最新のモンゴル事情と蒙日関係
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駐日モンゴル国特命全権大使  R.ジグジッド 


は じ め に

 みなさんこんにちは。ご紹介に預かりました駐日モンゴル国特命全権大使のジグジッドです。
 本日はモンゴルを紹介する文化イベントにお招き頂き、心から感謝申し上げます。モンゴルの最新事情とモンゴルと日本の関係についてお話をさせて頂ける機会を与えてくださった主催者のみなさま方に心からお礼を申し上げます。
 私の用意させて頂いた講演は2部から構成されています。最初の1部はモンゴルの最新事情について、そして2部はモンゴルと日本の関係についてみなさんにお話をさせて頂きます。時間の関係上、駆け足でお話をさせて頂きますので分からないことがあると思いますが、講演終了後にご質問およびご意見を頂ければ幸いです。


1.モンゴルの最新事情

【モンゴル国の立地条件】
 それでは本題に入ります。みなさんの中で、モンゴルに行かれた方も行かれていない方もおられると思いますので、まずはモンゴルの地理についてお話をさせて頂きます。
 ご承知の通り、モンゴルは北東アジアに位置しており、北はロシアそして南は中国に挟まれた国であり、面積は日本の約4倍の150万平方km、人口は270万人で海に出口を持たない内陸の仏教国です。おそらく人口密度は世界中でも最も低く1平方km当たり1.7人です。人口の約4割がウランバートルという首都に集中しています。したがって地方の人口密度はより低くなります。国境は、モンゴルと中国の間に4,677km、モンゴルとロシアの間に3,543km接しています。モンゴルは非常に若い国であります。民主化され、新モンゴルとなって約20年であり、全人口のおおよそ7割が35歳以下の若い国です。モンゴルと日本との間には直行便が飛んでおり、ウランバートル―成田間は週3便、また7月、8月には関空から週2便が飛んでいます。飛行時間は約4時間程でモンゴルと日本は非常に近くなりました。
 日本のみなさんはモンゴルというと、チンギスハーンやゴビ砂漠そして草原といったイメージが強いと思いますが、モンゴルには湖や森林もあり、非常に自然豊かな国です。また、モンゴルにも四季が存在します。海抜高度が1,300m以上と高く、日本と違って非常に乾燥しており、典型的な内陸性の気候を持つ国です。したがって、夏と冬の気温差が50℃〜60℃あり、1日の気温差も10℃〜15℃くらいあります。

【モンゴルの政治的情勢】
 次にモンゴルの政治情勢について話を進めていきます。最近の大きな政治の動きと言いますと、一昨年に第5回目の国家大会議の総選挙がありました。その結果、人民革命党が46議席、民主党が27議席、国民勇気党が1議席、新運動党が1議席、無所属が1議席となっています。全76議席のうち人民革命党が単独で過半数を獲得しており、単独で政権を成立することが出来ますが、民主党との大連立政権を選びました。現在のモンゴル政府は人民革命党と民主党からなる大連立となっており、両党からの閣僚数は、人民革命党から9名、そして民主党から6名となっています。大連立を組んだ主な理由はモンゴルが直面している様々な大きな問題の解決をスムーズに行うためであると言われています。鉱物資源の開発などによってモンゴルの経済を発展させていこうとするものであり、それを素早く実施するためにこのような大連立の構成となっています。連立政府ではこの4年間で5つの行動計画を掲げています。


 次に昨年の大統領選挙ですが、人民革命党からの立候補者と民主党からの立候補者の2人が争って、51対47という結果で民主党から推薦された候補者が大統領に選ばれ、新大統領が誕生しました。その新大統領は、47歳で1990年の民主化運動のリーダーの一人であり、首相の経験をしている著名な政治家であります。新大統領は5つの選挙公約をもって、国民に分かりやすく選挙運動を展開しました。みなさんは環境問題に熱心に取り組んでおられる方が多いと思いますが、この環境問題は一大課題になっていまして、経済性があっても環境を壊してしまう活動であっては認めないという厳しい姿勢をとっています。

【経済成長】
 次にモンゴルの経済について話を進めていきます。我が国は1992年5月以降IMFの構造調整融資を受け入れ、小さな政府を目指した行政改革、財政支出の大幅削減や金融引き締め等の措置を実施しました。その後、モンゴルの経済は徐々に回復し、1995年から2002年の成長率は、年平均2.7%になりました。特に、2004年については、実質GDP成長率は10.6%となり、1990年の改革後初めて2桁数字に達しました。
 その後、2008年に世界中に発した金融危機の影響を受け、モンゴルの実質経済成長率は8.9%に留まり、昨年はやっと1.4%と、プラスを辛うじてキープしました。
 実質成長率が極端に低下したのは、工業分野全般の低下による要因が大きく、生産高は3四半期連続で8.3−10.5%低下していました。その中で鉱業部門の占める割合が高く、特に、銅・金・蛍石・亜鉛の発掘は低迷していました。その他の関連製造業も3期連続低下しました。しかし、農業・第三次産業であるサービス業・運輸業・通信部門に関しては一定の成長が見られており、これは第三期農地改革や経済危機時の弱者救済政策等が効いたと考えられています。
 2010年度の経済成長率はプラス3.2%と予測され、農業、工業、サービス業それぞれ成長すると見込まれています。

【GDPおよび産業経済】
 2008年にGDPはドルベースで52億ドルとなり、改革後最も高い数値になりましたが、昨年は低下して43億ドルになりました。しかし、これは為替レートが影響したもので、モンゴル通貨で換算すると一人当たりのGDPはほぼ同じ値がでています。
 ここでモンゴル経済の産業構造は、GDPの43%を第三次産業に頼り、モンゴルの伝統的な産業分野の一つである農牧畜業は19%で、工業分野は38%を占めています。

【貿  易】
 次に貿易ですが、我が国の2009年度の貿易総額は35億ドルになりましたが、その内訳は輸出額が16億ドル、輸入額が19億ドルとなり、貿易収支は3億ドルの赤字となっています。前年度(2008年度)と比較すると貿易総額は42%減少したことになり、輸出が34%、輸入が48%それぞれ減っています。その主な原因は、政界中を巻き込んだ経済危機ですが、それに関連し我が国からの鉱物資源の輸出が減り、また資源の相場が下落したことであります。例えば、金の輸出が1億7千万ドル、その他の鉱物の輸出が4億3千万ドルでそれぞれ減少しました。
 次に輸出入品目ですが、ご承知の通り、モンゴルは資源の国ですので、様々な種類の鉱物資源が主な輸出を占めています。その他モンゴルは4,800万頭もの多くの家畜を持った国であり、その家畜から得られる様々な原材料を加工した製品の輸出は鉱物資源と並ぶ輸出品目の柱の一つであります。それから外国からは石油製品、機械設備、自動車、建築素材や日常雑貨といったものを輸入しています。


【外国投資】
  我が国の開発と発展にとって諸外国からの投資が大きく貢献すると考えております。そのために政府はより良い投資環境を整備するために常に努力を重ねて参りました。1997年に国際貿易機構WTOに加盟し、現在34カ国と2重課税防止条約を、41カ国と投資保護協定をそれぞれ締結しています。国内には、1993年に外国投資法ができ、その後2回に渡ってその法律が改正されました。2005年からヨーロッパ連合EUの市場において我が国で生産された7,200品目の製品に対して特恵関税条件が適用される様になりました。
 我が国への投資分野は、カジノ、麻薬、武器製造、ポルノ報告などを除き、全ての製造業やサービス分野への投資を歓迎する政策をとっています。投資対象領域は基本的に国土全体ですが、特に次の3カ所を特別区域として定め、外国からの投資を受けやすいより良い環境を作っています。その特別区域とは、ZAMYN-UUD経済特別区域、ALTANBULAG貿易特別区域、TSAGAAN・NUUR貿易特別区域であり、この3区域では、より積極的に外国からの投資を受け入れたいと法整備がされている区域であります。ZAMYN-UUD経済特別区域は中国とモンゴルの国境沿いの町であり、ALTANBULAG貿易特別区域はロシアとモンゴルの国境沿いの町であり、モンゴルの北と南の玄関口の町であります。
 次に外国からの投資をこの20年間で見てみますと、1990年から2009年までに我が国に101カ国から37億ドル相当の投資が行われました。それを国別で見てみますと、中国からの投資が圧倒的多く全体の約6割を占めています。そしてカナダ、韓国、米国、日本、ロシア、英国という順になっています。中国からの投資はあらゆる分野におよびますが、カナダからの投資はほとんどが鉱物資源への投資となっています。外国からの投資を分野別で見てみますと、鉱物資源への投資が圧倒的に多く6割以上を占めています。次に商業、飲食店そして金融、軽工業、運輸、通信という順になっています。

【資源の輸出手段】
 モンゴルの国は先ほどもお話ししましたが資源の国であり、最近は資源の開発が非常に注目を浴びており、特に南ゴビといって中国との国境に近い地域が注目を浴びています。この地域では非常に有望な鉱床が発掘されています。したがって、このような鉱物資源を開発、加工し、そしてどのような手段とルートで運搬するのか課題となっており、運搬手段の一つである鉄道の強化が非常に重要となっています。現在、我が国では鉄道網の充実を図るため、現在ある鉄道を活用して鉄道を広げていくのか、まったく新しいルートに鉄道をつくっていくのかモンゴル国内で議論されており、近い将来、方向性が明確になると思います。その他、道路も重要な役割を担っており、ユーラシア大陸のヨーロッパを除く、ほぼ全域にまたがるアジアンハイウェイのプロジェクトが1959年から開始され、現在では32カ国が加盟し、14万kmの道路が完成しています。そのアジアンハイウェイの3つの道路がモンゴルを通ることになっており、東西を通る32号線と南北を通る3号線がいずれ完成されます。このアジアンハイウェイが繋がれば、北東アジアの道路が整備されていくと期待しています。

【モンゴルの外交に関する情報】
  我が国の外交に関する情報では、1961年に国際連合に加盟し、現在では147カ国と外交関係を樹立しています。そして、政府間加盟国際機関が54機関、多国間との加盟条約は190条約、二国間加盟条約は3000条約となっています。31カ国に在外国モンゴル国大使館を持ち、また我が国に24カ国の在モンゴル外国大使館を開設しています。
  それではモンゴルの最新事情については話を終わり、続いてモンゴルと日本の関係についてお話しさせて頂きます。



2.モンゴルと日本の関係

【モンゴルと日本の比較】
 それではここでモンゴルと日本の比較をしてみたいと思います。まず初めに、文化を取りあげてみますと、我が国は遊牧の文化を持っており、日本は農耕、定住の文化を持っています。そして国土の大きさ、地形、人口は対照的であります。市場経済化(近代化)を歩んだ年数にも違いがあり、モンゴルは約20年、日本は約140年となっています。そして発展状態ではモンゴルは発展途上であり、日本は先進であります。
 政治体制を比較すると、モンゴルの国家元首は大統領で最高立法機関は国会大会議、構成は1院制、議員数は76名であり、内閣政府の閣僚数は15名となっています。一方、日本の国会元首は天皇であり、最高立法機関は国会、構成は2院制、議員数は250名/480名であり、内閣政府の閣僚数は18名となっています。

【現代モンゴルと日本関係の流れ】 
 モンゴルと日本は1972年に外交関係を樹立し、1990年まで両国関係は正常に推移してきました。モンゴル国が1990年代初めに、民主化へ移行することによって、モンゴルと日本の関係は転換期を迎え、新時代が開かれました。海部俊樹日本国総理大臣が1991年に我が国を初めて訪問され、モンゴルの民主化・改革を二国間関係の枠組みと国際場裡において支持し援助する政策を発表し、一貫して実施してきました。モンゴル国も日本との交流協力を拡大発展させる目標を対外政策の最優先方針の一つとし、政府の行動計画に都度反映して、実施してきました。
 両政府は、1996年に両国の外交目標として「総合的パートナーシップ」を構築することを掲げ、モンゴル国大統領が1998年に訪日した際に発表された「モンゴルと日本の友好協力についての共同声明」には、両国関係を総合的パートナーシップのレベルに発展させる原則が宣言されました。
 2006年は、「大モンゴル建国800周年」を「日本におけるモンゴル年」として祝い、両国の総理大臣が相互に訪問し、「総合的パートナーシップ」を今後10年間に新たな段階に発展させることで合意しました。またその年に、現職閣僚を含む80数名の日本の国会議員が我が国を訪問しましたが、これは国際関係において稀な出来事であり、両国の相互信頼と協力関係が密になってきた証拠であると思います。
 2007年は、両国は外交関係樹立35周年を迎え、「モンゴルにおける日本年」をモンゴル政府が開催し、幅広く記念事業が実施されました。ナムバリーン・エンフバヤルモンゴル国大統領の訪日の際に、モンゴルと日本の新段階のパートナーシップを強調すべく「今後10年間のモンゴル日本基本行動計画」が締結されました。今はこの基本行動計画に取り組んでいくことが我が国の役目であり、日本とモンゴルの関係の発展に向け取り組んでいます。

【基本行動計画】 
 基本行動計画は次の4つの柱からなっています。
1.高いレベルの政治的関係を維持、相互理解及び相互信頼の強化を図る。
2.国際場裡における相互支援及び協力の強化を図る。
3.貿易・投資等の経済関係を拡充し、互恵関係の構築を目指す。
4.教育、文化及び人道面における協力の拡大を図る。
 その中で我が国が最も力を入れている部分は、3番目の貿易・投資等の経済関係を拡充し、互恵関係の構築を目指すということであります。現在のモンゴルと日本の関係において、政府間の関係は非常に順調に展開されていますが、民間の交流、特に経済的な交流をさらに活性化させていきたいと考えています。したがって官・民から構成される合同協議会を立ち上げ、3回に渡って会議を重ねてきました。この協議会は、日本の民間にモンゴルへの投資意欲を向上させること、相互理解を深めることを目的としています。


【ODA】
 モンゴルと日本の関係において、非常に大切なものは、日本政府からの政府開発援助です。1977年に我が政府は初めて日本からODAを受けました。ODAは大きく3つの仕組みから成り立っています。有償資金協力、無償資金協力そして技術協力です。日本政府からこれまで30年間で受けたODAを見てみますと、無償資金協力が全体の約46%、有償資金協力が38%、そして技術協力が16%となっており、総額は1,804億円のODAを日本政府から受けております。
 詳細を見てみますと、1977年に日本からの無償資金協力によって、カシミヤ及びラクダの毛を原料とする一貫工場「ゴビ」がウランバートル市にて建設されたのが、我が国におけるODAの始まりです。当時は御承知の通り、モンゴルも日本も東西冷戦の最中であり、現在と比較をして関係は薄い状態でした。そのため1990年までは日本からのODAはほとんどありませんでしたが、海部総理が1991年に西側の総理大臣として初めてモンゴルを訪問され、モンゴル民主化市場経済化を支持すること、そして二国間だけでなく国際間においてモンゴルを支援していこうと国際社会に向けて発信をし、1991年から11年間、毎年モンゴル支援国際会議を日本政府そして世界銀行共同議長のもと開催して頂きました。そのおかげで、1990年から民主化が始まって以来の経済、財政危機や社会的な混乱を克服することが出来たと思っています。この間の日本政府から提供して頂いたODAは、総額で年間約1億ドルとなっています。また2007年には多額のODAを提供して頂いていますが、これは新空港の支援に関するものです。ウランバートルから約50km離れた地域に現在、新空港を建設しており、予定通り建設されると2015年に完成予定となっています。この空港は将来的にハブ空港として栄え、それから空港周辺の都市を発展させることによってウランバートルの一極集中は緩和されるという期待をしています。

【モンゴルと日本間の貿易】
 今までは日本政府とモンゴル政府の政府間の経済協力のお話をさせて頂きましたが、これから私たちが最も力を入れていかなければならない分野は民間ベースの経済交流、日本からの投資そして両国間の貿易の拡大をどのように推進していけば良いかということです。我が国の貿易は残念ながら赤字貿易が続いており、モンゴルから日本への輸出が伸び悩んでいる状況です。これまでもお互いの貿易を拡大させるために話をしてきましたが、なかなか実現には至っていません。その理由として、モンゴルでは産業・工業基盤がそれほど整っておらず、質の高い製品を作ることができないからであると考えています。したがって日本からものづくりの技術、そして中小企業の育成支援をお願いしています。これは政府間の連携ではなく、日本の中小企業など民間企業との交流、連携を強くする必要があると思います。

【日本からの投資】
 続いて、日本からの投資について簡単に申し上げると、この20年間で投資は順調に伸びています。昨年の9月現在で日本から413社がモンゴルに進出しており、総額1億3千万ドルの直接投資が行われています。また、413社のうち上位10社で全体投資額の7割を占めています。これからはさらに鉱山、電力、エネルギーそしてインフラなどの大型投資をして頂けるように話を進めています。

【国際場裡における協力】
 両国は、国際社会の平和と安全保障を強化し、国と国民相互間の協力を発展させるため、国際連合、その関連機関及びその他の国際機関において協力し、相互に支援してきました。2001年から2008年の間における国際場裡での協力について実績を見てみたいと思います。例えば、日本国はアジア太平洋地域の多国間協力の枠組みに参加したいとする我が国の関心と希望を理解し、1998年にASEAN地域フォーラム(ARF)への参加、2004年にアジア協力対話(ACD)への加盟、2006年にアジア欧州会合(ASEM)、2010年に東アジア・中南米協力フォーラム(REALAC)への参加をそれぞれ支持して頂きました。一方、我が国は国際連合の活動において日本国が果たしてきた貢献を評価し、日本国が国際連合安全保障理事会の常任理事国となるための努力を1992年から一貫して支持してきました。今後もこの立場は変わりません。



ま  と  め

 以上で私の講演は終わりますが、最後に講演のまとめをしたいと思います。
 まずモンゴル国は、1990年から始まった市場経済化への移行期を克服し、今後の安定的発展の基礎作りへ取りかかる時期にたどり着きました。この時期へたどり着くまでには、日本国政府を初め国際社会の支援・協力が非常に大きな役割を果たして頂きました。
 次にモンゴルと日本の二国間関係について申し上げますと、これからは両国における現在の政府間の良好な関係を維持しつつ民間セクター間の経済交流の拡大へ一層力を入れていくことが重要になってくると考えます。その民間セクター間の経済交流とは日本からモンゴルへの投資の拡大と両国の貿易の拡大を意味しています。この目標を達成するには相互理解を深める必要があり、そのためには両側の人的交流が大事であります。モンゴルから日本への留学生・技能研修生を出来るだけ増やし、他方、日本からモンゴルへのビジネス視察団を多く派遣することが重要です。
 また政府側としては経済交流に関わる法律の整備を行うことを役目としています。両国間で経済協力を結んでおりますが、これから二重課税防止条約、動植物の検疫関する協定、環境分野における協力に関する協定、科学技術分野における協力に関する協定、観光分野における協力に関する協定、経済連携協定などを締結する必要があります。
 最近の話では2日前に、モンゴル政府は日本人がモンゴルへ渡航する場合、30日以内であればビザが不要であるとの閣議決定がなされました。
 これで私の話を終わらせて頂きます。ご清聴ありがとうございました。



ジグジッド大使への質問および回答

(質問@)
 貴重な講演ありがとうございました。先ほどの話の中で民間レベルでの交流が大切であり、そのためには人的交流が必要であると言われましたが、私たち神鋼環境ソリューション労働組合としてモンゴルの子どもたちに図書贈呈という形で微力ながらモンゴルの人たちと交流をさせて頂いております。日本では現在、子どもの教育について様々な課題に直面していますが、モンゴルでは子どもの教育をどのように考えているのか大使のお考えをお聞かせください。
(回答@)
 まずモンゴルの教育制度について少しお話をさせて頂きます。1921年から1990年までの約70年間、我が国は社会主義国として歩んできました。その時の教育システムは旧ソ連型のシステムであり、7歳から4年間小学校に入り、続いて4年間中学校に入り、最後に2年間高等学校へ入学するというシステムになっています。それで、10年間の教育を経て大学を入学する資格を得られます。大学は、医科系の大学は6年、理科系が5年、人文系が4年制であります。すべて国立の学校であり授業料は一切なく、逆に奨学金がもらえる制度であります。社会主義体制のもとで義務教育が8年、当時の就学率はおよそ99%であり教育熱心な土台が出来上がっていました。90年から民主化に移行し民営化が進み、私立の学校が設立されてきました。資本主義経済の体制を現在でも確立していない中で、社会主義体制のもとで教育制度をどのようにして現在に適したものに修正していくかということが課題であり、徐々に教育制度改革を進めているところであります。
 日本の場合は小・中・高と12年間の教育を受けていないと大学に入る資格が得られないので、これまでモンゴルで小・中・高と10年間の教育を受けても日本へ留学することが出来ず、さらに2年間の教育を必要とされてきましたが、昨年から日本と全く同じ小学校から高校まで12年間の教育制度となり、今年からモンゴルで高等学校を卒業したものは、そのまま日本の大学に留学することができるようになりました。モンゴルでは両親が子どもに対して教育に関心を持っており、非常に教育熱心な国民であると思います。このようにモンゴルでは日本と比較して遜色のない教育制度をもっています。ただし、モンゴルでも教育の問題を抱えており、頭の良い人を育てるのと心の良い人を育てるのは違いますので、これからは心の教育に力を入れる必要があると言われています。

(質問A)
 マンホールチルドレンや両親がいなくて学べない子どもたちに対する教育について国としてのお考えをお聞かせてください。また、資金不足で学校へ通えない子どもたちに対して福祉的な制度があるかあわせてお聞かせください。
(回答A)
 マンホールチルドレンやストリートチルドレンという問題は非常に話題になりましたが、この問題は大きな社会的問題になるほどひどい状況ではありません。政府はマンホールチルドレンに対して施設をつくり生活できる環境の整備を行っています。しかし、施設で住む子どもたちの中には自由を求め施設を飛び出し、マンホールチルドレンとしての生活に戻ろうとする子どもたちがいます。このマンホールチルドレンの問題を外国のマスコミは大きく取り上げ、社会的問題になっていることが多いのが実情です。もちろん民主化移行期当初の1990年頃はこのような問題がありましたが、今現在は、問題の解決が進んでいるため、あまり大きく取り上げると誤解を招いてしまう恐れがあると思います。
 また、資金不足で学校へ通えない子どもたちに対して国としては、日本と同様に子ども手当などを支給して支援しています。

(質問B)
 私たち神鋼環境ソリューションではごみ処理プラントや水処理プラントなど環境メニューを専門に取り組んでいますが、モンゴルで起こっている環境問題について大使のお考えをお聞かせください。
(回答B)
 モンゴルでは近年、環境破壊が進んでいます。砂漠化の問題では国土の3分の2が砂漠化の影響を受けています。また、鉱山の乱開発による環境被害の増加も危惧されます。モンゴルは家畜がたくさん飼育されていますが、家畜が増えることによって家畜の餌となる草原の荒廃も進んでいます。草原の荒廃については、モンゴル政府として、必要以上に家畜が増えすぎないように遊牧民のために市場を開いていく支援を実施しています。
(文責:角尾 隆)

講師プロフィール

 1959年ウランバートルに生まれ、モンゴル国立大学卒業後、日本の東京外国語大学、信州大学に留学されました。その後、外務省アジア・アフリカ地域局職員・参事官を経て、1996年から2000年にかけて駐日モンゴル国大使館の1等書記官・参事官を勤め、2004年から再び公使として駐日モンゴル国大使。2006年より、特命全権大使として現在に至っています。