「未来の自分への約束」 | |
特定非営利活動法人しゃらく 代表理事 兼 事務局長 小 倉 譲 |
神鋼環境ソリューション労働組合 (エコユニオン)とのかかわり |
みなさんこんばんは。特定非営利活動法人(NPO法人)「しゃらく」の代表理事 兼 事務局長の小倉と申します。今晩そして明日の昼まで、みなさんと一緒に研修を行っていきますので、どうかよろしくお願いします。 |
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というわけで、活動の立ち上げの時期に受けた恩義を忘れずに、相談事があれば何をおいても駆けつけ、知恵を絞ることでその恩返しをしています。これまでも、定年退職間際の方だけでなく、OBの方、ユニオンの役員の方を対象にした研修など、様々な形で協力をしてきた経緯があり、今回は、大野委員長から「ゼロからNPOを立ち上げ、社会貢献に命を捧げる、小倉譲の波乱万丈で壮絶な生き様」について、若い方を対象に熱く語ってほしいと依頼を受け、この場に立っているというわけです。 |
特定非営利活動(NPO)法人 「しゃらく」とは |
それでは、私たちしゃらくの活動の組織と活動を簡単に紹介させていただきます。図に示す通り、常勤スタッフが12名、パートスタッフが2名、医師や看護師やヘルパーといった専門職の登録スタッフが40名、ボランティアが30名で事業活動を行っています。 |
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そして、具体的な活動を展開していくうえでベースとなる考え方というか、法人の存在意義や事業を行うための使命をミッションとして、次のように定義しています。 |
「しゃらく旅倶楽部」事業の紹介 |
ここで、少し「しゃらく旅倶楽部」についてご紹介したいと思います。私たちが提供している旅行は他の旅行会社と何が違うのかというと、要介護や要支援の方、身体に障害のある方、病を患っている方に対し、介護付きの旅行を提案しているというものです。 |
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私たちは、日帰りから宿泊までの様々なケースで、既に700件もの要介護者の方の旅行をサポートさせていただきました。重篤なケースでは、ヘルパーだけでなく、医師や看護師が同行することもありましたが、おかげさまで旅行中に大きな事故にあうことには至っていません。勿論、旅行後に亡くなる方もおられますし、旅行前に亡くなった方もおられますが、旅行に出発し戻ってこられた方々は、全員が満足し元気になってくれます。体力的に無理をしていても、病院のベッドの上で過ごす日々と比べて、刺激と精神的な充実を得ることができるからです。こうした経験から、私たちは「旅は最高のリハビリ」だと考えています。それも、心のリハビリです。そしてこの心のリハビリが、また旅に出たいという希望になり、身体のリハビリに励むことにつながっています。 |
この、1泊2日の富山旅行の費用が約70万円でした。これはかなり高いケースですが、最も安い日帰りのケースでも10万円程度、1泊2日の標準ケースなら30万円程度、一番高かった例では160万円という旅行もありました。これを高いと感じるか、安いと感じるか、人それぞれだと思います。元気なみなさんなら、きっと高いと感じるでしょう。しかし、介護を必要としているお客さんやそのご家族にとっては、暴利ではなく必要な経費の積み上げで算出された、それだけの費用を払っても叶えたい最後の要望があるということです。亡くなった後に、豪華なお葬式でお金を使うよりも、最後の思い出を本人や家族と共に作るということに、価値を見出す方も多いのではないでしょうか? それは、しゃらく旅倶楽部のリピーター率が、約80%もあるということでもわかると思います。旅の後に亡くなっている方もおられるので、実際の比率はもっと高いかもしれません。 |
衝撃を受けた祖父との体験が 「旅はリハビリ」の原点 |
また、今回ご紹介したケースとは別のお客様で、同じように「小学校時代の友人に会いたい」との依頼で、その友人を探したのですが、その方は2年前に他界されていた為、目的をお墓参りとしたことがありました。その際に、その方の娘さんとお孫さんに会えたのですが、娘さんから、「いつまで生きたという長さではなく、最後に何を望んでいるのか、そしてそれをどれだけ叶えてあげられるのかで、幸せな気持ちで人生を終えることができると思います。もう少し早く、小倉さんたちの存在を知っていれば、亡くなる前に反対に昔の友達に会いにいけたかもしれず残念です。」と言われていたことが印象的でした。 |
NPO法人しゃらくの最終目的 |
私たちが、このしゃらく旅倶楽部事業で目指していることは、「仕組み」を作り、「波及効果」を生み出すことだと考えています。私たちは年間180人程度のお客さんに対応しており、言い換えると年間180人の方しか幸せにすることができていません。しかし、私たちの蓄積したノウハウを旅行会社や介護施設に伝えることにより、その幸せの数は増えることになります。例えば、5年先までに10団体にノウハウを提供したとすると、180人の10倍の1,800人の方を幸せにすることができるはずです。 |
非営利活動(NPO)とは |
非営利活動いわゆるNPOと聞くと、みなさんはどのような団体でどのような活動を行っていると思いますか? ボランティアをやっている団体、年末のテント村の支援をやっている団体…何となく無償奉仕をやっている団体というイメージがありませんか? |
(特定非営利活動法人の17分野) |
1 | 保険、医療または福祉の増進を図る活動 (高齢者・障害者支援、医療に関する普及・啓発、ホームレスの生活支援等) |
2 | 社会教育の推進を図る活動 (生涯学習の推進等) |
3 | まちづくりの推進を図る活動 (村おこし地域おこし、地域産業の活性化、コミュニティ作り等) |
4 | 学術、文化、芸術またはスポーツの振興を図る活動 (伝統文化の振興、芸術活動の支援、スポーツの普及・啓発等) |
5 | 環境の保全を図る活動 (河川の浄化推進、リサイクル運動の推進、野生動植物の支援等) |
6 | 災害救援活動 (災害の予防活動・調査・研究、災害被害者への支援等) |
7 | 地域安全活動 (地域犯罪・事故の防止、火災や風水害安全対策等) |
8 | 人権の擁護または平和の推進を図る活動 (差別に対する活動、家庭内暴力からの保護等) |
9 | 国際協力の活動 (国際交流、難民救済、海外での教育支援、留学生支援等) |
10 | 男女共同参画社会の形成の促進を図る活動 (性差別への反対運動、女性の自立支援等) |
11 | 子どもの健全育成を図る活動 (地域の子育て支援、学童保育、フリースクールの運営等) |
12 | 情報化社会の発展を図る活動 (インターネットなど新しい情報通信手段の普及・啓発等) |
13 | 科学技術の振興を図る活動 (科学技術の普及・啓発等) |
14 | 経済活動の活性化を図る活動 (起業活動、ベンチャー企業の支援等) |
15 | 職業能力の開発又は雇用機会の拡充を支援する活動 (障害者やホームレスに対する職業訓練・就職支援等) |
16 | 消費者の保護を図る活動 (消費者に対する商品の情報提供、商品知識の普及・啓発等) |
17 | 前各号に掲げる活動を行う団体の運営または活動に関する連絡、助言または援助の活動 (市民活動の支援、市民団体や企業・自治体への情報提供等) |
神戸はNPO法人の聖地 |
現在日本全国には40,000団体のNPO法人があり、その内1,600団体が兵庫県にあると言われています。NPO活動のことを定めるNPO法は議員立法により法制化されたのですが、そのきっかけは16年前の阪神淡路大震災なのです。震災の時には、地域も行政も混乱し、行政が対応できないような問題が山積されていたのですが、その問題に取り組む組織が必要となり、必然的に市民が市民を助ける団体が立ち上がってきました。その団体の多くが震災後も活動を続けてきたことから、その活動を支援し他の公益法人とのすみ分けを行って整理するために法制化されたのです。ということで、兵庫県にはNPO法人が数多くあり、特に「神戸はNPO法人の聖地」と呼ばれているのです。 |
(NPO法第2条第1項) |
先ほど、兵庫県に1,600のNPO法人があると紹介しましたが、その中で、スタッフにちゃんと給料を支払っている団体は50団体ほどだと思います。それも月給16万円程度で、ほとんどの団体がスタッフにきちんと給料を支払うことができていません。それは、多くのNPO団体が行政からの委託事業で成り立っており、行政の予算には人件費が計上されていないことから、スタッフは手弁当の無償状態になってしまうのです。 |
2日目 講義の風景 |
なぜNPO活動に携わることに なったのか〜自分史から振り返る〜 |
ここからは、私がなぜNPO活動に携わるようになったのか、後ほどみなさん方にもワークの時間でやっていただく、自分史を使って振り返ってみたいと思います。自分史とは、横軸にこれまで生きてきた年齢、縦軸にその時における感情の度合いの高低を記しグラフ状にまとめたものです。詳しくは、これからポイントごとに説明していきますが、その前に私のミッション(使命)を紹介します。 |
小倉謙のミッション | |
・ | 社会の矛盾をなくしたい |
・ | 社会の見えない「弱いものイジメ」をなくしたい |
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・ | 市民が市民を見捨てない社会、一人ひとりの個性やライフタイル、働き方を認め合える社会へ |
このような社会を実現するために、私は様々な活動に取り組んでいるのですが、それでは、なぜこのような考えを持つようになったのか、自分史を使って振り返ってみたいと思います。 |
荒れていた学生時代と 何かが変わった大震災 |
私は3人兄弟の3男坊として神戸市に生まれ、長男がグレていた影響で、問題児の弟が入学してきたと、中学に入学したとたん先生に目を付けられ、何かにつけて色メガネで見られ、先生からイジメられたことがきっかけで、私自身も本当にグレてしまいました。ひどい時は、教室の後ろにある掃除用具入れに閉じこめられたこともあり、それ以来狭いところが苦手になりました。そんな私が、青春の道を踏み外すきっかけとなった長男は、今は立派な大学の先生ですが、当時の私にとっては全く迷惑な話です。 |
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このままではダメだ、その友達のために何かしたいと震災復興支援のボランティアに参加し、三宮の東遊園のステージでスタッフとして汗を流していた時に、今まで自分が知っている電車で見る疲れたサラリーマンや自分のことを認めてくれない学校の先生達とは違い、自分を色メガネで見ることもなく、しっかり叱ってくれちゃんと面倒を見てくる大人達と出会いました。ここで、初めて格好いいと思える大人に出会えたことで、それまでろくに行ってなかった高校にも、ちゃんと通うようになったのです。 |
中国留学(起業と挫折、そして復活) |
高校を卒業後、日本に居ては何をやっても色メガネで見られてしまうことに嫌気がさし、海外で自分のやりたいことを見つけようと思い立ち、中国語もできないままに、上海の語学学校に単身留学をすることにしました。ところが、全く言葉ができないことで、その語学学校も3日で辞めてしまいました。 |
雲南省での少数民族との交流 |
雲南省では松茸のシーズンである6月〜12月を除き、少数民族の村を訪ねてはホームステイさせてもらいながら、村の住民と交流を続けていました。町から村へと続く道を進み、村に入る前の儀式として、身を清める意味で、大きなお椀に注がれたお酒を飲むようになっていましたが、当然自分たちで作っているどぶろくのような酒なので、小さな虫は浮いているし、衛生的には万全という訳にはいきません。しかしながら、村に入る儀式なので頑張って飲み干し、ようやく村に入れてもらえることができました。 |
入院を通じて「見えない不平等」の 存在を強く意識 |
日本に帰って必死のパッチで勉強し、一生の半分ぐらいの運も使い果たして、何とか立命館アジア太平洋大学に合格することができました。 |
安定した企業の収入を捨て、 4人の同志とNPOを設立 |
大学卒業後は、障害者向けの服を作りたいという思いで、アパレル関係の会社に就職しました。起業と挫折も経験し、それなりに社会のこともわかっていたことから、仕事の方は順調で、新人ながら大きな仕事を任されてそれなりに成果を出すことができました。 |
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ライフスタイルの変化と 人口構造の変化 |
ライフスタイルの変化と 自身の八つの役割 |
人は生まれた時から役割を担い、成長と共にバランスが変化していきますが、その役割は大別すると八つに分けられます。まずは、生まれてすぐに持つ役割として【@息子・娘】があります。次に成長し、学業に励む為【A学生】という役割が出てきます。学生でありながらアルバイト等の社会経験や、また就職という転機から【B職業人】となり、いずれ結婚をして【C配偶者】、並びに家事を行う【Dホームメーカー】、子供が生まれ【E親】となり、成長をするにつれて役割は増えてきます。この他、【F余暇を楽しむ】、また【G市民】といった役割も存在します。 |
日本の置かれた状況と これからの日本の姿 |
次に人口構造の変化から10年先にどういう変化があり、どういうふうに社会変化として現れるか予測し考えていきたいと思います。 |
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この表は、2000年度を基準に、10年後である現在(2010年度)までの人口の推移と、さらに10年後の2020年度における人口推移の予想を、総人口、生産人口、高齢者人口などの視点で分析したものです。これを見てもわかる通り、総人口は減少していきます。それに伴って生産人口も減少していきます。これは、ものを作る世代の人口が減っていくわけで、同じ量の仕事を少ない人数でこなさないといけなくなるわけであり、加えて一番購買能力があり消費していく世代が減っていくということと同じ意味でもあります。ということは、国内の状況だけ見れば、日本の経済は間違いなく縮小していくということを表しており、支える必要のある高齢者の数は、反対にドンドンと増加していきます。 |
現時点で考えられる問題点 | |
少子高齢化社会により | |
・ | 地域の担い手(自治会等)が不足し機能を失う |
・ | 独居死や孤独死の増加 |
・ | 生産人口が減ることにより、働き方を大幅に見直す必要がある |
・ | 生保・介護保険・年金財源の不足 |
・ | 小規模集落の増加(50戸以下で高齢化率が40%以上の地区が兵庫県で200カ所) |
・ | 地域医療の限界 |
人口減により | |
・ | 人口減により経済減に、モノを買わない社会に |
・ | 税収の落ち込み、行政による既存施設やサービスの見直し |
・ | 日本のマーケットに見切りを付けた日本企業が海外移転 |
・ | 多様化を認めあい、グローバル化に対応する必要がある |
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今、若い人は何をすべきか? |
そこで、ここに参加されているみなさんのような若い人が今、いったい何をするべきなのでしょうか? その答えを、私からみなさんに示すことはできません。なぜなら、その答えはみなさん方の一人ひとりで違うものであり、そのきっかけをつかんでもらい、考えてもらうために今回の研修があるからです。 |
2年後の自分への手紙に悪戦苦闘!? |
今回のまとめ 発表風景 |
もちろん、将来の自分の姿を考える上では、自身の生き方やそばにいる家族、そして人生の計画などが密接に関わってきます。独身の方は、結婚して子どもができると配偶者や子どもに自分の時間を配分することが多くなるでしょうし、その反面に仕事の部分で後輩や部下ができ、仕事上での責任の度合いも重くなることで、仕事の部分のウエイトも増えていくでしょう。 |
以 上 |
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講師プロフィール 小倉 譲(おぐら ゆずる)紹介/特定非営利活動法人しゃらく理事長 兼 事務局長 |