関与する里山という新しい生態系の形になっているからです。つまり、人の手が入った里山は、手入れがされなくなると、本来、原生林では勢力をもって生息することができなかった種の動植物が、勢力を拡大してしまうのです。一つの例を挙げると、林業のために杉などの枝打ちをして、日光が入るように下草などを刈り取って整備していた山が、林業の衰退と集落の高齢化で手入れをする人間がいなくなると、熊笹や竹が繁殖し、より人の手が入りづらい状況になってしまうのです。
 つまり、人の手が入った里山は、継続して手入れを行うことで、里山という生態系が維持され、「ひと」と「くらし」そして「自然」と共生することができると言えるのです。そして現在、生物の多様性について考える時に欠かすことのできないのが、里山との関わりなのです。


【2008年度コベルコ自然環境保全基金の活用】


カンアオイ


ギフチョウ
 それでは、具体的な事例の報告をさせていただきます。2006年に三田のある里山で、絶滅が危惧されている「ギフチョウ」が発見されたことから、「ギフチョウが舞う里山づくり」として、この里山を整備する活動が始まりました。この蝶は、幼虫の時に「カンアオイ」という植物しか食べることができず、その「カンアオイ」の生息地域の減少に伴い、「ギフチョウ」の数も減少していました。
 2007年度に実施した調査結果を元に、2008年度のコベルコ自然環境保全基金に申請を行った結果、助成金をいただけることができ、そのお金を使って、里山整備に必要な道具類を準備してきました。そして、2008年4月に計画地の30%にあたる約0.3hrを対象に、下草刈りをはじめ竹や潅木の伐採、熊笹の伐採などといった整備を行い、ギフチョウの幼虫の食草であるカンアオイや、成虫の吸蜜花であるスミレの生息保全と保護を行いました。そして、翌2009年の3月から4月にかけて、ギフチョウの発生状況について調査を行いました。
 ギフチョウというのは非常に美しい翅を持つ蝶なのですが、比較的原始的な蝶に分類されます。そして、春先になると一番早く羽化して飛び始める蝶であり、早く花を咲かせるスミレの蜜を吸って生きる、春を呼ぶ蝶、「春の女神」と言われます。しかしながら、幼虫の時はカンアオイしか食べることができず、成虫になるとスミレの密しか吸えないということで、生態系の変化に弱く、現状では保護が必要な種となっているのです。
 私たちは、まず調査を行った上で、保護する対象についてしっかりと検討を行います。そして、やり方や仕組みといった保護のベースを作り、次にその活動を継続して引き継いでくれる協力者にバトンタッチしていきます。当然、里山保全活動に同行し、指導や助言を行っていくのですが、作業の主体はナチュラリストクラブという集まりに委ねています。このナチュラリストクラブという団体は、自然観察や自然環境の保全に興味を持つ女性が中心の、自然が大好きな方々の集まりです。みなさん熱心で、毎月1回、定例的に里山保全活動に取り組まれています。そして、活動の成果をホームページ(www.wildlife.or.jp/naturalist/)にアップするなど、きちんと形に残して情報発信もされています。
 具体的に整備を行っている里山は、7軒から成る小さな集落で、高齢化により里山の整備・保全などは、最近、手付かずになっていた状態でした。はじめは、ギフチョウという貴重な蝶の保護のために必要な活動だとはいえ、他人が集落に入り込むことに住民のみなさんが難色を示していたのですが、定期的に人手が入り、整備されていく里山を見ていくうちに、お互いが交流し共に活動をするようになっていました。
 里山というのは、生態系の保全という観点だけではなく、人々が生活していくうえで、自然と共生し培ってきた貴重な文化遺産であると思います。この文化を継承し次の世代につないでいくことも必要だと考えています。

【継続する里山活動】
 これから里山を始めることを考えている方に、いくつかのアドバイスをしたいと思います。まずは、「目的をはっきり持つこと」です。私たちの場合はギフチョウが舞う里山づくりでしたが、何か成し遂げたい目標があれば、活動は続きやすくなります。次に「無理のない計画を立てること」です。たとえば、毎週だとか、何人が参加するだとか、計画自体に無理があると、参加することが億劫になってしまいます。そして「資金的な裏付けをしっかり考えること」です。何でもかんでも、参加者の手弁当では活動は先細りしてしまいます。助成金を得る仕組みを考えるとか、事業として成り立たせる方法を考えるなどが必要です。また何よりも、「地元の人々に理解してもらうこと」です。そもそも、地元の理解と協力がなければ、その地域に入ることすらできないからです。
 そのほか、特にグループで行うような場合は「グループとして達成感を持つことができるスケジュールと、いつも感動を味わえるような活動を企画すること」が大切です。美しい花でも、珍しい動物でも、美味しい木の実でも、何でも良いので、活動(具体的な作業)をすることで、見返りではないものの自分たちへのご褒美があると、モチベーションもあがり、次も参加したいという気持ちにつながるからです。
 今日は、多くの若い方に話を聞いていただきましたが、この中から何人でも良いので、こうした活動に興味を持って、具体的に参加していただければ嬉しいと思います。夢と希望のある里山づくりに、是非、みなさんも参加してみて下さい。

以 上