第5期ビジョンづくり委員会
「環境活動を通じて私たちができる社会貢献を!」
第3ステージ

「Think globally Act locally」
いま労働組合に求められていることは
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(財)ひょうご環境創造協会 
環境創造部 主席研究員 関 谷 久 之


はじめに

 みなさんこんにちは。ご承知の通り私は昨年8月末にみなさんの組合の執行委員長を退任し、9月から(財)ひょうご環境創造協会に出向しています。
 委員長在職中から神鋼連合や加盟組合などでの環境セミナーで講師をさせていただきましたが、さすがに自分が代表者を務める組合で環境教育の講師をするわけにはいかず、本日が初めてのホームグラウンドでの出番となりました。
 おかげさまでこれまでの経験が生かされて、現在はCSR活動の一環として企業などが取り組む環境活動の支援や教育研修も担当し、みなさんが加盟している神鋼連合の「社会貢献活動調査研究会」のコンサルティングを協会の業務として依頼され、研究会での講義や調査視察の企画提案なども行っています。
 本日は限られた時間ではありますが、こうした研修会での講義のダイジェスト版として、環境問題の現状、労働組合に求められる役割などについてお話しさせていただきたいと思います。


「環境問題」とは何か

1.地球温暖化の現実について

 まず初めに、地球温暖化の影響がどのようになっているのかについての映像をご覧いただきたいと思います。
 このDVDは、「地球温暖化・今、私たちにできること」というタイトルで、環境省が環境学習用に制作したものです。


セクション02 地球温暖化は始まっている
・世界各地で氷が溶け始めている
・温暖化の影響ではないかと思われる異常気象
・暮らしへの影響
   @干ばつ A生態系の崩壊から食糧危機へ
・予測を超える現象の増加(南極・ラーセンBの大崩落)
上映時間 約20分

 4年前に私が神鋼連合での環境教育を始めた頃、研修の中で「デイ・アフター・トゥモロー」というSF映画を上映していました。この映画は温暖化が進むことにより急激に氷河期が訪れるという映画ですが、ご覧になった方は冒頭のシーンを覚えていますか。
 南極の棚氷、「ラーセンB」に巨大なクラックが入りボーリング調査をしていた主人公が、滑落しそうになるシーンです。先ほどみなさんに観ていただいた環境省制作のDVDでまさにそのラーセンB棚氷が大崩落している映像が映し出されていましたね。これはSF映画ではなく実際の映像です。ローランド・エメリッヒ監督がわずか5年前にフィクションとして描いたシーンが現実のものとして起こっているのです。
 南極や北極だけではなく、世界中で温暖化による気候変動が原因と考えられる現象が起こっています。また局地的な異常気象も頻発し、日本国内でも「観測史上初」と言われる高温や豪雨などが発生しています。
 今年の夏も、兵庫県佐用町で台風9号の影響による集中豪雨で多くの方が亡くなり、現在も行方不明者がいます。その数日後には沖縄の那覇市で、豪雨による急激な増水により5人の方が流されて亡くなっています。
 昨年の夏は神戸市や愛知県で同様の被害が発生しました。こうした局地的な異常気象がすべて「地球温暖化の影響である」と断定はできませんが、先ほどのDVDの中にあった、農作物などに甚大な影響を与えているオーストラリアの大干ばつを「これは『異常気象』ではなくオーストラリアの『新しい気候』なのだ」との学者のコメントは深い意味を持っていると思います。
 温暖化の影響による大規模な気候変動は既に始まっており、地球温暖化の影響は「加速」から「暴走」に変わったと言えるかも知れません。
 地球温暖化の影響から私たちの子孫を守るために残された時間は「あと10年」しかないという研究者もいます。
 温暖化の影響は、二酸化炭素などの温室効果ガスの排出が原因です。1年間で人間が化石燃料を燃やすことで大気中に出しているCO2は炭素換算で72億トンだといわれています。一方72億トンの排出に対して自然界で吸収できる量は、森林が9億トン、海が22億トンの計31億トンです。吸収できる量まで排出量を減らすためには60%削減が必要で、先進国では70%から90%もの削減が必要だといわれています。できるかできないかを議論するのではなく、「そのためにどうしたら良いのか」を考え実行することが求められています。
 ぜひこうした「地球温暖化の現実」をきちんと踏まえた上で、環境プラントメーカーで働く若者の集団として、「今、何をすべきか」を考えていただきたいと思います。

2.「地球環境」と「地域環境」

 産業革命以後、技術の発展や都市開発により、人々の生活は豊かになったが、人類は様々な環境問題にさらされています。
 では、「環境問題」とは何でしょうか。当協会顧問である小林悦夫氏は、ある雑誌に「地域環境と地球環境」と題した記事を発表しました。この中で小林氏は「今、巷で環境問題と言えば、地球環境問題と言っても言い過ぎではない。事実、近年になって、台風、集中豪雨、洪水など気候は著しい変化を見せている。この気候変動の原因が、地球温暖化によるものとして大きく取り上げられている。しかし、もう一点、見逃してはならないのが、地域環境問題である。人の健康にかかわる大気汚染、化学物質、そして食糧確保等に係る水問題が近年疎かになっているのではないかという点である。」と書いています。マスコミが取り上げる大規模な現象面だけではなく、環境問題を幅広く見なければならないということ。そして、それぞれにつながりがあるという、環境問題を考えるに際して重要な視点であると思います。
 「環境問題」といわれるものを、「地球環境」と「地域環境」で分類すると、次のようになると思います。

 地球環境 
地球温暖化、オゾン層の破壊、酸性雨、資源の枯渇、海洋汚染、人口爆発、水資源の枯渇、森林の減少、砂漠化、生物の絶滅、廃棄物の越境移動

 地域環境 
大気汚染、騒音、異臭、水質汚染、土壌汚染、ゴミ問題、地盤沈下、自然破壊


 「環境問題」はもちろんこれだけではありませんが、思いつくまま書き出して分類するとこのようになると思います。また「地球環境」と考えるとかつての公害問題とは異なり「環境」に対する主体の多様性、関係が深く複雑に入り交じっているといえます。かつての公害時代の加害者は「産業」で被害者は「国民」と単純明快な図式になっていました。しかし、現在の環境問題は人類すべてが加害者であり被害者。そしてもう一人の被害者は3世代4世代先の子孫であるといえます。ドイツの作家ミヒャエル・エンデは、環境破壊の問題を「時間の戦争」と呼びました。「領土を奪い合う戦争」ではなく、「私たちの子どもや子孫を破滅させる戦争」であると。
 また、環境ジャーナリストで「不都合な真実」の訳者である枝廣淳子氏は、当協会発行の「エコひょうご2008年冬号」で、「私たちの暮らし方、まちづくり、社会や経済のしくみが、100年後の気温を決めてしまうと言っても過言ではないでしょう。孫の世代に『大変だったと思うけど、よくやってくれたね。ありがとう。』と言ってもらえるのか、『なぜ、わかっていたのにやってくれなかったの? 私たちより大切で優先すべきものって、何だったの?』と問いただされることになるのか−その選択肢は私たち一人ひとりの手の中にあるのです。」と書いています。厳しい意見ですが肝に銘じることが必要だと思います。

○水の問題──────────────
 本日は、時間の関係で「環境問題」のすべてについてご説明できませんが、「水」と「食糧」の問題について、少しお話ししたいと思います。
 ところでみなさんは、「水がない生活」というのをイメージすることができますか。1992年の国連総会で「水」の確保と有効利用が人類にとって大きな課題であり国際社会が協力して取り組む必要があるということが決議されました。当時のアナン国連事務総長はその中で、「現在、世界中では11億人が安全な飲み水を利用できず、26億人が適切な衛生設備を利用できない。水関連の病気で死亡する人々は毎年500万人を超える。乳幼児では毎年200万人が命を落としている。2025年までに世界人口の3分の2が深刻な水不足を抱える国々で暮らす可能性が高い」という当時の現状をメッセージの中で伝えました。この国連総会が開催された3月22日は「国連水の日」として決議されています。


 現在、世界で50数カ国・地域が切迫した水不足に脅かされていると言われ、67億人の約3分の1が水不足問題に直面していると言われています。日本に住んでいる私たちにはちょっと想像ができにくいと思います。日本人は生活用水として1日1人が300リットル以上の水を使用していると言われています。そのうち生きていくために必要な飲料水はたったの2リットルです。なぜ世界で水不足の問題が発生しているのか。まず、そもそも地球上にある水の内、淡水はたったの0.3%です。淡水不足は地球温暖化による気候変動によって益々悪化しています。それは各地の雨の降り方が変化していることにあります。多雨地方ではさらに雨が多くなり、乾燥地帯ではさらに少なくなるという現象が起こっています。これに人口増、都市化、産業発展により水の消費が増える。世界の水消費量は100年で10倍になったとのデータもあります。
 なぜこれほど水の消費が増えたのか。「バーチャルウォーター」という言葉を知っていますか。小麦1キログラム生産するのに、約2トンの水が必要です。牛肉1キログラムは約20トンの水を使っています。牛を育てるためにはエサが必要です。このエサであるトウモロコシなど穀物の栽培には大量の水が必要ですね。日本が輸入している食糧をもし仮に国内で全て生産するとしたら年間627億トンの水が必要です。一方、日本国内で農業用として使う灌漑用水は年間約572億トンです。単純にいうと日本人は世界中が水不足で困っているのに、生活の中ではまさに「湯水のごとく使う」のように大量の水を使い、さらに海外の水の恵みを買いまくっているという状態にあります。ただこのことも隣国中国などの人口増と食生活の向上、小麦の輸出国であるオーストラリアの干ばつなどで、いつまでも「金さえ出せば何でも手に入る」では済まなくなります。

○食糧の問題─────────────
 次に食糧の問題について少し話をします。みなさんは日本の食料自給率がどれくらいかご存じでしょうか? カロリーベースで1960年に82%だったものが2007年ではたったの41%となっています。オーストラリア、カナダ、米国などは国土も広く農業も盛んなため100%を超えています。一方、ドイツ、英国、イタリア、韓国などが100%を切り輸入依存となっていますが、その中でも日本の自給率の低さはダントツです。とくにパン、麺類などの原料である小麦は14%、豆腐の原料である大豆がたったの6%、穀物は家畜の飼料の原料でもあるため、米以外の食糧は圧倒的な輸入依存となっています。これは、日本人の食の欧米化が、要因のひとつになっていると言われています。
 こうした中で、我が国の食糧問題はもう一つの深刻な問題を抱えています。それはゴミの問題です。全国の家庭から排出される「食べ残し」は年間456万トンだといわれています。これにスーパー、コンビニなどから賞味期限切れで捨てられるものを含めると年間700万トン、これをカロリーベースに換算すると食料供給量の35%以上に匹敵します。さらにこれを金額に換算すると11兆円にもなり、国内の農業・水産業の総生産額が12兆円であることから、我が国は国内で生産する食品をすべてゴミとして捨てて、海外から膨大な食料を輸入していると言えるかもしれません。これは「食糧危機」ではなく、日本人の「食意識の危機」であると言えます。また、先ほども話しましたが、これはあくまでも「お金さえ出せば何でも買える」という状況の中で許されることであり、世界的な水不足が海外の農業収穫にも影響を与えだした中、いつまでもこうしたことが続けられることはないでしょう。「地球温暖化→水不足→食糧不足」という図式を理解することが重要だと思います。

3.グローバリゼーションについて

 みなさん方はこのビジョンづくり委員会の第2ステージで「ダーウィンの悪夢」をご覧になりましたね。この映画は、フーベルト・ザウパー監督が制作したドキュメンタリー映画で、2006年のアカデミー賞ドキュメンタリー部門にノミネートされた作品です。東アフリカにあるビクトリア湖というアフリカ最大の淡水湖(びわ湖の100倍)が舞台です。かつてこの湖は、多様な生物が棲む生態系の宝庫であり「ダーウィンの箱庭」と呼ばれていました。しかし半世紀ほど前に放流された外来魚ナイルパーチが、他の魚を駆逐していき、それと同時に湖畔では、ナイルパーチの一大漁業産業が発展。加工された魚は、毎日のように飛行機でヨーロッパや日本へ運ばれていく。グローバル経済が引き起こす現実を描き出した映画です。正直なところ気が滅入ってくるような深刻な映像が次々と紹介されます。貧富の格差の拡大、売春、エイズ、ストリートチルドレン、一時間半のこの映画を見終えたあとはため息しか出ません。
 私は「あること」に気づき考えてもらうために環境教育の中でこのDVDを活用しています。「あること」とは「グローバリゼーション」と「つながり」という点です。
  実は、この映画はアカデミー賞にノミネートされるなど優れた作品として高い評価を受けているのですが、その反面、非常に偏った見方であるという批判も受けています。しかし、監督であるザウパー氏はインタビューの中で、「観客に考察の場を与える」、「知識と理解の違いを知ってほしい」と語っています。ナイルパーチはあくまでも一例であり、ダイヤや金、パソコンや携帯電話に使われるレアメタルなどの鉱山開発等々、私たちの身の回りにある多くのものが同様の問題を抱えていると言えます。食材として加工されたナイルパーチを運ぶ巨大な貨物機は、その多くが往路にアフリカ内戦に使う武器や弾薬を運んでいる疑いをもたれています。
 映画の中でロシア人パイロットが「ヨーロッパの子どもたちはアフリカ産のブドウをクリスマスプレゼントにもらい、アフリカの子どもたちは武器や弾薬をもらう」と語っていたシーンは印象的でしたね。
 みなさん方がこの映画を観た感想文のコピーを、先日、事務局からいただき読ませていただきました。「映画を観てどのように感じたか?」と「何かあなたにできることはありますか?」という二つの設問への答えをみなさんの書かれた原文から抜粋してみました。

自分が何気なく生活している裏側でこういった現状があることは目を背けたい事実であるが、この事実を心の片隅に置いておき、今後、今回のような事例や問題をテレビ、新聞で耳にすることがあれば目を背けず、興味を持っていくことがまず第一歩であると思う。
日々食べている輸入品の背景には少なからず同様な問題が起こっていることに気づかされた。このとき自分自身が無知であることに気がついた。普段の生活の中で外国産の食品が安くて利用しているが、その背景で発展途上国では食べることに困っている人がいることが想像できる。そのことをほとんどの日本人、先進国の人々は知らないのだろう。先ずは、人々が発展途上国の現状を知ることが必要だと思った。その上で対策をみんなで考えて行きたい。
自分自身知りえたことを誰かに伝えていって広めることが、今自分にできる意味のあることだと思った。「先ずは知ってもらいたい」の意味が感想を書く中で理解できた。
この映画で描かれた問題は生態系の破壊、南北問題、貧困、病気、紛争など様々です。そしてその根底にあるのは「人間のエゴ」だと感じました。
この映画に描かれている問題に対して、私たちが直接的に解決できることはゼロに近いのではないかと思います。医者でもなければ国連や政府関係者でもありません。しかし、一人の人間として間接的にできることはあります。それは「知る」「伝える」「考える」ことだと思います。まずは現実を知ったということに大きな意義がありました。この映画を見る機会がなければ、世界で起きている様々な問題について知ることもありませんでした。
自分たちの基準に貧困に苦しんでいる人たちの生活水準を向上できるよう支援することが、難しい問題ではあるけれどこの問題を直視できるようになる近道ではないかと考えました。
私個人でできることという観点から考えると、自分が食べているものはどういう経路を経て食べるに至っているか、原産地の国ってどんなところなんだろうか? どんな人柄や文化をもった人たちがいるんだろうか?といった現地の人々や国の文化のことを理解できるようにするのが第一歩になると考えました。
この映画の中には様々な問題提起がなされていたが、その中でも一番強く感じたのは南北問題であった。我々日本を含めた先進国が南北問題解決の一助としている支援(お金)も、安い白身魚の輸入といった形で結局は先進国のために行われているのだと感じた。
食料自給率が40%程度の我が国において、口にするほとんどのものが世界中でこのような状況の中で作りだされているものだと考えると、食品廃棄物を毎年何万トンと出している我々の生活をひどく反省した。
やはり食も経済も環境も循環利用できる社会が望まれており、またそうでないと今後人は存在できないのだと改めて感じた。


映画の中でもあったように衛生環境の悪化が病気の蔓延につながっていることもあきらかであったため、我々の仕事そのものがこの映画に出てくるような人たちの手助けをできれば素晴らしいことだと思う。もし機会があれば、自分も役に立ちたいと思った。
世界で起こっている「現実」を知る事しかできないと感じた。「最も危険な事は、“無知”である」この言葉がとても印象に残った。「何をすべきなのか」を常に自分に問いかける事が、今の私にできる事だと思う。
4秒に1人飢えによって命を落としているという統計や年間200万人がエイズで亡くなっているという統計上の数字では実感しにくい危機的な現場の空気が伝わってきた。
今、世界が抱える問題の深さや本質をきちんと理解していく努力が必要だと感じた。
ストリートチルドレンが一杯のご飯を巡って殴り合ったり、空腹や暴力を忘れるために、ビニールを燃やした有毒ガスを吸い、路上で寝崩れる小さな子どものシーンは見ていられませんでした。でも見るべきです。見なければならないと思います。現実から目を背けたくなる場面は多々ありました。それでも「観て良かった」と、心の底から感じるのは、この映画の持つ力なのだと感じます。
教育の必要性も感じました。ご飯をめぐって殴りあっている子どもたちは、そう生きるしか選択肢がなかったからそうしているだけで望んでそうなったわけでは当然ありません。そこで周辺環境整備と同時に教育を行うことでその子どもたちに様々な選択肢や可能性を与え、資本の力だけでなく自分たちで解決する道を模索できる状態になれば、それが理想系だと考えます。今後も、これら数多くの問題の解決策として何ができるか考え続けます。それが今の自分にできることです。
先進国の国々がよほど現在の生活を変えなければこの問題を解決するのは難しい。たまたま、今回の映画はナイルパーチに着目しているが、日本が海外から輸出している他の食物や鉱物等の資源についてもこの映画と同様、場合によってはこれ以上のことが起こっている可能性がある。自分たちの快適な生活が成り立つ陰には非常に多くの人々の代償の上に成り立っているということを認識した。
現代では、何かにつけて経済のグローバル化が提唱されているが、それは、更なる拡大を狙う、勝者の保身の為のような経済だと思う。今回のナイルパーチの話は、エスカレートしたグローバル経済によって、地域レベルで上手に循環していたシステムが壊れていく悲劇の一例であると、個人的には受け止めた。
自分の仕事や会社全体が、社会にどのような影響を与えているかについて、頭の隅において日々の仕事に携わっていく事が、僅かながらでもこうした悲劇を回避できる要因になるような気がする。
将来の社会を担うであろう子どもたちが世界に絶望している社会に明るい未来などない。映画の後半で白人の操縦士が武器を移送したことを告白する場面で「子どものために何を……」とあったと思うが、やはり大人が子どもを守ってこそ健全な社会であろう。
今、こうして日本で何不自由なく過ごせることに感謝したい。

 様々な観点での意見が出されています。かつて「グローバリゼーション」という言葉は、豊かさの広がりを意味する言葉として使われてきましたが、その一方で様々なひずみを生み出すことになりました。世界的に有名な環境学者でアースポリシー研究所長のレスター・ブラウン氏は、環境問題解決の難しさについて「移動の自由を守ろうとする8億人の自動車保有者と、生き延びることだけを願っている20億人との戦いである。」と語っています。ここでもう一度ザウパー氏の「知識と理解の違い」という言葉を思い出してください。

4.環境と自分の関係
 ここまで、温暖化の現実、環境問題とは、そしてその問題がグローバルなつながりを持っているという点について勉強してきました。次に、「環境と自分の関係」ということについて話をします。
 「環境」という言葉を国語辞典で調べると「環境とは、あるものをとりまいている外界、周囲」と書いています。
 この「あるもの」とは何でしょう? 一度、「自分自身」という言葉を当てはめてみてください。「自分自身をとりまいている外界、周囲」となります。「環境問題」は、「自分自身をとりまいている外界、周囲で起こっている問題」となります。ではその問題をどのように解決していくのか。自分の周りで起こっていることを他人のせいにせず、自分自身の問題であると考える。自分自身と環境が一体であるととらえ、一人の人間がどのように考え行動するかが環境そのものを変えていくという考え方に立つことが重要であると私は考えています。そういう意味で、「環境問題」解決のキーワードは「一人立つ精神」であると思います。利益を追い求め資源の乱開発を行い環境破壊を行う。その背景にはより豊かな生活をしたいという人間の限りない欲求があります。環境問題の本質的な原因は、人間が持っている欲望の三要素とも言える、貪り(むさぼり)、瞋り(いかり)、癡か(おろか)にあるのではないでしょうか。
 では、どのようにして解決していくのか。米国の経済学者ガルブレイス博士は次のように語っています。「世界のために純粋に良いことができると信じる者は、そうでない者よりも、断然努力する。楽観主義、積極的な考え方、前向きな姿勢、そしてダイナミックな性格は、積極的で建設的な市民になるための必須条件である。」何とかしてみせるぞという勇気ある楽観主義が大事だと言っています。
 「もったいない」という言葉で有名になったノーベル平和賞を受賞したケニアのワンガリ・マータイ博士は、「『未来』は『今』にあるのです。将来、実現したい何かがあるのなら、今、そのために行動しなければなりません。」と語っています。冒頭ご紹介した枝廣さんの言葉、「その選択肢は私たち一人ひとりの手の中にあるのです。」を思い出してください。未来の子どもたちのために今、行動を起こさなければなりません。
  何ごともまず「ひとりの本気」から始まります。「一人立てば二人が続く、二人立てば……。」あるグループで何か新しいことを始めようとした場合、「一人立つ」とは言いますが、現実的には構成員の1%が決意しても組織全体は動きません。5%ぐらいで少し兆しが見え始め、構成員の10%が本気なったら組織全体が動き始めます。
 みなさんの組合では、このビジョンづくり委員会のメンバーが「本気の一人」になれば必ず社会に役立つ活動が始まると思います。
 ここまで、第1部として「『環境問題』とは何か」についてお話ししてきましたが、第1部の締めくくりに「地球29日目の恐怖」という話をさせていただきます。
 ある池にハスの葉が1枚浮かんでいます。そのハスの葉は1日で2倍になるとします。1日目は葉が1枚で、次の日には葉が2枚、3日目には葉が4枚という具合に葉が増えていくのです。そして、ひと月後に池の表面はハスの葉で一杯に埋め尽くされるとします。仮にひと月を30日とすると、前日、つまり29日目の池の様子はどのようになっていると思いますか? ハスの葉1枚分を残してすべて葉で埋まっている?大部分が葉で覆われている? 答えは、池の半分がハスの葉で覆われている状態です。そして翌日には、池はハスの葉ですべて埋め尽くされてしまうのです。この、前日の半分の状態を「まだ半分も残っている」と感じるか、「もう半分も覆われた」と感じるかが、大きな違いなのです。現在の地球環境は、まさに「29日目」の状態なのかもしれません。


労働組合がなぜ「社会貢献活動」を
行うのか

1.企業の社会的責任(CSR)における労働組合の役割について

 労働組合の社会貢献活動における役割、ミッションについて、まず考えてみたいと思います。本日はビジョンづくり委員会のメンバーと執行部の方が参加されていて、今さらお話しするまでもないことだと思いますが、私自身が労働組合役員として現役時代に取り組んできた経験も踏まえ、みなさんの先輩として少しお話しさせていただきたいと思います。
 労働組合のミッションは、「雇用の確保」と「労働条件の維持向上」の2つだと思います。この2つは労働組合法第1条に定められた「労働協約の締結」に関わる部分ですが、法律が制定された時代から社会情勢が大きく変わった現在でも、労働組合の普遍的なミッションであることは間違いありません。しかし、労働組合には「勤労者の集団」としてもっと大きな力と可能性があると思います。また、どちらかというと対立軸を挟んだ立場をとりがちな会社との関係についても、「労使共生」という観点からはお互いの立場を踏まえて協力すれば、社会に大きく貢献できる可能性があります。
 では、「社会貢献」とはどういう意味でしょうか。私なりに整理をしてみると、次のようになりました。

社会貢献とは
・社会の課題に気づき
・自発的にその課題に取り組み
・直接の対価を求めることなく
・自らの資源を投入すること

 また、この活動を通じて人財育成が図られ、労働組合の場合であれば「組織強化」につながっていくことになります。

会社と組合のタテ軸とヨコ軸の関係
 実はこの図は、私がこの「ビジョンづくり委員会」を始めたときに、「なぜ労働組合がセミナーを開くなどの教育を行うのか?」、「なぜ労働組合がボランティア活動や国際交流に力を入れるのか?」などについての考え方を整理するために書いたものです。
 図−1をご覧ください。あらゆる組織・集団にとって次代を担う青年層の育成は最も重要なことです。逆に言うと「青年を大切に育てない組織の未来はない」と言っても過言ではないでしょう。組織にとって「財」(たから)である人を育てるために、会社は技能教育、OJTなどで教え育てる「教育」をタテ軸で、組合は活動を通じて共に育つ「共育」をヨコ軸で行う。そうすると真ん中の45度のところに「人財育成」の線が太く延びる。
 図−2は、「企業の社会的責任」での会社と組合の関係を示したものです。会社は自社の製品や技術、サービスによってその責任を果たす。一方、組合はヨコ軸をぐっと伸ばすと社会との接点につながります。この双方がしっかりして、45度のところに「企業の社会的責任」という太い線が延びていく。もちろんこの簡単な図式だけは説明の付かないこともあるでしょうが、社会貢献活動に対しては、会社には会社としての関わり方、組合には組合としての関わり方があるということです。

会社と組合のタテ軸とヨコ軸の関係 2004年3月 関谷記

図−1

図−2

2.労働組合は国内最大のNPO

 第5期ビジョンづくり委員会のテーマは「環境活動を通じて私たちができる社会貢献を!」ですが、冒頭からお話ししているように、大きなテーマは地球温暖化防止に向けた「環境活動」の重要性であります。報告を聞かれたと思いますが、神鋼連合の「社会貢献活動調査研究会」では様々な環境活動を行っているNPOの事例を学びながら、神鋼連合としての環境活動の可能性について調査しました。
 「NPO(NonProfit Organization)」とは、ボランティア活動などの社会貢献活動を行う、営利を目的としない団体の総称です。法人格の有無を問わず、様々な分野(福祉、教育・文化、まちづくり、環境、国際協力など)で、社会の多様化したニーズに応える重要な役割を果たすことが期待されています。NPOの定義として、次の5点があります。

NPOの定義
@利潤を分配しないこと(not profit Distributing)
A非政府(nongovernmental,private)、つまり政府の一部分でないこと
Bフォーマル(formal)であること
C自己統治(self-governing)していること
D自発性(voluntary)の要素があること

 では、「労働組合」はどうでしょうか。定義すると「その目的を支持する人々(組合員)」から「組合費」という会費を徴収し、「責任を持って活動する団体」と言えます。この定義から考えると「労働組合」も立派な「NPO」であると思います。国内には現在、3万を超えるNPOがありますが、その大半は数人規模の小さな団体です。規模から考えると労働組合は国内最大のNPOだと言えるかもしれません。
 では「その目的」とは何でしょうか。「労働組合のNPO」として私は次のように定義してみました。

労働組合のNPO
  N …… 人間主義で
  P …… ピースフルで
  O …… オープンな組織

 最初の「N」は、大げさな言い方ですが、「人間主義」です。「人」を中心にする。一人ひとりを大切に。労働組合の基本です。「P」は、ピースフル、「平和」です。組織対組織でも、人と人でも平和的に問題解決を図る。これも基本ですね。そして「O」は、オープンな組織であるということです。神鋼環境ソリューション労働組合の活動に参加する3つの合い言葉は「ためになる、元気になる、友だちができる」ですね。神鋼環境ソリューション労働組合の理念を元に、こうした考え方で、「社会貢献活動」に取り組むと、想像もしないような社会から評価される活動ができるのではと私は思っています。

3.「行動」に移すための三角とマル

  次に「理念」を「行動」に移すために知っていてほしい考え方について説明します。まず図−3の左側の三角ですが、まず「理念」と「ビジョン」があってその上に、戦略を描き、計画を立てる。「ビジョン」を描くことが大切です。「ビジョン」なき「戦略」も「計画」もあり得ません。
  右側の3つのマルは、何を「行動」するのかを決めるための考え方を表したものです。「したいこと」と「できること」と「社会が求めていること」の3つのマルが重なり合った部分が「行動」する「何か」になります。世の中では、社会から求められていることではなく、自分たちが「できること」と「やりたいこと」だけで活動の内容を決めてしまっているケースが多々あります。まずは「社会が求めていることは何か」を幅広く知ることが大切だと思います。このビジョンづくり委員会では、「社会が求めていることは?」が何かを様々な視点で「知る」ことが重要だと思います。

4.パートナーシップによる可能性

 ここまで、いろいろな事例も踏まえて「社会貢献活動」について考えていただきましたが、大事なポイントは「自らが汗をかくことだけが社会貢献ではない」ということです。労働組合にNPO的な可能性があるとは言っても、問題解決の現場にずっと人を貼り付けることは不可能ですし、無理をしても長続きはしません。私は一つのイメージとして、労働組合の持てる力の10%を社会貢献活動に投入していただきたいと思います。それだけでも極めて大きな役割を果たすことができると思います。
 そこで重要なことが「パートナーシップ」です。「協働」とも言えます。世の中では、企業とNPOのパートナーシップとして、企業が資金面での援助を行うという形があります。労働組合はこの例でいうNPOの活動を寄付などにより応援する側にもなれますし、既に活動を行っているNPOなどと一緒に活動を行うことや、自らがNPOのように活動の主体者になることもできます。例えば、神鋼環境ソリューション労働組合が、「世界の子どもにワクチンを……日本委員会」(JCV)の応援を行うために、ご家族なども巻き込んでプルトップの回収を行っているのは、寄付型のパートナーシップの一例です。みなさんの行動は「プルトップを集めてお金を作る」で、JCVはこのお金を使って開発途上国の子どもたちへのワクチン接種を行う。目的と手段は一見異なりますが成果はきちんと出ています。さらに、神鋼鋼線工業労組がまずこの活動に賛同し、今では神鋼連合の各組識へ活動の輪が広がってきています。また、みなさん方がお隣の神鋼病院労働組合と周辺の清掃活動を行っている「クリーンマンデー」は、神鋼連合内でのパートナーシップの一例だと思います。パートナーシップには、組合と会社、組合と組合、そして組合とNPOなどの活動団体、と多様な組み合わせが可能です。私が現在所属している(財)ひょうご環境創造協会も、自らが様々な環境創造事業を行っていますが、「中間支援組織」としてパートナーシップによる活動の推進を図ることも重要な役割です。
 ようするに「社会が求めていること」を実現するためにはどうしたら良いのかということを知恵を出してネットワークを広げて取り組むことが大切だということです。自分たちが「したいこと」と「できること」だけを積み上げて何を行うのかを決めるのではなく、ぜひあらゆる可能性についてポジティブに検討し方向性を見つけていただきたいと願っています。

「行動」を決定するための三角とマル 2009年3月 関谷・小川記

図−3

5.「Think globally Act locally」と 「Think locally Act globally」

 本日のタイトルは、「Think globally Act locally」。「地球規模で考え、地域で行動する」ですね。環境活動を行う上で大切な考え方ですが、その反対の「Think locally Act globally」という考え方も同じように大切です。
  私は、昨年の10月に協会の職員として中国に出張しました。上海市で開催された第8回世界閉鎖性海域環境保全会議に出席することと、香港の環境問題を調査するために出張しました。香港はニューヨーク、ロンドンと並ぶ金融、経済の拠点都市として著しく発展してきました。海外の駐在員も家族と共に多く住んでいるのですが、近年、深刻な大気汚染により、駐在員の子どもたちに喘息が発生するなど「生活をする」という点では厳しい状態となっています。多くの外国駐在員は家族の生活の場所をシンガポールに移し、仕事だけは香港でという形をとっていたのですが最近は、ビジネス拠点そのものを香港からシンガポールに移す企業が増えてきたそうです。ご承知の通り香港は小さな都市で、香港には環境汚染の原因となる工場などはありません。隣接する広東省の工場がその排出源であり、香港政府と広東省はこうした事態を受け止めて様々な環境規制を強化するとともに莫大な予算を投入して珠江デルタ地域の環境対策に取り組んでいます。中国の環境汚染は、黄砂などにより日本にもその影響が出ていますね。
 我が国が戦後の高度成長期に経験した「公害問題」と同じことが、開発途上国で頻発しているのが世界の現状です。
 みなさん方が交流活動を行っている、大自然豊かな「草原の国」と呼ばれるモンゴルでも環境問題は深刻な状態となっています。唯一の大都市であるウランバートル市では、大気汚染、水質汚染、ゴミ問題と典型的な都市型の環境問題が発生しています。またみなさんが図書贈呈を行っているオブス県など遊牧民が主体となった地方でも、ペットボトル、ビニール袋、空き缶等々、自然に戻らないゴミが草原のあちらこちらに散乱しだしています。そしてここ数年、モンゴルで最大の環境汚染として問題となっているのは鉱物資源開発です。モンゴルの大地には、金、銅、モリブデン、ウラン、石炭など様々な鉱物資源があります。十分な環境対策がとられないまま採掘と精製が行われ、周辺での水質汚染や土壌汚染などにより、家畜や人体への影響が深刻視されています。私は創造協会でモンゴル森林再生プロジェクトの担当をしていますが、最近は、本来の事業である山火事跡地での再植林だけに留まらず、ウランバートル市民や子どもたちに対する環境教育などの啓発活動に対しても大きな期待が出てきています。JICAや日本大使館などもこうした活動に積極的に取り組みだし、「環境」を通じた日本国民との交流も求められています。
 神鋼連合の社会貢献活動調査研究会で、三田市での里山保全活動や石垣島での環境調査の指導をしていただいた、創造協会の今西参事は、NPO法人「野生生物を調査研究する会」での里山保全や生物調査などに加えて、ブラジルの地方都市でアグロフォレストリーの取り組みをしています。単に植林をするのではなく、実のなる木や成長の早い木などバランスを考えた植林を行い、植林が農業として地域住民の現金収入に繋がるような持続性のある活動を推進しています。このことによって住民が定住し経済基盤の安定した集落ができてきます。しかし、その一方で新たな問題も起こっています。それは生活排水による河川の汚染です。今西参事は新しいテーマとして集落での排水処理、つまり下水処理を普及させることを考えています。
 このように身の回りで起こっていることと、世界各地で起こっていることは基本的には同質であるということです。世界をみて地域で行動する。地域をみて世界で行動する。労働組合として行う社会貢献活動は、人を育てることをベースに「ためになって、元気になって、友だちができる」、こんな活動を企画することが大切だと思います。そしてそのことが仕事の分野においても次代を担う「人財」を排出していくことになると思います。

6.「環境ソリューション」とは

 「ソリューション」とは「解決する」という意味です。問題を解決するためには、まず問題そのものを「発見」する力と、その解決の方法を「創造」する力が必要です。内藤克人という評論家はその著書である「環境知性の時代」の中で、企業が「環境の世紀」を生き抜き、成長していけるか否かは、「環境知性」を備えた人材をいかに確保できるかにかかっていると述べています。そして企業人として求められる「環境知性」四か条を記しています。

企業人として求められる「環境知性」四か条
  @ 生態系の視点、地球温暖化の視点を持つ
  A 環境に配慮した活動を「実践できる」
  B 環境問題の重要性を広く「伝えられる」
  C 環境知識を「経済的価値」に結び付けられる

 これは、「環境」をビジネスとする企業だけではなく、21世紀を生き抜く企業すべてに求められる人財像です。「環境ソリューション」を社名に冠した会社で働くみなさんには、この四か条はもちろんのこと、これに加えて先ほどお話しした「発見する力」と「創造する力」が求められるのではないでしょうか。10年先、20年先、さらには30年先に今と同じメニューでビジネスが続くことはないでしょう。「環境ソリューション企業」として社会に役立つ仕事を続けていくためには、若いみなさん方の新しい力が必要です。労働組合の活動の中で、こんなことをワイワイガヤガヤと議論しながら「社会貢献活動」にぜひ取り組んでみてください。そしてその時は前段でお話しした3つのマル。「やりたいこと」、「できること」、「社会が求めていること」を忘れないようにしてください。
 私自身も出向期間を終えれば会社に復帰し、みなさんと一緒に仕事をすることになりますが、環境で社会に役立つ仕事をライフワークとして頑張りたいと考えています。本日は長時間、ご静聴ありがとうございました。ビジョンづくり委員会のみなさんのますますのご活躍を心から祈念しています。
以 上