環境活動事例紹介@
減装(へらそう)ショッピングのご紹介
容器包装ごみ発生抑制の取り組み
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NPO法人ごみじゃぱん 事務局長    
(神戸大学大学院経済学研究科)    
小 島 理 沙


 みなさんこんにちは。NPO法人ごみじゃぱん小島です。私たちは神戸大学に活動拠点を置くNPO法人で、容器包装ごみを減らそうと取り組んでいます。本日は、私たちの活動内容についてご報告したいと思います。
 この事例報告のタイトルですが、「減装」と書いてよく「げんそう」と読まれるのですが、「へらそう」と読みます。私たちは、スーパーなどで販売している一般消費財の容器包装について、減らしていこうと活動している神戸大学の学生が中心となったNPOです。


【ごみじゃぱん設立の経緯】
 なぜこのような取り組みを行っているのか?まずは、ごみじゃぱん設立の背景についてご説明したいと思います。
 日本は1970年代に高度成長期を迎え、市民の生活スタイルは大量生産と大量消費が当たり前になってきました。購入したものは、使用して不要になると当然ごみになるわけで、大量消費=大量廃棄ということになります。現在、ごみの分別が進み、家電リサイクル法や容器リサイクル法の施行などにより、様々な廃棄物についてリサイクルが取り組まれて浸透してきています。しかし、どんどんリサイクルすれば解決という訳でもなく、費用面で考えると、一般廃棄物の収集処理コストが39円/kg−収集量に対し、包装廃棄物のリサイクルは306円/kg−収集量となっており、大量に廃棄しリサイクルするとそれだけコストも嵩んでいくことになるのです。
 また、ごみを焼却処分しても、最後に残った灰は埋め立てることになります。分別して安定処分が可能になった廃棄物も当然埋め立て処理が行われますが、その埋立用の最終処分場の受入許容量が年々減少しています。そして、新たに最終処分場を増やそうにも、2010年以降は新規での建設が行われず、受入場所がなくなる危機に陥っている状態です。
 こうした背景を整理すると、「新しく最終処分場をつくるのは大変困難」、「東日本大震災など、突発的な災害で発生する大量のがれきごみの処分問題」、「資源の持続的活用」、「社会的コストの削減」という観点から、普段からの『備え』としても、ごみの発生抑制とリサイクルを並行して進めていくことが重要であるということなのです。


【減装ショッピングとは】
 こうした背景のもとで、「具体的に何に取り組んでいけば良いのだろう?」と、考えた結果、買い物の際に容器包装が少ない商品を購入すれば、必然的に発生するごみを減らすことができますし、容器包装が少ない商品がより売れれば、メーカーも容器包装を軽くしようとします。そして、市場全体の容器包装が軽くなれば、社会全体で容器包装ごみが減るという結論に、私たちはたどり着いたのです。
 一つの事例を紹介すると、コカ・コーラ社のミネラルウォーターである「いろはす」は、従来のペットボトルと比べ約40%のPET樹脂を削減しています。これはペットボルト業界に衝撃を与えた商品で、「ペットボトルはこれ以上軽くすることはできない」という常識を打ち破った、画期的な商品でした。これは、コカ・コーラ社という飲料水メーカーの最大手が、大々的にテレビCMを展開したこともあって、スタートダッシュに成功し、一般消費者にしっかりと認知されたものです。
 こうした事例に続いて、すべてのメーカーが容器包装を簡易に軽くしてくれると良いのですが、実際には世の中はまだまだ簡単には変わらないのが現実です。
 そこで私たちは、独自に「減装商品(へらそうしょうひん)」のロゴマークを作り、容器包装が少ない商品を選んで掲示し、その商品を買っていただくことで、ごみを減らしていこうという運動を展開しています。

ロゴマークとスポッター
 この減装ショッピングには、1.ごみの少ない商品選び、2.店舗づくり、3.普及啓発という、3つの活動があります。まず「ごみの少ない商品選び」ですが、大手のスーパーの店頭に並んでいる商品のうちいくつかのカテゴリーについて、内容物を全て出しきった上で、容器包装の重量を計量し、内容量あたりの容器包装重量をデータ化し比較しました。そして、ランキング上位30%程度の商品を「減装商品」として推奨します。
 次に「店舗づくり」ですが、推奨となった「減装商品」を消費者に知ってもらうために独自のポップやスポッターと呼ばれる小型の幟を作って、店舗に掲示してもらうことにしています。
 3つ目の「普及啓発活動」は、減装生活と称してごみの減量化に注意した生活と、まったく注意をしない生活を比べた場合のごみの発生量を比較したり、減装カフェという名前で、近所の主婦の方に大学に来ていただき、容器包装廃棄物についての生のお声を聞く会を設けたり、減装学校を開校し、児童館などで子どもたちへの啓蒙活動に取り組んだりしています。
 こうした、ごみじゃぱんの活動の特徴は、まず「学生が中心」になっていることです。これは神戸大学が活動の拠点になっていることから当然ですね。それから次に「Win-Win」の関係、つまりメーカーも消費者も双方がハッピーになることが重要であると思っていること、そして最後は「Localな活動」つまり神戸を中心に地元に根付いた活動を展開していることがあげられます。

【各実験結果】
 それでは、ここで具体的な実験結果についてご報告したいと思います。
 最初の取り組みは2007年から始まります。神戸の地元ということでコープこうべ六甲アイランド店の協力の下で、1カ月間、推奨商品の数を280品目として実験をスタートしました。その際に私たちは「情報を提供すれば生活者は動く」という仮説を立てたのですが、その結果、1/3の商品について売り上げが上昇し43.2kgの抑制を図る事ができました。まさに、生活者は確かに反応したと言えます。しかし、この結果に対する課題としては、六甲アイランドという閉鎖された地域限定の結果ではないのか? コープという生活生協の利用者はごみ問題などの意識が高いのではないか? また、地域性として生活水準が高めだったのではないか?という課題があげられ、「本土の住宅地での効果」と「生協以外での効果」について、引き続き検証することになったのです。
 翌2008年は、コープこうべに合わせてダイエーにも協力をしてもらい、4店舗で3カ月間かけ、選択肢が広がるように推奨商品も1474品目に増やし、「一般的な住宅地でも情報を提供すれば生活者は反応する」と「普通のスーパーマーケットでも効果は上がる」という仮説の下で実験に挑みました。その結果、食品で約8.5%、生活雑貨で約14%に売り上げの変化があり、抑制量は118.0kgを達成することができました。つまり、「通常の住宅地で生協以外でも生活者は反応する」ことが示されました。そして次の課題として、「学生の関与無しでの効果」と「店舗での日常活動として効果」があるのか?ということが見えてきました。
 続く2009年から2010年にかけての取り組みは、コープこうべ、ダイエーに合わせてイオンにも協力してもらい3企業グループの3店舗になり、期間も1年間、推奨商品数は1146品目としました。今回は、「学生が特別な活動をしなくても効果は上がる」という仮説の下で取り組んだ結果、最大30%の売上上昇を図ることができ、169.5kgの抑制につながりました。このことにより、学生の特別な活動が無くても効果があることが証明され、その結果、神戸市内のダイエー全直営店の22店舗で期限を切らずに、実験ではなく事業活動として取り組んでもらえることになりました。
 2011年のトピックスは、店舗での実験ではないですが、製パン業最大手の山崎製パンが包装を約30%カットした製品を企画し、これに減装商品のロゴをつけて販売を開始しました。7月の販売開始から半年間で7商品が市場に出回り、740万個で約14tのプラスチック容器ゴミを削減することにつながりました。これは、学生がスタッフとしてNPO法人がコツコツと取り組むことと比べ、(もちろん個人が地道な活動を積み上げていくことも重要なのですが…)企業が本気で事業として取り組むことの影響力の大きさを教えてくれました。



新(減装バージョン)


 2012年の取り組みは、「情報を提供すれば他地域の生活者も動く」という仮説の下、神戸以外の地域での3店舗で、2週間の期間で、119品目の実験を実施しました。その結果、品目が少なく期間が短かったことから抑制量は6kgと少なかったものの、他地域でも生活者は反応したことが明らかになりました。こうした実験結果から、次の課題は、効率的に認知度を上げる方法を考えて展開していくことだと分析しています。


【今後の取り組み】
 今後の取り組みについては、まずは地元神戸での活動を今一度充実させ定着させていくことを目的に、神戸大学のお膝元であるコープこうべ鶴甲店と、ダイエー神戸直営22店舗において取り組みを展開していく予定にしています。
 また、他の団体とのコラボレーションということで、グリーン購入ネットワークとの協力の下、「500万人グリーン購入一斉行動」を展開していくことにします。




 大学生が中心となって取り組み始めた活動が、企業、地元経済、生活者(消費者)を巻き込み、一つのビジネスモデルになりつつあることは、情報さえあれば生活者は動いてくれるということを証明してくれていると思います。本日、この場にご参加のみなさん方も、是非、減装商品のロゴを覚えてもらい、減装ショッピングに参加していただければ嬉しいと思います。

以 上



ごみじゃぱんの取組みが日経にも大きくとり上げられる日本経済新聞(夕刊)2012年5月21日