「地域多様性」の発想と 小さな暮らしの価値 |
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神戸夙川学院大学 観光文化学部 専任講師 河 本 大 地 |
みなさんこんにちは。司会より紹介いただいた、神戸夙川学院大学の河本です。専門は地理学で、地理という学問を通じて人々の暮らしや環境について研究をしています。 |
地理学に携わる学者たちの集まりとして、「地理関連学会連合会」という組織があるのですが、その地理関連学会連合会の主催したシンポジウムにおいて、次の2点の問題を提起しています。 |
・ | 科学技術の進歩、人間活動の拡大、そしてグローバリゼーションは、地球規模で社会経済活動の均質・画一化をもたらし、地域の個性(地縁やコミュニティ)を急速に喪失させてしまう |
・ | 温暖化、地形改変、大気・海洋汚染、砂漠化、森林伐採、以上災害の発生などを通じて、長い年月をかけて人類が作り上げてきた地域生態システムが崩壊の危機に直面している |
このような状況を踏まえ、このシンポジウムでは、地理学の観点から地域生態システムの維持・管理に関する知識・知見を集約するとともに、「地域多様性」概念の重要性を広く社会に啓蒙することをねらっています。 |
「地域の個性」や「地域生態システム」の喪失や崩壊は、自然環境および自然の中で生きてきた人間の在り方の喪失と崩壊であり、人類の未来と可能性の喪失と崩壊につながると言えるのです。では、人類の未来と可能性を守るためにはどうすれば良いのでしょうか? そのキーワードは「生存」と「幸福」なのです。 |
ここで、日本の中山間地域の現状について、ご紹介したいと思います。兵庫県を例に考えると、人口密度が高いのは阪神地区であり、瀬戸内海沿岸の地域になっています。沿岸部と比較して山間部は人の住んでいない地域もあり、残された地域でも「限界集落」の危機にさらされる村落が多いのです。 都市部への人口の集中が山間部での過疎化を招き、その結果、地域の高齢化や結婚難、そして地域の少子化にもなり、耕作放棄地の増加や森林管理放棄地の増加あるいは、医療・福祉事情の悪化にもつながり、限界集落化に向かっているのです。 中心的集落の機能低下も問題になっています。小さな集落が持っていない、役場、JA、郵便局、商店街、学校などといった、中心的集落の都市機能も低下しているのです。あわせて、国や自治体の財政が逼迫していることで、市町村の合併が進み、公設・公営のハコモノ施設の閉鎖や計画が中止されています。 特に学校の統廃合と学区の広域化・希薄化は、学校の開放度の低下や、子どもの余暇の過ごし方の変化にもつながり、「地域の理解」と「郷土愛育成」、そこでつちかわれた知恵と技を獲得する機会を縮小させてしまっています。 都市部の住民が山間集落を訪れ、行事に参加したり交流を行うなどの取り組みも実行されていますが、この都市農村交流に頼るには無理と限界があり、受け入れる側の山間集落では度重なる訪問により最初は良いけども次第に「もてなし疲れ」状態なってしまいます。また、計画そのものの持続可能性が確立されていないため、結局、一度限りのイベントとなり継続した取り組みに定着していないのです。 一方で、地方都市も地域の没個性化が進行しており、どこに行っても、郊外に大規模なショッピングセンターが続き、似たような建物、店舗が並んでいます。これは、大人が自分たちの住んでいる、生活している地域の良さや楽しみ方を知らない、伝えられないということが原因だと思います。 |
さて、ここからは地域多様性について話をさせていただきます。生物多様性という言葉は知っているけれど、地域多様性はあまり耳慣れない言葉だと感じる方も多いと思います。 地域多様性とは、ジオ(Geo 地学的基盤)多様性と生物(Bio 生態系)多様性、そして文化多様性が重なり合った部分を言うのです。生き物だけではなく、地形を含めた自然だけでもなく、その二つの環境に人々の生活や歴史を合わせた「地域」が、多様性を持っていることが重要なのです。 その地域多様性を見る目を養うことは、地表圏(≒地上)に存在する様々なタイプの自然の中で、人間がどう生きているか、生かされてきたのか、今後の可能性を含めて追求することにつながると考えています。 |
そこで、地域多様性の発現形態について紹介していきましょう。まずは、どちらかというと一般に理解されやすいもの、またはそれをねらっているものです。これらは、特産品、まちづくりのテーマ・シンボル・ブランド、博物館・鉄道の駅・道の駅、名所・旧跡・世界遺産…です。 次に見る目を養わないと理解されにくい有形のものです。これは、土地利用の用途・形態(棚田など)、集落形態(白川郷など)、家屋様式(茅葺き屋根など)、地名とその由来・使われ方、地割、地形(東尋坊など)、地質、水文、植生(縄文杉など)などがあげられます。 最後は、見る目を養わないと理解されにくい無形のものです。これは、伝統行事(秋祭りなど)、宗教・思想(比叡山など)、伝承・物語(遠野物語など)、言語・方言、地域特有の音楽(琉球音楽など)、つちかわれてきた知恵と技、人々の気質・思い・情念、産業構造(三木の金物など)、ヒト・モノ・カネ・情報の流れ…などです。 |
こうした「地域多様性」の考え方を生かして、持続可能な地域を作って行くにはどうすれば良いでしょうか? その答えには、2つのポイントがあります。 ひとつめは、「地域比較の基盤づくり」です。農山漁村の方が自然基盤の上に生活・生業が成立してきたので優位性はあるものの、どんな地域でもできます。 具体的には、身近な地域、あるいは縁のある地域で、まずはしっかり「暮らし体験」を行い、地理的なものの見方や考え方を学ぶことを通じて、未来の可能性につなげていくのです。 私の指導する学生たちはフィールドワークとして、兵庫県美方郡香美町小代区という地域を訪問し、住民のみなさんからの聞き取り調査やディスカッションを実施してきました。地域の高齢化率、人口構成、世帯数などを現在と10年後、20年後のそれぞれにシミュレーションし、この地域のおける「弱み」と「強み」について、赤裸々に語り合ってもらいました。 このことを整理すると、喪失・崩壊の危惧される「小さな暮らし」の営みに触れ、その姿を記録していく。そして、「小さな暮らし」の有り様を、環境問題や生き方の問題としてとらえるようにして、地域に価値を付与する。最後は、その地域ならではの価値をどう強化・発信するか、地域の方々と一緒に考えるということです。 |
二つめのポイントは、「地域間の相互承認・助け合い」です。生存や幸福のための地域間の支え合いのシステム化を考えること、つまり従来の「都市農村交流」の先にある姿を目指すというものです。 |
ここまで、地理学の紹介から、地域多様性の重要性とその考え方を生かした持続可能な地域づくり、そして学生によるフィールドワークについて説明をしてきましたが、ここでまとめをしたいと思います。 |
最後に私の夢を語らせていただくと、まずは単著で「地域多様性という発想」を出版して、研究の成果を広く公表していきたいと願っています。そして今後、地域多様性×○○(ジオ、生物多様性、食料・エネルギー、教育・学習、幸福・平和)といった様々な形で成果をまとめて見たいと思います。それが、名前に「大地=ジオ(Geo)」とついている、私の使命でありライフワークだと考えています。 |
以 上 |